その結果、花巻断層帯と北上西断層帯の鉛直変位量はL段丘で4〜6mのものと10〜12mのものがあり、鉛直方向の平均変位速度(Sv )は、最小0.2 、最大0.6m/1000 年の範囲に入る。断層面の角度を30°と仮定してこれらから求められるネットスリップの平均変位速度(Sn )は、最小0.4 、最大1.2m/1000 年である。また、花巻市横森山におけるM段丘とHU段丘の鉛直変位量は>35m, >48mであり、これらの年代を15万年, 25万年とし、断層面角度を30°と仮定すると、平均変位速度(Sn )は(>35×2/15万年=>0.46m/1,000年)、(>48×2/25万年=>0.38m/1,000年) と計算され、それぞれ大きく矛盾しない。ただし、これらの値は北湯口トレンチF1断層で求めた値に比べてよりやや大きい。
なお、L段丘の形成年代については積極的根拠がないが、高村山荘裏の段丘堆積物から35,590±2460y.B.P.,>39,990y.B.P.という年代が得られている。
Nakata(1976)も地形学的調査から花巻断層帯と北上西断層帯における各種の地形面について変位量/年代を求めて、山地頂部の浸食小起伏面の比高400mを100万年でわって平均変位速度(Sv ): 0.4 m/1,000年という値を報告している。
また、F2断層については照井ほか(1993)が花巻市北湯口総合教育センター南方において断層露頭を確認し、日詰礫層を23.5m 変位させていると報告している。日詰礫層は水沢周辺の前沢火山灰最下部のH2P に覆われるとされており、H2P より上位のHn1PのFT年代(12.29±1.51万年)から、この断層の平均変位速度(Sv )は0.2m/1000年より小さいことになる。ただし、これは日詰礫層堆積以後、現在までこの断層が活動を継続している場合の数字であり、最近は活動していないとすれば平均変位速度(Sv )はさらに大きくなる。上記の論文に示された変位速度は鉛直成分だけを評価したものである。また、断層が活動を継続している場合の数字であり、断層活動の場の移動や低角な断層面上のネットスリップを考慮して換算すれば、本報告の値とほぼ調和する。