(3)観察結果

@トレンチ壁面に現れた地層の記載

トレンチ壁面には,ほぼ全面に円礫〜亜円礫からなる砂礫層が現れた(図3−7−13−1図3−7−13−2図3−7−13−3図3−7−14).各砂礫層の上面は丘陵側に向かってやや上昇していることが把握された.以下に各層の層相を下位より順に記す.

図3−7−13−1 坂尻地区トレンチ壁面写真

図3−7−13−2 坂尻地区トレンチ壁面写真(N面)

図3−7−13−3 坂尻地区トレンチ壁面写真(S面)

図3−7−14 坂尻地区トレンチスケッチ図

a)粘土混じり砂礫層

花崗閃緑岩,砂岩,安山岩,片麻岩類の礫を含む粘土まじり砂礫層で,φ50〜100mm程度の円礫を多く含む.トレンチ最下部の一部に露出し,層厚は20cm以上であるが,正確な厚さは不明である.

b)砂礫層@

花崗閃緑岩,砂岩,安山岩,片麻岩類の礫を含む褐色の砂礫層で,φ20〜30mmの亜円礫と粗砂がその多くを占める.φ200〜400mmの亜円礫を含む.層厚は50cm程度で,トレンチの底部に連続的に見られる.

c)砂礫層A

花崗閃緑岩,砂岩,安山岩,片麻岩類の礫を含む青灰色の砂礫層で,マトリックスは同質の粗砂からなる.φ200〜300mmの円礫〜亜円礫が大半を占めるが,φ500mm程度の円礫〜亜円礫も含まれる.層厚は最大70cm程度で,いずれの壁面でも下部に連続している.

d)砂礫層B

黄緑色の凝灰岩質礫を含む砂礫層で,φ60cm程度の亜角礫を含んでいるが,砂質の部分も有するなど,層相変化が著しい.層厚は最大30cm程度で,N面,S面,W面の一部にレンズ状に挟まる.

e)有機質土層@

φ20mm以下の小礫を多く含む暗紫灰色の有機質シルト層で,N面の3mより丘陵側に最大層厚10cm程度の厚さでレンズ状に挟まる.

f)砂礫層C

黄緑色の凝灰岩質礫からなる砂礫層で,最大φ400mm程度の亜角礫を含んでいる.N面,E面,W面では連続性がよいが,S面では上下の層の間にレンズ状にはさまる.最大層厚は80cm程度で,トレンチ壁面の中央付近に見られる.

g)砂礫層D

花崗閃緑岩,砂岩,安山岩,片麻岩類の礫を含む砂礫層で,主にS面に露出している.最大φ300mmの亜円礫〜円礫が大半を占める.層厚80cm程度で,平野側に向かって緩やかに傾斜している.

h)砂礫層E

花崗閃緑岩,砂岩,安山岩,片麻岩類の礫を含む砂礫層で,平均粒径φ20〜30mmの亜円礫が主体の層である.上部10cm程度は砂質で,小礫が点在する程度であるが,この部分はN面の3mから平野側に限られる.全体としては最大80cm程度の層で,すべての壁面に連続している.

i)有機質土層A

暗紫灰色の有機質シルト層でN面の3mより平野側およびW面に10cm程度の層厚で連続している.

j)礫混じり砂質シルト層@

青灰色の砂質シルト層で,最大φ200mm程度の亜円礫〜円礫を含む.N面およびS面の一部にレンズ状に挟まれており,最大層厚は30cm程度である.

k)砂礫層F

黄緑色の凝灰岩質礫からなるシルトまじりの砂礫層で,φ20〜50mm程度の亜円礫を主体とする.N面,S面の3mより平野側とW面で連続して分布しており,最大層厚は20cm程度である.

l)礫混じり砂質シルト層A

青灰色の砂質シルト層で,20〜30mm程度の亜円礫〜円礫を含む.上位の層によって大部分が削剥されており,N面のごく一部に見られるのみである.

m)礫混じり砂質シルト層B

青灰色の礫まじり砂質シルト層で,花崗閃緑岩,砂岩,安山岩,片麻岩類の小礫を含む.N面で下位の層を溝状に掘り込んでレンズ状に堆積していることから,旧流路と推定される.最大層厚は40cm程度である.

n)礫混じりシルト層

人頭大の礫を含む灰色のシルト層で,S面のみに露出する.最大層厚は80cm程度である.

o)砂質シルト層

人頭大の礫を含む灰色の砂質シルト層で,植物片を混入する.N面およびE面に連続的に露出し,最大層厚は50cm程度である.

p)礫混じり砂質シルト層C

暗灰色〜暗紫色の砂質シルト層で,N面では下部10cm程度はシルト層となっている.φ20mm程度の礫を混入する.S面の4mより平野側からW面にかけて連続的に分布し,N面でも0mから平野側の区間で断続的に分布している.最大層厚は10cm程度である.

q)有機質土層B

暗褐色の有機質土で,N面およびS面の6mから平野側およびW面に連続してほぼ水平に分布している.最大層厚は10cm程度である.

r)砂礫層G

赤褐色の砂礫層で,φ20〜50mmの亜角礫を多く含む.マトリックスは同質のシルトで,φ10mm以下の小礫も多く含む.N面およびS面の4〜5m付近にレンズ状に露出しているが,その形状から水路跡と推定される.最大層厚は60cm程度である.

s)砂礫層H

黄褐色の砂礫層であるが,礫径はφ10〜20mmがほとんどを占める.N面およびS面の3〜4m付近でr)層を削り込むように堆積していることから,水路跡と推定される.最大層厚は40cm程度である.

t)砂礫層I

赤〜灰褐色の砂礫層で,φ20mm以下の亜角礫が主体である.N面のみに認められる層で,下位の層を削り込んで堆積していることから水路跡と推定される.最大層厚は20cm程度である.

u)砂礫層J

赤褐色に変質した亜角礫からなる砂礫層である.E面およびS面の一部に現れ,最大層厚は90cm程度である.

v)礫混じり砂質シルト層D

黄褐色の砂質シルト層で,φ20mm以下の亜角礫を混入する.いずれの面にも現れ,最大層厚は70cm程度である.

w)砂礫層K

黄褐色の砂礫層で,S面にのみ露出する.最大φ200mm程度の円礫を含み,下位の層を削り込んでいることから,水路跡と考えられる.最大層厚は60cm程度である.

x)礫混じり砂質シルト層E

N面およびE面の一部に現れる黄褐色の砂質シルト層で,最大φ100mm程度の円礫を混入する.礫は下位ほど多い傾向がある.下位の層を削り込んでいることから,水路跡と考えられる.

x)表土(耕土)

地表面の畑の耕作土およびその下位の耕盤.

a),b),c)の各層は花崗閃緑岩や砂岩,安山岩,片麻岩類の礫を含む砂礫層である.これらの礫の起源は,凝灰岩がほぼ全域に露出する周辺丘陵地とは考えにくく,手取川によってもたらされた手取扇状地礫層の一部と考えられる.また,手取扇状地礫層にはさまれるd),f),k)層は,周辺山地に分布する凝灰岩と同質の亜角礫からなる礫層や腐植質に富む砂層からなることから,周辺丘陵からもたらされた堆積物であると考えられる.これらの礫層には,有機質土が挟まれており,礫層堆積時に時間間隙があったことが推定される.また,g),h)層は花崗閃緑岩や砂岩,安山岩,片麻岩類の礫と凝灰岩の礫が混在しており,すでに堆積していた手取扇状地礫層の一部が凝灰岩礫層の堆積時に取り込まれたか,その逆のいずれかであると考えられる.

手取扇状地礫層の高度について検討してみると,礫種から確実に手取川起源と考えられるc)層上面の最高は標高64.5m程度,最低は63.5m程度となっており,トレンチ内でも丘陵側が1m程度高くなっていることが把握できた.

広域的に見ると,手取扇状地内の等高線はほぼ同心円状に広がっており,トレンチ掘削地点周辺の平均的な標高は59.0m程度と考えられる(図3−7−11参照).このことから,トレンチ周辺の扇状地面を構成する手取扇状地礫層上面の標高は59.0m以下であり,トレンチ壁面で確認された扇状地礫層だけが異常に高い位置に存在していることがわかる.仮に平均的な扇状地礫層の上面高度が標高59.0mであったとすると,トレンチ地点ではそれより4.5m程度高いことになる(図3−7−15).

扇状地礫層がトレンチ地点付近で高くなっている原因は,@扇状地礫層が段丘化している,A断層活動により丘陵側が上昇している,の2通りが考えられる.@の場合,他の扇状地面にトレンチ地点と対比しうる高さの段丘面が確認できないことから,現在の手取扇状地面の大半が浸食地形で,ほぼ全域が5m近く均等に削り込まれており,トレンチ箇所周辺のみが削り残されていると考えられるが,扇状地は基本的に堆積環境であることを考えると,この推定にはかなり無理がある.一方,大桑層や卯辰山層が断層活動により大きく傾斜している状況から判断すると,約2万年前には形成されていたと考えられている手取扇状地礫層もこれらの変形と同様,断層活動により周辺部から徐々に変形を受けはじめていると考えれば,4.5mという変形量は調和的であり,Aの可能性が高いと考えられる.

図3−7−15 地形面と扇状地礫層の深度(概念図)