(2)地表地質踏査結果

調査地域の地質は、下位から音川累層の高窪層(新第三紀後期中新世−前期鮮新世)、氷見累層の大桑層(第四紀更新世前期)、卯辰山層(更新世中期)、高位砂礫層(更新世中期)、中位段丘堆積層、低位段丘堆積層および沖積層(更新世後期〜完新世)から構成される。表2−4−5−1に地質層序表を示す。

表2−4−5−1 地質層序表

図2−4−4−1 1952年と1981年の地形図の比較(縮尺1/2,500)

調査地域は、地形的には東部の森本丘陵と西部の金沢平野とに大別され、森本丘陵には高窪層、大桑層、卯辰山層、高位砂礫層、中位段丘堆積層および低位段丘堆積層が分布し、金沢平野には最上位にあたる沖積層が分布する。

(1)高窪層 写真2−4−1(写真U−4−5−1、写真U−4−5−2、写真U−4−5−3)

高窪層は、富山県の福光町高窪を模式地として、市原ほか(1950)が与えた名称である。高窪累層あるいは高窪泥岩層と呼ばれることもある。

本層は森本丘陵に広く分布しており、本調査地域では最下位の地層となっている。シルト岩および極細粒砂岩から構成される砂質泥岩を主体とし、灰色〜灰白色を呈する細粒の薄い凝灰岩層を挟在する。層全体としては暗灰色〜灰色を呈し、一般に塊状無層理〜層理の目立たない地層である(写真U−4−5−1)。石灰質ノジュ−ルを挟在することもある(写真U−4−5−2)。まれに細礫を含み、露頭表面は黄色い粉をふいたような産状を示す。本層上部には、葉理の発達した粗粒シルト〜細粒砂岩を含む部分がみられる。層厚数十cm〜1m程度でφ1cm以下の白色軽石を含む薄層を含んでいる(写真U−4−5−3)。

@野(1993)によると、本層の層厚は150〜200mである。

(2)大桑層

大桑層は、望月(1930c)により、金沢市犀川左岸にある大桑の古い通称「おんま」に因んで大桑層と命名されたもので、以後踏襲され、英名では、Omma Formationという。大桑累層あるいは大桑砂岩層と呼ばれることもある。本調査では、角(1978)の津幡シルト岩をも含めて大桑層とし、これと今井(1959)の大桑層下部を併せて大桑層下部とした。

本層は津幡町から金沢市卯辰山東部にかけての森本丘陵に分布し、高窪層の上位に位置しており、極細粒砂岩を主体とする下部層と細粒砂岩〜中粒砂岩を主体とする上部層に区分され、大局的には上方粗粒化がみられる。今回の調査では下位の高窪層との明瞭な不整合関係は確認していないが、@野・松浦(1964)および田中(1970)によると、金沢市街地付近では著しい不整合関係にある。

@大桑層下部 写真2−4−2(写真U−4−5−4、写真U−4−5−5)

本層は極細粒砂岩およびシルト岩から構成される砂質泥岩を主体とし、薄い砂岩および凝灰岩を挟在する層で、津幡町〜金沢市森本町にかけての地域に分布している。暗灰色〜灰色を呈し、おおむね塊状無層理である(写真U−4−5−4)。 津幡町中津幡駅東方約400mの道路沿いには、本層の最下部層である細礫混じりの砂岩が分布する(写真U−4−5−5)。砂質泥岩中には大桑層上部ほどではないが貝化石または貝化石の印象を含む。凝灰岩の層厚は数十cm〜1m程度の薄層で、灰色〜灰白色を呈し、白色の軽石を含む場合がある。地質調査所発行の地質図「津幡図幅」および「金沢図幅」によると、本層と下位の高窪層は不整合関係であるが、今回の調査では確認できなかった。

写真U−4−5−1 金沢市月浦町  高窪層の極細粒砂岩。塊状無層理である。

写真U−4−5−2 津幡町杉瀬堺橋付近  高窪層のシルト岩。石灰質コンクリーションの薄層を挟在する。

写真U−4−5−3 同上  高窪層のシルト岩に挟在される凝灰岩。白色の軽石を含む。

写真U−4−5−4 中津幡駅東方400mの道路 のり面  大桑層下部の極細粒砂岩。細粒凝灰岩の薄層を挟在し、貝化石を含む。

写真U−4−5−5 同上  含細礫粗粒砂岩と砂岩の互層。

A大桑層上部 写真2−4−3(写真U−4−5−6、写真U−4−5−7)

本層は細粒砂岩〜中粒砂岩を主体とし、シルト岩、細礫岩の薄層を挟在する層で、下部では全般に塊状無層理である。津幡町〜金沢市卯辰山東部に分布する。いくつかの層準に、いわゆる「大桑動物群」と呼ばれる貝化石および貝化石の印象を特徴的に含む密集部を挟在する(写真U−4−5−6)。中部から上部にかけては層理がみられ、平行葉理あるいは斜交葉理が発達する部分もある(写真U−4−5−7)。上部ではシルト岩および細礫岩を挟み、互層を呈する部分もみられる。新鮮な部分は暗灰色の比較的締まった軟岩であるが、風化が進むと灰色から黄褐色〜赤褐色に変わり、砂状を呈するようになる。調査地域では全般に風化が著しく、ほとんどの露頭において砂状を呈する。

@野(1993)によると、大部分は水深50m以浅の浅海堆積物であるが、貝類群集の詳細な解析によると一部は50〜100mの間の海底で堆積したと考えられている。層厚は、一般に150〜200mの厚さを有し、最大250mにおよぶところもあるとされている。

写真U−4−5−6 津幡町国道検問所南採土場 大桑層上部。細粒砂岩中の貝化石の密集層。二枚貝、ホタテ等がみられる。

写真U−4−5−7 石川工業高等専門学校  南側の国道沿い採土場  大桑層上部の細粒砂岩層。含細礫粗粒砂岩を挟在する。斜交葉理が発達する。

(3)卯辰山層 写真2−4−4(写真U−4−5−8)、写真2−4−5(写真U−4−5−9、写真U−4−5−10、写真U−4−5−11)

卯辰山層は、金沢市街北側の浅野川右岸にある卯辰山(141.2m)に因んで、望月(1930c)によって命名された地層である。

本層は砂層およびシルト層を主体とし、礫層を挟在する層で、金沢市森本町〜卯辰山にかけての丘陵部、金沢市街地の小立野台地および犀川河床にかけて分布する。下部は比較的厚い細粒〜中粒砂層からなり、平行葉理、斜交葉理が発達する(写真U−4−5−8)。上部では比較的粗粒の砂層を主体とし、シルト層および礫層と互層様を呈する。本層に含まれるシルト層は、層厚数mの厚いシルト層(写真U−4−5−9)と層厚数mmの単層からなり、リズミックな縞状の互層がみられる(写真U−4−5−10)。卯辰山ではピンク色を呈する凝灰質シルトがみられる。また、泥炭層を挟在する場合がある。礫層は、細礫から中礫を主体とする円礫層で、安山岩、流紋岩、砂岩、粘板岩、チャ−ト等から構成されている(写真U−4−5−11)。

 卯辰山層は全般に岩相変化が著しく、今回の地表踏査では下位の大桑層との明瞭な層位関係は明らかにできなかった。今井(1959)によると、下位の大桑層を不整合に覆うとされている。

写真U−4−5−8  金沢市百坂町北陵高校  通学路採土場  卯辰山層の細粒砂層。平行葉理が発達する。

写真U−4−5−9 金沢市東御影町  卯辰山層のシルト層と砂層。

写真U−4−5−10  金沢市大樋町県道沿いの露頭   卯辰山層のシルト層。層状を呈し、炭質物を挟在する。

写真U−4−5−11   金沢市東御影町  卯辰山層中の礫層。中礫を主体とする円礫層である。

  

(4)高位砂礫層

卯辰山・戸室周辺・野田山および三小牛付近に分布し、標高150〜200mの山頂部に平坦面を形成する礫・砂および粘土からなる地層は、今井(1959)によって高位砂礫層と呼ばれている。

高位砂礫層は、中〜細礫からなる円礫層を主体として砂層を挟在する層で、調査地域では金沢市森本町〜卯辰山にかけての丘陵部に分布する。写真2−4−6(写真U−4−5−12)。礫層の基質は粗砂を主体とし、全般に締まりはよい。礫種は、安山岩、流紋岩、砂岩、粘板岩およびチャ−トからなり、このうち安山岩、流紋岩にはくさり礫を含むことがある。本層は、岩相的には下位の卯辰山層の礫層と区別し難く、卯辰山層最上位の礫層とする楡井(1969)の見解もある。

(5)中位段丘堆積層

中位段丘堆積層は、中礫を主体とする円礫から構成される河成堆積物で、犀川と浅野川に挟まれた小立野台地、浅野川左岸および卯辰山山麓西部に分布する。写真2−4−6(写真U−4−5−13)。基質は粗砂〜極粗砂からなり、締まりは比較的良い。 礫種は、安山岩、流紋岩、砂岩、粘板岩およびチャートからなる。層厚は約4mである。河床からの比高50〜60mの標高60〜70m付近に、緩い傾斜をもった平坦面を形成している。

 

(6)低位段丘堆積層

低位段丘堆積層は、中礫を主体とする円礫から構成される河成堆積物で、犀川、浅野川および卯辰山山麓西部に分布する。写真2−4−6(写真U−4−5−14)。 基質は粗砂〜極粗砂からなり、締まりはやや緩い。 礫種は、安山岩、流紋岩、砂岩、粘板岩およびチャートからなる。層厚は約3mである。河床からの比高10〜20mの標高30m付近に平坦面を形成している。

(7)沖積層

沖積層は、犀川、浅野川、森本川、津幡川沿い、および調査地域西部に広く分布し、金沢平野を形成している。円礫を主体とする礫層、砂層およびシルト層等からなると推定されるが、河川沿いは護岸工事がおこなわれているため露頭がなく、詳細は不明である。標高15m以下の平坦面を形成している。

(8)地すべり地・崩壊地

地すべり地は、津幡町南中条〜金沢市四坊町の丘陵部の尾根筋から西側斜面に分布しており、ほぼ高窪層と上位の大桑層下部との境界部付近にあたる位置で発生している。高窪層および大桑層下部とも境界部付近には凝灰岩の薄層を挟在し、また地層の傾斜が西に向かって10〜30°で傾斜する「流れ盤」となっているために発生ているものと考えられる。

 調査地には大規模な崩壊地はみられない。大きな露頭はほとんどが大桑層上部の砂岩層を採るための採土場である。

写真U−4−5−12  卯辰山山頂遊歩道  高位砂礫層の礫層。下位の卯辰山層の砂層を覆う。

写真U−4−5−13  金沢市常盤町油谷牧場跡  中位段丘堆積層。中礫サイズの円礫を主体とする砂礫層である。

写真U−4−5−14  金沢市大樋町墓地裏  卯辰山層を不整合に覆う低位段丘堆積層。中礫サイズの円礫を主体とする礫層である。