(3)地表地質踏査(精査)の結果

調査地域の地質は、下位から七曲層(中新世)、大桑層(前期更新世)、卯辰山層(中期更新世)、高位砂礫層(中期更新世)、中位段丘堆積物、低位段丘堆積物、沖積層・崖錐(更新世後期末〜完新世)から構成される。表3−4−1に調査地域周辺の地質層序を示す。

表3−4−1 地質層序表

調査地域は、地形的には東部の丘陵と西部の平野に大別される。丘陵には七曲層、大桑層、卯辰山層、高位砂礫層、中位段丘礫層、低位段丘礫層、崖錐が分布し、平野部には沖積層(扇状地堆積物、氾濫平野堆積物)が分布している。

以下に各層の層相と調査地域での観察結果を示す。

図3−4−4 重要露頭スケッチおよび写真位置図(数字はスケッチNo.)

図3−4−5−1 重要露頭スケッチおよび写真

図3−4−5−2 重要露頭スケッチおよび写真

図3−4−5−3 重要露頭スケッチおよび写真

@七曲層

本層は杉本・平林(1982)により命名された凝灰岩層である。踏査範囲内では最下層にあたり、大桑層に不整合に覆われている。調査範囲周辺では七瀬川沿いの林道で本層の露出の状態がよい(図3−4−5−3の11・12)。踏査範囲では中央部より東側の地域に分布しており、既存文献によるとさらに東方へ調査範囲外の地域まで広がっているとされている。

本層は灰色〜白色を呈した凝灰岩層である。露頭条件によって若干状況は異なるが、一般に溶結はみられず、固結しており、ねじり鎌での掘削は困難である。凝灰岩に多く含まれる軽石は、白色で数mm〜2,3cmと粒径はやや不均質である。岩片はほとんど含まれておらず、大半は本質物質からなっている。本層の上端と下端が確認できる露頭は確認できなかったことから正確な層厚は不明であるが、七瀬川沿いの林道で見られる露頭では、層厚は少なくとも10mを越えている。

A大桑層

大桑層は、望月(1930c)により、金沢市犀川左岸にある大桑の古い通称「おんま」に因んで大桑層と命名されたもので、以後踏襲され、英名では、Omma Formationという。大桑累層あるいは大桑砂岩層と呼ばれることもある。本調査では、角(1978)の津幡シルト岩をも含めて大桑層とし、これと今井(1959)の大桑層下部を併せて大桑層下部とした。

本層は津幡町から金沢市卯辰山東部一帯の森本丘陵、四十万町にかけての丘陵地域に分布している。七曲層の上位に位置しており、極細粒砂岩を主体とする下部層と細粒砂岩〜中粒砂岩を主体とする上部層に区分され、大局的には上方粗粒化がみられる。

(a)大桑層下部

本層は極細粒砂岩およびシルト岩から構成される砂質泥岩を主体とし、薄い砂岩および凝灰岩を挟在する層で、踏査範囲中央部に南北方向に細長く分布している。暗灰色〜灰色を呈し、おおむね塊状無層理である。踏査範囲南方では本層の最下部層である細礫混じりの砂岩が確認された。砂質泥岩中には大桑層上部ほどではないが貝化石または貝化石の印象を含む。既存資料では凝灰岩の層厚は数十cm〜1m程度の薄層で、灰色〜灰白色を呈し、白色の軽石を含む場合があるとされているが、踏査では凝灰岩は確認できなかった。地質調査所発行の地質図「津幡図幅」および「金沢図幅」によると、本層と下位の七曲層は不整合関係であるが、今回の調査では2つの層が直接接している露頭を発見できなかったことから、その層序関係は確認できなかった。

(b)大桑層上部

本層は細粒砂岩〜中粒砂岩を主体とし、シルト岩、細礫岩の薄層を挟在する層で、下部では全般に塊状無層理である。踏査範囲では北部に分布する。いくつかの層準に、いわゆる「大桑動物群」と呼ばれる貝化石および貝化石の印象を特徴的に含む密集部を挟在する(図3−4−5−3の10)。卯辰山層境界付近では葉理がみられ、平行葉理あるいは斜交葉理が発達する部分もある。上部ではシルト岩および細礫岩を挟み、互層を呈する部分もみられる。新鮮な部分は暗灰色の比較的締まった軟岩であるが、風化が進むと灰色から黄褐色〜赤褐色に変わり、砂状を呈するようになる。調査地域では全般に風化が著しく、ほとんどの露頭において非常に細粒な砂質堆積物となっている。

 @野(1993)によると、大部分は水深50m以浅の浅海堆積物であるが、貝類群集の詳細な解析によると一部は50〜100mの間の海底で堆積したと考えられている。層厚は一般に150〜200mの厚さを有し、最大250mにおよぶところもあるとされている。

B卯辰山層

卯辰山層は、金沢市北部の浅野川右岸にある卯辰山(141.2m)に因んで、望月(1930c)によって命名された地層である。

本層は踏査地域範囲内では礫層を主体とし、ところにより砂層・小礫層と互層している。踏査範囲では丘陵前面に沿って南北方向に分布する。本層の礫層は、安山岩、石英斑岩、砂岩、チャートからなっており、マトリックスはシルト〜砂で非常に充填率が低い。円磨度は礫種によって大きく異なるが、全体的に亜角〜亜円である。本層の層厚を確認できる露頭はないが、調査範囲内の採土場の露頭では層厚約40m以上であることが確認された。(図3−4−5−1の3・4および図3−4−5−2の5・6・7)

模式地の卯辰山ではピンク色を呈する凝灰質シルトがみられる。また、泥炭層を挟在する場合がある。

本層は大桑層を不整合に覆っている。

C高位砂礫層

本層は標高140〜210m付近に分布しており、踏査範囲では南部の標高210m付近に位置する緩斜面の露頭で確認できる。この地点では卯辰山層を不整合に覆う。

踏査地域内では本層は非常に粒子の細かい砂層からなり、全体的に茶色を呈している。層厚は少なくとも2mである。

粒径2〜3cmの亜円礫層とパッチ状の黄色軽石層をわずかに挟在している。この軽石層は円磨されておらず、長距離移動の再堆積ではないことを示しているが、従来の研究では軽石に関する報告がなく、給源・噴出年代などは不明である。

D中位段丘堆積物

中礫を主体とする円礫から構成される段丘礫層で、標高80〜140m付近の平野側に傾斜した緩斜面や七瀬川に沿った地域に分布している。採土場では大桑層と卯辰山層を不整合に覆っている(図3−4−5−1の1・2)。

本層は安山岩、石英斑岩、砂岩、チャートからなり、マトリックスはシルト質である。卯辰山層と層相が似ているが、場所によってはマトリックスが多く、シルト層に礫が挟まれる。層厚は不明だが、採土場付近では少なくとも10mを越えている。

年代に関する資料は得られなかったが、いしかわ社会保険センター周辺の露頭では、本堆積物は1mほどの黒色土壌に覆われている。

E低位段丘堆積物

丘陵と平野境界付近や七瀬川沿いの標高50〜60m付近に分布する段丘礫層である。段丘面は特に明瞭な傾斜は見られず、ほぼ平坦な地形をしている。露頭条件が悪く層相や層厚が不明だが、七瀬川沿いでは円礫層からなっている。

F沖積層

平野部を構成する氾濫平野、扇状地、谷底平野、沖積錐を構成する堆積物からなる。既存ボーリング資料から推定すると円礫を主体とする礫層、砂層およびシルト層等からなる。河川沿いは護岸工事がおこなわれているため露頭がなく、詳細は不明である。

G崖錐堆積物

崖錐地形は踏査範囲南方に分布する。一般的にソリフラクションや凍結破砕作用などによって供給される岩屑であるが、露頭がなく詳細は不明である。