・渡辺満久(1989)
北上低地帯の分化様式と断層運動.地理学評論、62A−10、734−749.
<要約>
内陸盆地の形成に関わってきた地殻変動の特徴を明らかにするため、まず北上低地帯全域の活断層分布図を提示し、活断層の特徴をもとに北上低地帯を、北部(盛岡〜日詰)、中央部(日詰〜花巻)、南部(花巻〜水沢)の3地域に区分した。さらに比抵抗法を用い第四系基底面高度を求め、基底面の地質構造と各断層の活動形態から、Outer−type・奥羽山地から東(外帯)へ傾く、Inner−type・奥羽山地から西(内帯)に傾く、という2つのtype分類をおこない、断層運動のモデル化を試みた。モデル化された断層運動によって生じる変位パターンと実際の構造を比較した。その結果、I−typeは断層面に沿う変位量があまり小さくなることなく、地下深部から地表面までを断ち切るような顕著な断層活動の存在を指摘し、このtypeは北上低地帯中央部に卓越するとした。O−typeは、変位量の大きい主断層が地下深部にあり、地表付近の断層は主断層から派生している高角の副断層であるとし、このtypeを北上低地帯北部と南部に当てはめた。
・渡辺満久(1991)
北上低地帯における河成段丘面の編年および後期更新世における岩屑供給.第四紀研究、30−1、19−42.
<要約>
これまで行われていなかった北上低地帯全域(盛岡〜水沢)にわたる河成段丘面の対比・編年をAso−4・Toyaといった広域火山灰を用いて行い、さらに最終間氷期極相期以降の岩屑供給量の変遷について検討を行った。北上低地帯全域の段丘分類図を提示し、指標テフラの記載を行った。段丘面は高位からT面群、H面群、M面群、L面群に区分し、段丘上に載っている火山灰とそのフィッショントラック年代から段丘面の形成年代を推定した。
T1面はO3p以上の火山灰を載せ450ka、T2面はA3p〜A2p以上の火山灰を載せ290〜310ka、T3面はH2p〜H1p以上の火山灰を載せ210〜230kaの年代が得られた。H1面はToya直下の火山灰以上を載せ、150kaの年代と推定されたが、H2面については年代推定の根拠となる試料は得られなかった。M1面についてはKta以上の火山灰を載せ80〜90ka、M2面については段丘面の対比から50〜60kaと推定された。L1面はKp以上の火山灰を載せ、さらに放射性炭素年代測定により20ka、L2面も同様に3ka形成年代としている。
・渡辺満久(1990)
活動時期の違いに基づく活断層詳細図の表現 −テフロクロノロジーからみた北上低地西縁活断層群(南半分)の例−.活断層研究、8、71−79.
<要約>
北上低地帯西縁断層群は並行する複数の断層線からなるが、すべてが同時代に活動したわけではない。本研究は、北上低地帯西縁断層群の南半分について、それぞれ断層線を活動時期よって分類・表示するものである。
本地域の断層群は、@80〜100ka以前に活動を終えたもの(M断層と略す)、A20〜30ka以前に活動を終えたもの(L断層と略す)、Bそれ以降も活動が続くもの(R断層と略す)の3タイプに区分できる。詳細図には断層であることの確実度も併せて表示した。詳細図を概観すると、山麓にM断層があり、山麓から離れるに従ってL断層、R断層と、より新しい時代に活動している断層が現れていることがわかる。これについて妥当な説明はまだなされていない。
・斎藤享治(1978)
岩手県胆沢川流域における段丘形成.地理学評論、51、852−863.
<要約>
胆沢川流域の段丘面区分を行い、段丘面区分図を提示した。段丘面は高位から首坂段丘面、上野原段丘面、横道段丘面、堀切段丘面、福原段丘面、水沢高位段丘面、水沢低位段丘面に区分した。さらに胆沢川上流の山間部の段丘を、T面、U面、V面、下嵐江段丘に区分した。その上で段丘堆積物および現河床の礫径、礫種分析を行い岩屑の供給・運搬からみた段丘形成を論じた。
水沢高位段丘面の年代は阿子島(1968)が花泉段丘に対比して得られた35000〜21430y.B.Pとしている。
活断層研究会(1991)新編「日本の活断層−分布図と資料」.東大出版会,437p.
<要約>
北上低地西縁断層帯系は秋田、盛岡、一関、新庄の図幅にまたがっている長大な断層群である。以下に本報告書の対象に含まれる断層について簡単に記載する。
・法量野−浦沢断層は確実度T、活動度B、延長3.5km、丘陵斜面に50m程度の高度不連続が見られ、2万年前に形成された扇状地を5m変位させている断層である。平均変位速度は約0.2m/1000年である。
・鉢森山東断層は確実度T、活動度B、延長13km、鞍部の直線的配列が見られ、20〜30万年前に形成された開析扇状地を20〜30m程度変位させている断層である。平均変位速度は約0.1m/1000年である。
・細野北方断層は確実度T、活動度B、延長2km、丘陵内に地塁状の高まりを形成している断層である。
・瀬峰断層は確実度T、活動度B、延長1km、2万年前に形成された扇状地を5m変位させている断層である。平均変位速度は約0.2m/1000年である。
・橇引沢断層は確実度T、活動度B、延長4.6km、20〜30万年前に形成された開析扇状地を40m変位させている断層である。平均変位速度は約0.1〜0.2m/1000年である。
・潤沢断層は確実度T、活動度B、延長4km、地塁状の高まりが見られ、20〜30万年前に形成された開析扇状地を20〜40m程度変位させている断層である。平均変位速度は約0.1m/1000年である。
・天狗森断層は確実度T、活動度C〜B、延長4km、20〜30万年前に形成された開析扇状地を40m程度変位させている断層である。平均変位速度は約0.1〜0.2m/1000年である。
・野崎断層は確実度T、活動度C、延長3.5km、20〜30万年前に形成された開析扇状地を10〜20m程度、9〜10万年前に形成された段丘面を5〜10m程度変形させている断層で、平均変位速度は約0.05〜0.1m/1000年である。
・出店断層は確実度T、活動度B、延長4km、段丘面上に低断層崖が見られる。10万年前に形成された段丘面を約10m、2万年前に形成された段丘面を約3m変位させている断層である。平均変位速度は約0.1m/1000年である。
大上和良・吉田 充(1984)
北上川中流域・胆沢扇状地における火山灰層序.岩手大学工学部研究報告.137,69−81.
<要約>
段丘の発達のよい胆沢扇状地は、西方に焼石岳をはじめとする火山から供給された火山灰層が厚く堆積する。この地域の火山灰層序を確立し、各火山灰および鍵層の記載を行った。
火山灰層は下位より永栄火山灰、一首坂火山灰、前沢火山灰、黒沢尻火山灰に区分し、鍵層を入れた模式柱状図を提示した。しかし広域火山灰について言及はない。また年代測定値の記載がない。
段丘は大歩段丘、一首坂段丘、西根段丘、胆沢段丘、水沢段丘、低位段丘に区分している。柱状図には水沢段丘の年代は19560±540y.B.Pと記載されているが、出典は不明である。
大石雅之・吉田裕生(1995)
北上低地帯,胆沢扇状地付近に分布する中・下部更新統百岡層(新称)のフィッション・トラック年代.地質学雑誌,101,825−828.
<要約>
胆沢扇状地の段丘堆積物の基盤をなす地層を百岡層と新称し、その層序学的検討と年代資料を測定した。
水沢市佐倉河字水ノ口付近の胆沢川右岸の百岡層中部の凝灰岩層最下部のフィッショントラック年代は1.0±0.3Ma、0.64±0.20Maで、前期〜中期更新世を示す。
大石雅之・吉田裕生・金 光男・柳沢幸夫・杉山了三(1996)
北上低地帯西縁に分布する鮮新・更新統の地質と年代:いわゆる”本畑層”の再検討.地質学雑誌,102,330−345.
<要約>
北上低地西縁の和賀川から夏油川の間の地質図を提示し、その層序学的考察、フィッショントラック年代、珪藻化石、花粉化石等を用い考察を行った。その結果、従来鮮新統とされてきた本畑層の年代が後期更新世から前期更新世にわたるとした。その根拠として本畑層瀬見温泉凝灰岩のうち火砕流堆積物のフィッショントラック年代は1.2±0.2Ma、萱刈場層中の安山岩から0.90±0.10Ma、0.96±0.11MaのK−Ar年代値を提示した。
段丘堆積物の基底をなす地層の堆積年代が明らかになれば、北上低地帯の形成に関わる構造の活動履歴を詳細にとらえることができるとしている。
照井一明・佐藤利美・茂庭隆彦(1993)
岩手県花巻市西部で見いだされた活断層北湯口断層(新称)の新露頭について.地質学雑誌,99.65−68.
<要約>
工業団地に出現した断層露頭(花巻市北湯口県立総合教育センター南方500m)を提示し、命名した。露頭位置、断面図および写真を添付している。
北湯口断層は、「新編 日本の活断層」(1991)の盛岡図幅の14aと14gに挟まれた地域の断層で、渡辺(1989)による北上低地帯中央部に位置し、渡辺ほか(1991)のFAF1とされた断層に相当するとしている。
北湯口断層は条線から2回の断層運動が認められる。段丘礫層である日詰礫層を切っており、その変位量を23.5mと推定している。日詰礫層の上位に重なる前沢火山灰層最下部のH2Pを切っていることから、(前沢火山灰層中の鍵層HNIPのフィッショントラック年代12.29±1.51万年)形成時期を10数万〜1 万年前の間と推定している。
粟田泰夫・下川浩一・山崎晴雄(1988)
日本の活断層発掘調査[18] 1983年盛岡断層群・浦田断層(浦田地区)トレンチ調査.活断層研究,5,23−28.
<要約>
盛岡断層群中央部に位置する浦田断層(仮称)のトレンチ調査を行い、活動時期、変位量、年代を推定した。また断層の位置およびトレンチ展開図を提示した。
浦田断層は岩手県紫波町土舘字浦田に位置し、活断層研究会(1991)の盛岡図幅の14−c断層である。最新の活動時期は約4000〜7800y.B.P(放射性炭素年代測定による)、またこの断層運動に伴う上下変位量は、Z2断層で0.4m、Y2断層で1.4mと推定されている。断層活動時期は2回あったとされ、7800y.B.P以降にも断層活動があったことが推定されている。
渡辺満久・池田安隆・鈴木康弘・須貝俊彦(1993)
北上低地帯西縁の古地震と断層構造−花巻市西方、上平断層群のトレンチ調査−.地理学評論,67A,393−403.
<要約>
北上低地中央部西縁(北上低地西縁断層中央部)の上平断層群(活断層研究会、1991の14−g断層)のトレンチ調査を行い、変位量、断層活動年代、event発生時期(古地震)の推定を行った。
トレンチ掘削地点は、岩手県花巻市北湯口の畑地で、照井ほか(1993)の北湯口断層との関係は言及していない。しかし位置図から北湯口断層より東に位置すると推定され、活断層研究会(1991)の上平断層群中の14−gと一致する。またトレンチを掘削した断層の命名は行っていない。
トレンチ北西面のスケッチからeventは2回推定され、最新活動は約4000〜6000年前、一つ前の断層活動は約6000〜1万数千年前に発生したと推定した。最新の断層活動時のF1断層の上下変位量は0.8m、平均変速度は10−1/1000年のオーダーで、活動度B級の活断層である。この結果は粟田ほか(1988)と調和的である。