3−2 トレンチ調査

トレンチ調査は,断層が通過すると思われる場所を掘削して人工的に露頭を作り,詳細な観察・記載,および各種分析による年代データなどの取得に基づいて,活断層の最新活動時期などの活動履歴や変位量を明らかにする調査方法である。

トレンチ調査は,概ね以下の手順にしたがって実施した。

@ 掘削範囲の決定

掘削範囲および土置き場を定める。

A トレンチの掘削

掘削用地内において,重機を用いて所定の規模および深さのトレンチを掘削する。掘削用地が水田や畑など農耕地の場合には,まず耕土だけを薄く剥ぎ取り,下位の土層や地層と混合しないようにする。また,法面の傾斜はトレンチ内における作業の安全を考慮し,適切な角度を決定して掘削する。

掘削残土は,雨による流出や崩壊の危険がないように,また同時に,トレンチの埋め戻しに支障がないように,ビニールシートを掛けるなどして適切に保管する。

B 排 水

トレンチ内の湧水は,水中ポンプを用いて排水する。排水にあたっては,集水溝や水田への砂泥流入などの公害が発生しないようにする。

C トレンチ法面の整形

掘削したトレンチ法面は,地層の詳細な観察ができるように,人力で余分な土石を除去し平滑に整形する。

D グリッドの設置

整形したトレンチ法面には,観察およびスケッチの座標として,1 mメッシュのグリッドを設ける。グリッドは以下の手順で設置する。

@)トレンチ法面の上端に杭と板で柵を作る。

A)板の上端に水平距離1 mごとに釘を打つ。

B)トレンチ法面上にレベルを用いて基準となる水平線を求める。

C)法面上部の1 mごとの釘から水平線と直交する線を下ろし,これと法面基部との交点に釘を打ち,両者を水糸で結ぶ。

D)水平線を基準として,垂直に1 mごとに釘を打ち,水平な水糸を張る。

E 観察およびスケッチ

法面の地質を詳細に観察し,とくに以下の点に留意して正確にスケッチする。

@)観察およびスケッチの範囲は,整形したすべての法面とし,縮尺は原則として1/20縮尺とする。

A)観察は肉眼で識別でき,かつ所定の縮尺でスケッチに表現できる精度の単層ごとに地層を区分し,単層ごとの層相・変形構造・堆積構造・地層境界の形状,層位関係,断層・亀裂,動植物遺体,液状化跡,考古遺物などについて詳細に行う。

B)観察結果を正確にスケッチするとともに,スケッチに注記をする。

C)単層間の不整合,単層と断層との切られた・覆ったの関係,層準による変形の違いなどを総合的に判断して,断層活動が生じた層準(イベント層準)を認定し,その層準をスケッチに表示する。

F 試料採取

法面に現れた腐植土や火山灰などから,各種分析用の試料を採取する。採取した試料は,採取トレンチ名,採取位置,試料番号などを明記したビニール袋に収納する。また,スケッチに試料採取位置と試料番号を記入する。

G トレンチ平面図の作成

平板測量によりトレンチの平面図を作成する。トレンチの周囲5 m以内の地形は,これも併せて表示する。縮尺は1/200程度,高さの精度は±5 cmとする。

H 現場管理

調査用地の保全および安全管理を適切に行うため,調査用地の周辺は,ロープやフェンスなどを用いて仮囲いし,関係者以外の者が無断で立ち入らないようにする。また,降雨などにより法面が崩壊する恐れがある場合には,法面をシートで覆い,崩壊を防ぐように努める。万一,災害や公害などが発生した場合は,直ちに関係機関に連絡する体制を維持する。

I 調査用地の復旧および撤収

トレンチの埋め戻しは,掘削残土を転圧して十分に突き固めながら慎重に行う。埋め戻し終了後,土地所有者から復旧完了の確認を得るとともに,復旧終了後は,直ちに仮設物・工事機器などを撤去する。