(3)トレンチ調査の結果

@壁面の観察結果

トレンチ掘削の結果,トレンチ底には半固結状態の砂層が見出され,それより上位には砂層や砂質シルト層,腐植土層が互層状態で現れ,22層に区分できた.また,壁面の中央に西傾斜20〜30度の断層が出現した.なお,トレンチの最上位層は弥生時代後期の遺構面以前の地層である.また,発掘面より上位については,S’面でトレンチ壁面と対比可能な砂層やシルト層が観察でき,これを指標に現在の地表までを4層に区分した(図3−5−4−1図3−5−4−2図3−5−5).各層の主な特徴を下位より順に記載する.

図3−5−4−1 梅田地区トレンチ全景写真

図3−5−4−2 梅田地区トレンチ全景写真

図3−5−5 梅田地区トレンチスケッチ図(1/50)

a)粗砂層@(褐色)

シルトまじりの粗砂層で乳白〜青灰色の砂質シルト礫を含む.断層の上盤側で断層の直上に位置することから,トレンチで確認された地層の中では最下層と考えられる.N面では2〜5m,S面では2〜4mの区間で断層に沿うよう分布しており,最大層厚は50cm程度.

b)粗砂層A(褐色)

ラミナ状の構造が発達する粗砂層で,ほぼ均質である.ラミナ状の構造は変形が著しく,一定の方向性を持たない.a)層を不整合に覆うように分布するが,層厚は一定しない.N面では大きな2つのブロックに分かれている.

c)粗砂層B(褐色)

ほぼ均質で無層理の粗砂層で,b)層を不整合に覆う.S面ではe)層をブロック状に取り込んでいる.層厚は160cm程度.

d)粗砂層C(黄褐色)

S面c)層の中にブロックで点在する粗砂層で,砂質の礫を含む.

e)極細粒砂層(白灰色)

締まりのよい無層理の極細粒砂層で,上部には植物根の痕跡が多く発達している.痕跡にはt)層のものと考えられる細砂が充填されており,N面の5m〜7mの区間では断層面に巻き込まれるような構造を示す.断層より上盤側に広く分布しているほか,下盤側でも10〜12mの区間に50cm程度以下の層厚で露出している.

f)粗砂層D(褐色)

シルトまじりの粗砂層で,上面には生痕化石が発達している.また,上部はシルト質で,一部白褐色を示す.断層より下盤側の最下層で,トレンチ底部に連続して分布することが確認されている.

g)中砂層@(緑灰色)

ほぼ均質で無層理の中砂層で,f)層を不整合に覆う.上部にはh)のシルト層を3層バンド状に狭在する.断層の下盤側では最も厚い層で,最大層厚は2.5m程度である.

h)シルト層@(白色)

g)層上部に狭在するシルト層で,3層見られる.いずれも5〜10cmの層厚である.N面では連続性が悪く,下の2層は平野側に向かうにつれてやや不明瞭になるが,S面では断続的にほぼ水平に分布している.断層近傍では,断層変位によって引きずり上げられたり切断されているほか,変位量が数cmの正断層,逆断層によって切られている状況などが確認された.

i)腐植まじり中砂層(茶褐色)

炭化木片や有機質シルトを混入する中砂層で,上面にはブロック化したab)層が点在している.層厚は45cm程度でh)層を整合に覆う.

j)砂質シルト層@(褐色)

N面の断層付近のみに見られる砂質シルト層で,断層変位により切断,屈曲している.層厚は10cm程度でi)層を覆う.

k)中砂層A(灰緑色)

k)層を整合的に覆う中砂層で,j)層と同様,N面の断層付近のみに分布し,変位により切断,屈曲している.層厚は10〜15cm程度である.

l)砂質シルト層A(褐色)

k)層を整合的に覆う砂質シルト層で,j),k)層と同様の分布を示し,変位により切断,屈曲している.層厚は10cm程度であるが,下盤側では断層から1m程度で不明瞭になる.

m)砂質シルト層B(灰緑色)

中砂まじりのシルト層で,N面ではj),k),l)層と同様に,変位により切断,屈曲している.層厚は10cm程度であるが,下盤側では断層から1m程度で明瞭になっていく.S面ではi)層とn)層の間の層準にブロック状に点在している.

n)砂質シルト層C(茶褐色)

中砂まじりのシルト層で,炭化木片や有機質シルトを混入する.N面,S面とも8mより平野側の区間でe),i),m)層を覆う.層厚は20cm程度である.

o)細砂層@(白色)

p)層の下部に見られる細砂層で,パッチ状に観察された.断層付近では堆積構造が乱されていることから,変位の影響を受けている可能性がある.層厚は8cm程度である.

p)腐植土層@(黒色)

流木などを大量に混入する腐植土層で,断層によって切られ,下盤側のみに分布する.層厚はS面で50cm程度であるが,N面では1m程度とやや厚くなる傾向がある.ほぼ水平に堆積している.

q)砂質シルト層D(茶褐色)

S面ではp)層を覆って形成されている層厚50cm程度の砂質シルト層で,下部には有機質が混じる.N面でもp)層を覆うが,層厚は10〜20cmで,一部はp)層中の亀裂に落ち込んでいるように見える.

r)粗砂層E(褐灰色)

N面の11m付近に見られるp),q)層を切る亀裂にたまった粗砂層である.亀裂上部はs)層によって削剥されているため,詳しい層相は不明である.

s)細砂層A(明灰色)

下位の層をほぼ水平に削剥して堆積した細砂層で,φ5mm程度の軽石や炭化木片が点在するほか,腐植土をパッチ状に狭在する.最上部はやや粗くなるが,ほぼ均質な砂層である.大半の層とは直接接しているが,S面のc)層との境界には砂質の礫を狭在している.

t)シルト層B(黒褐色)

古墳時代の溝の遺構を埋める有機質のシルト層で,トレンチ上端の最も平野寄りに出現する.

u)シルト層C(白色)

S面の丘陵側の上端やS’面下部に見られるシルト層で,平野側に向かってやや傾斜しているように見える.丘陵側では30cm程度の層厚を有するが,平野側に向かって薄くなり,S’面の9m付近で滅失する.

v)シルト層D(褐色)

弥生・古墳時代の遺物を包含するシルト層で,1m程度の層厚を有する.層内でいくつかの単層に区分できるが,いずれもほぼ水平な構造を示している.

w)腐植土層B(暗褐色)

v)層の下部に含まれる腐植土層で,丘陵側では層厚20cm程度,平野側では5cm程度となっている.S’面では9mより平野側で20〜30cm垂れ下がっているように見える.

x)盛土

現在の地表面を構成する層で,50〜70cmの層厚を有する.

aa)粗砂層(淡緑色)

断層によって変質した粗砂層で,断層方向に波打ちながらもラミナ状の構造を示す.一部は変質し固結しているところも見られる.ほぼ断層に沿って分布しているが,下盤側ではi)層の上位にブロック化して点在している.最大層厚は30〜40cm程度である.

ab)腐植土層

断層に沿って見られる有機質シルト層で,木片を多量に含んでいる.N面では20cm程度の層厚を示す部分が多いが,上部ではやや厚くなっているように見える.層の下面は比較的明瞭であるが,上位層との境界は不明瞭なところも多い.N面ではトレンチ底から観察されるが,上部ではq)層を覆っている.内部構造を見ると,細かなラミナが発達する部分があり,やや流動しているものと考えられる.

A断層活動による変形構造

トレンチ壁面には,地層を大きく切断する断層として西傾斜の2条の逆断層(上位のものをF1,下位のものをF2とする)が見出され,その他にもこの変位に伴って形成されたと考えられる小規模な逆断層,正断層が多数発見された.

トレンチ壁面に現れた複数の断層について,走向傾斜を測定した(表3−5−1).その結果,主断層と考えられるF1およびF2については走向がN20〜30°E,傾斜が18〜28°Sという結果が得られた.この走向は丘陵と平野の地形境界が続く方向とほぼ同じであり,今回見出された断層が地形境界と平行に伏在している可能性が高いといえる.その他の断層については,@主断層にほぼ平行なもの,A走向は同じだが傾斜の大きなもの,B走向・傾斜ともほぼ直交するもの,の3通りにまとめられる.@は主断層から枝分かれした断層に多く,Aは小規模な正断層や逆断層に見られる.Bについては下盤側の断層直下に分布している.

主断層付近についてみると,N面ではF1,F2の2条の逆断層が確認できる.F1は断層に沿ってab)の腐植土層が入り込んでおり,トレンチ底から連続的にr)層までを切断している.この断層を境に,上盤側と下盤側の地層に全く連続性が見られないことから,F1の累積変位量は,垂直方向で3m以上,すべり量は9m以上に及んでいると推定される.F1からaa)層を挟んで下位にはF2が見られる.F2はg)の中砂層やi)の中砂層を切断しており,その変位量は垂直方向に約40cm,すべり量は約70cm程度である.F2は上部で分岐しており,i)〜m)層を切断ないし屈曲させている.なお,F1およびF2はs)層には変位を与えていない.また,S面ではF1,F2は収束していると考えられ,N面ほど明瞭に区分できなかった.

主断層より下盤側では,N面に3本の正断層が発見された.これは,丘陵側が数cm低下するもので,g)の砂層中で殲滅している.これらの断層は,主断層の活動によって土塊が切れ上がった結果,その土塊による圧密で沈降したために生じたものであると推定されるが,形成時期などは不明である.その他の小規模な断層についても同様にして形成されたものと考えられる.

表3−5−1 トレンチ壁面に見られた断層の走向傾斜および形態