3−6−7 四十万地区の調査結果

四十万地区では,トレンチ調査により正断層センスの地層のずれが複数見出された.このずれは,a)層,b)層,c)層を切断しており,d)層より上位の層に変形は認められなかった.また,ずれの大きさは最大で1.5m程度に及んでおり,平野側が低下している.年代測定の結果からは,b)層で得られた29,640±360年という時代よりは新しく,f)層で得られた8,030±60年という年代よりは古い時期に形成されたものであるといえる.

 地層のずれの成因としては,段丘レキ層がやや流れ盤となっていることから,シルト層などをすべり面とする地すべり頭部の断面を見ている可能性が高い.しかし,上部にクラックが認められないこと,地すべりブロック内でも堆積構造がきわめて鮮明に残されていること,地形的に地すべりの存在を示す形状が見出せないことなど,一般的な地すべり土塊とは若干様相が異なることも事実である.主な変形が逆断層センスでも,地表付近では正断層センスのずれが生じる事例があることから,断層活動に伴う地層の変形を見出した可能性も否定しきれない(図3−6−7).

図3−6−7 逆断層の活動がつくる地形(岡田,1990)

また,トレンチよりも丘陵側で行われた既存ボーリングの結果を見てみると,a)層に対比可能な有機質シルトおよび木片を含む層が連続的に見出されている(図3−6−8).この層準は丘陵側に向かって徐々に高度を上げているが,特に地形境界付近では顕著な撓曲構造を示し,トレンチから丘陵側75m程度の区間で8m程度の高度差があると推定される.シルト層は本来ほぼ水平に堆積したと考えられることから,この層は約3万年の間に垂直方向に8m程度ないしそれ以上の変形を受けている可能性が高い.

ボーリング調査では,3つの層準で炭質物が得られた.これらの試料について年代測定を行った結果,地表より0.90mの腐植まじり砂質シルトは350±50年,4.25mの腐植まじりシルトは1,310±50年,6.89m付近の腐植土は6,740±50年という値が得られ,それぞれトレンチで確認されたm)層,i)層,f)層に対比されると考えられる.この結果,トレンチとボーリングの間の地層はf)層で8.63m,i)層で2.7mの高度差で平野側が低くなっており,m)層はほぼ水平であることが明らかになった.トレンチで確認されたf)層は,斜面に沿うように分布しており,形成当時から傾斜していた可能性が高い.i)層,m)層は河川成で水平に近い状態で堆積したものであると推定されることから,i)層は変位を受けている可能性があるが,今回の調査結果からだけでは断定的なことは言えない. 

図3−6−8 四十万地区推定地質断面図