テストピットの掘削により測点80mから84mの区間にかけて、地表より1〜1.5mの深さに位置する腐植質シルト層が平野側に向かって若干厚さを増す箇所が見出された。これらの下位の地層がどのような構造を示すか検討するために、深さ5mのトレンチを掘削した。
トレンチ壁面のうちN面を観察した結果、下位に分布する薄い砂礫層・シルト層の互層には著しい変形は認められず、最下部に露出した厚い円レキ層の上面もほぼ水平ないし西に向かって若干傾斜していることが明らかとなった(付図7「T9−1トレンチ壁面スケッチ図(N面)」,図3−2−20)。
これらのことから、T9−1トレンチの区間では断層は確認できなかった。
AT9−2トレンチ
テストピットの掘削により測点110mから114mの区間および測点123mから125mの区間にかけて、地表付近の腐植質シルト層が撓曲状に見えることが確認された。これらの下位の地層の構造を検討するために、深さ5mのトレンチを掘削した(付図8−1、付図8−2、「T9−2トレンチ壁面スケッチ図(N面)」、付図9−1、付図9−2「T9−2トレンチ壁面スケッチ図(S・E面)」,図3−2−21、図3−2−22、図3−2−23)。
トレンチ壁面のうちN面を詳細に観察した結果、断層による明瞭な変位は認められなかったが、最下位の円レキ層直上に位置する有機質シルトやシルト層・砂礫層が不規則に屈曲・変形している部分があり、一部は引きちぎられたり他の層に巻き込まれたりしている構造となっていることが明らかになった。
これらの変形が認められる部分では、対面するS面でも同様の変形が確認された。S面では円レキ層の上位に位置する有機質シルト層の層厚が著しく変化し、引き伸ばされたり切られたりしている状況が確認された。また、有機質シルト層より上位の砂層やシルト層の層境界が複雑に凹凸を繰り返していることが明らかになった。
N面・S面とも、変形が認められる層の直下には、ボーリング調査の結果から厚さ数十m以上と推定される円レキ層が確認できるが、この円レキ層の上面の深度に大きな変形は認められなかった。このことから、壁面で観察された変形はある一定の層準の内部のみで生じたものであると考えられる。なお、変形が生じている有機質シルト層の14C年代は、約3万年前である。
以上のことから、T9−2トレンチでは断層は見いだせなかったものの、少なくとも約3万年前に形成された地層は大きく変形するような外力を受けており、近隣で発生した地震に伴う液状化の痕跡である可能性が高い。ただし、それより上位の約7,000年前に形成された腐植土層にはこのような変形が見られなかった。
図3−2−20 T9−1トレンチのり面写真(N面)
図3−2−21 T9−2トレンチのり面写真(N面)
図3−2−22 T9−2トレンチのり面写真(E面)
図3−2−23 T9−2トレンチのり面写真(S面)