(1)反射法弾性波探査(疋田−神谷内測線)

(1)目的

既存資料調査・地形地質調査で得られた結果をもとに、森本断層が存在すると推定される丘陵西縁部から平野にかけての地下構造を推定する目的で、反射法弾性波探査を実施した。探査においては、測線下の深度数百m程度までの地質構造イメージを詳細に得ることを目標とした。

(2)測線位置および測線長

測線位置:市道千木神谷内線(金沢市疋田町〜神谷内町)

測線長:1.5km(付図8

(3)探査実施期間および測定時間

平成8年11月16日〜11月23日

11月16日〜22日:夜間作業(PM9時〜AM5時:疋田交差点〜神谷内交差点)

11月23日   :昼間作業(AM9時〜PM5時:神谷内交差点〜終点) 

(4)探査対象深度

最低500mをめどになるべく深くまで

(5)探査仕様

本探査においては、発震装置として重錘落下型震源装置を用いた。この震源は約400kgの重錘を油圧装置を用いて1〜3mつり上げた後に、これを地面上に自由落下させることによって地震波を発生させるものである。受振器としては固有周波数10Hz、12連のジオフォンストリングスを用いた。また、データ収録装置としてはOYO GEOSPACE社製のDAS−1を用いた。本探査の仕様を以下に示す。また、使用機器を表1−2−4−1にまとめた。

<反射法弾性波探査仕様>

 震源:重錘落下(400kg重錘自由落下) 受振点間隔:5m

 波種:P波 受振器数/グループ:12個

 発震点間隔:10m 受信器間隔:1m

 総受振点:301点 記録長:2000msec

 展開方式:インラインエンドオンオフセット展開 サンプリング間隔:1msec

      (ただし一部で受振点固定展開) 同時受振チャンネル数:96

 最小オフセット距離:10m 垂直重合数:4〜10回

 最大オフセット距離:485m

表1−2−4−1 弾性波反射法探査使用機器一覧

(6)測定データの処理

図1−2−4−2に解析処理のフローチャートを示す。

図1−2−4−2 反射法弾性波探査解析フローチャート (7)反射法弾性波探査(疋田−神谷内測線)の結果

本調査地域の地下には、既存のボーリングデータ・地質文献や本調査における地表踏査から、洪積層(更新世中期の卯辰山層を含む)、更新世前期の大桑層、鮮新世以前の高窪層などが分布していると推定されている。最近の研究では、測線起点付近の卯辰山層の基底は標高約−500m、大桑層の基底は標高約−700mと推定されている(中川ほか,1996)。また、測線の受振点260付近では卯辰山層が地表に露出しており、終点付近では卯辰山層下部が急傾斜している露頭(N17゚E,73W)が確認されている。反射法弾性波探査の測線終点から300m程度東の地域では大桑層も地表に露出している。なお、これらの地層の走向と測線はほぼ直交している。

これらのデータをもとに、反射法弾性波探査(疋田−神谷内測線)で得られた深度断面図の解釈を試みた。図1−2−4−3に解釈深度断面図を示す。

図1−2−4−3 解釈深度断面図 @受振点0〜100の区間

この区間では、全深度にわたってほぼ水平な反射記録となっている。このうち深度220,540,950m付近では明瞭な反射面が記録されており、大きな地層境界を表しているものと考えられる。

既存の資料では標高−500m付近に卯辰山層の基底面が推定されていることから、深度540m付近の明瞭な反射面は卯辰山層と大桑層の境界面を示していると考えられる。卯辰山層の厚さは200m程度と考えられている(@野ほか,1972)ことから、深度220m付近の反射面は卯辰山層とそれより新しい洪積層の境界面もしくは卯辰山層よりも新しい洪積層内に存在する反射面を示していると考えられる。

深度540m〜950mの間は連続した明瞭な反射面が少なく、層相の変化が少ないことが推定される。これは大桑層が層理に乏しいという地表での観察記録と調和的であり、ここでは大桑層と考えた。

層序的に考えると、深度950m以深の反射面は高窪層を示している可能性がある。

この区間では、深度1500m付近まで有意な反射面が確認できた。また、全ての反射面がほぼフラットで大きな変位が認められないことから、本測線の反射面のつながりを見る上で模式的な区間であるといえる。

A受振点100〜130の区間

この区間では、深度300m以下に反射面が不連続となる部分が見られる。不連続部分は東傾斜で高角度(約75゜)で連続していることから、この区間の深度300m以下には古い時期に形成された、もしくは地表面まで到達していない断層(F1)が存在するものと推定される。

B受振点120〜180の区間

深度220m付近には受振点0から続く明瞭な反射面が、一部不明瞭になるものの連続的に見られる。また、卯辰山層と考えられる層準には反射面が多く見られる。卯辰山層の下限は深度500m付近に見られる不鮮明な反射面と考えられ、それより深部は反射面が極端に減少することから大桑層が分布しているものと考えられる。

C受振点180〜300の区間

起点から連続する深度220m程度の反射面は受振点190付近から終点に向かって浅くなる。この反射面は受振点190、230、250付近で途切れ、全体に東側(終点側)が上昇している。また、卯辰山層の基底面を示すと考えられる深度500m程度の反射面は、受振点220付近を境に終点側に向かって浅くなっている。この反射面は比較的明瞭であるが、受振点220、250、270付近で途切れ、全体に東側が上昇している。その他の反射面も同様の傾向を示すことから、これらの不連続な箇所には東傾斜の逆断層(F2〜5)が存在するものと推定される。

D主断層の推定

この測線において主断層と推定される断層は、下位層からの変位量や反射面の傾斜の状況から、受振点180・210・250付近のF2・F3・F4のいずれかであると考えられる。これらの断層は50〜60度の東傾斜で、東側の反射面が上昇していることから逆断層である。起点側はほぼ水平に近い傾斜であった反射面が、F2で切れ上がり、F3を境に終点側に向かって急激に浅くなり、さらにF4で切れ上がっている様子が鮮明に現れている。これらの断層のうち、F3では卯辰山層基底面と考えられる反射面が100m程度の大きな落差を示している。

また、深度の大きい反射面ほど急傾斜を示していることから、変位の累積性があることが推定される。