これに示されるように,この地域においては,広範囲にわたって著しい地震被害が生じたことが明らかであるが,必ずしも須磨断層に沿って集中しているのではなく,むしろこの地域においては,沿岸側の表層地盤の脆弱地域に被害が多く発生している傾向があるように見える。
図7−7 兵庫県南部地震における被害状況図【須磨地域】(国土地理院,1995)
以上より,須磨断層の性質をまとめると以下のとおりである。
断層構造:
須磨断層は,走向N56°〜82°E,傾斜68°〜82°Nを示し,北側の花崗岩が南側の花崗岩質砂礫層に衝上する逆断層である。本調査におけるボーリング調査結果(IT−6地点),および神戸市(1999)による板宿地区の反射法地震探査結果より,六甲山地南縁は,須磨断層を含んで少なくとも2本以上の断層より構成される。
活動性:
神戸市(1999)によるボーリング調査結果では,須磨断層に関する情報は得られていないが,その南側に伏在して併走する大倉山〜仮屋沖断層が,より活動的であると指摘している。その上下変位量は,鬼界アカホヤテフラ層準と姶良TNテフラ層準が,それぞれ約2 mと約6 mであり,それによると上下の平均変位速度は,1000年あたり約0.25 mと算出される。
最新活動時期:
本調査の一ノ谷地区第1トレンチ地点における調査結果より,須磨断層の最新活動時期は約600年前以前と推定される。また,断層によって変位を受けた堆積物の年代値は,断層に取り込まれた腐植質粘土より5,860±40yBPが得られている。
本調査地点の東北東方向約700 mにある須磨寺の記録によれば,1596年の慶長伏見地震時において,本堂などが崩壊したことが記載され,あわせて,遺跡の地震痕跡などにおいても16世紀末ころに強震動が発生したと推定される。しかしながら,本トレンチ地点における調査結果より,少なくとも須磨断層の西部付近は,慶長伏見地震では活動していない可能性がある。