4−4 防災上の課題

3ヶ年にわたる調査により,文字による記録が残されるようになったここ千数百年間より前の時代にも金沢周辺で大きな地震が繰り返し発生していたことが,科学的証拠に基づき明らかになった.また,過去に県内に被害がもたらされた地震は,1586年から1998年までの413年間で少なくとも24回記録されており,平均すると17年に1回の高い頻度で発生していることになる.このうち12回(うち推定マグニチュード6.0以上は10回)は県内ないし近海を震源としており,平均すると34年に1回の頻度で発生している.とりわけ,1799年の金沢地震(推定マグニチュード6.0)では,金沢城内の多くの石垣や塀が崩れ,金沢城下では潰家26,損家4,169,損土蔵992,石川・河北両郡でも潰家964,損家1,003,損土蔵8の被害があり,人的にも死者15,けが人12の被害があったことが記録されている.この地震と活断層の活動との関係は必ずしも明らかではないが,地震災害は1回限りの偶発的なできごとではなく,このような地震は今後も繰り返して発生する可能性があると考えられる.今後はこの事実を踏まえて,予測される地震発生の危険性に応じた対策を行っていく必要がある.

一般的に,活断層の活動による地震は,千年〜万年単位の間隔で発生する事象であると考えられているが,地震が発生する場所は活断層の直近に限られているわけではない.また,地表に描かれた活断層の線そのものは震源になるわけではなく,地下深いところにある岩盤が震源となることから,大地震のゆれは広い範囲に及ぶ.構造物が大きな被害を受けるかどうかは,地表の活断層の線の直近にあるかということよりも建物が基礎を置く地盤の善し悪しに大きく左右される.したがって,活断層の直近のみに特別な対策を行うのではなく,周辺の地域についても地盤の状況をよく理解し,ゆれの大きさや液状化のしやすさなど,予想される災害特性に応じて建物の耐震化や地盤改良などの対策を行っていくことが重要である.

石川県では,日本海と内陸の活断層近辺で発生が予想される大地震を想定して被害想定を行っている.しかし,地震発生のメカニズムについてはまだ解明されていない点も多い.また,地下浅部で発生するマグニチュード6クラスの内陸性地震では,断層による変形が地表面に現れることが少なく,現在の活断層調査手法では発生状況を把握することは困難である.森本・富樫断層帯の活動性の詳細についてはまだ解明されていない点も残されており,今後さらに情報を蓄積していくことが望ましい.

現在の科学レベルでは,地震の完全な予知は困難である.地震災害から身を守るには,日頃から地震や津波,活断層に関する情報に注意し,これらについて正しい知識を身につけておく必要がある.また,防災意識を高揚し,防災行動力を強化することによって,災害時の自発的対応力を高めることができる.

地震はいつ起きるかわかりません.「いつ地震が起きても大丈夫」という心の備えが,地震災害を軽減するためには最も重要である.