本地域における段丘面に関する報告は、中川ほか(1963a、b)や斉藤(1978)などがあるが、渡辺(1991)によって新しい知見が加えられ、まとめられた。本調査においては、段丘面を10段に区分した。高位からHT、HU、HV、MT、MU、MV、LT、LU、LVおよびA段丘面と呼ぶ(表4−1)。HT段丘面は金ヶ崎町の千貫石・橇引沢溜池周辺〜天狗森〜胆沢川にかけて、HU段丘面は金ヶ崎町の栗駒ゴルフ場〜永沢川にかけて、HV段丘面は衣川村を流れる北股川の北方に分布する。MT段丘面は胆沢町山形地区〜下狼ヶ志田にかけて、MU段丘面は同町丑転〜伊勢堂にかけて、MT段丘面は金ヶ崎町上原 」・下原、鳥ノ海と胆沢町宮沢原〜高橋にかけてそれぞれ分布する。LT段丘面は金ヶ崎町下足の口〜金ヶ崎ゴルフ場にかけてと胆沢町下十文字〜滑志田にかけて分布し、LU、LVおよびA段丘面は夏油川、永沢川、胆沢川などの河川沿いに分布する。渡辺(1991)の報告と対比したところ、HTは約29〜31万年前、HUは21〜23万年前、HVは約15万年前、MVは約8〜9万年前、LTは約5〜6万年前、LUは約2万年前、A段丘面は約3千年前にそれぞれ形成が終了したものと考えられる。
夏油川〜永沢川間では、変位地形と考えられる特異な地形分布および段丘面の変形が判読された。金ヶ崎町の千貫石・橇引沢溜池のダム軸〜天狗森にいたる丘陵は、その両側が低所となっており、地塁状の高まりとなっている。金ヶ崎町駒丘、大沢〜永沢川にかけてはHT、HU、MV段丘面上に南北方向の並行する撓曲崖が2〜6条みられる。撓曲崖の比高はHT段丘面上で20m、MV段丘面上で10m程度である。それらの一部は鳥の海〜二ツ谷のLU段丘面上にも連続し、段丘面を数m程度撓曲変形させているが、確実なもの(Bランク)は2条だけである。
胆沢川以南では、胆沢町出店〜南台にかけて南北方向の撓曲崖が判読される。撓曲崖はLU段丘面上で5m弱、MV段丘面上で約20mの比高を持つ。撓曲崖は南台以南では南東方向へ向きが変わり、胆沢町外浦の万内堤南方へ連続する。撓曲崖の比高はHVおよびMT段丘面上で約10m程で、胆沢町出店〜南台にかけてみられる変位量とは整合的ではない。万内堤南方では比高を減じ、不明瞭となる。
MV段丘面形成終了が8〜9万年前であること、空中写真判読で認められた撓曲崖の比高を用いると、永沢川以北で0.1m/1000年、胆沢川〜南台で0.2m/1000年、南台以南で0.1m/1000年弱の変位速度が推定される。