(1)火山灰分析結果

10cm間隔で採取した連続試料を用いて,トレンチで5列,試掘ピットで1列の火山灰分析を行った。その結果は下記のとおりで,図4−5−1図4−5−2図4−5−3図4−5−4図4−5−5図4−5−6に火山灰分析結果を,図4−6にトレンチのスケッチ上で火山灰の対比を行った図を示す。

@ OGTE−1

試料番号40付近:Aso−4混在

本層準は,微量ながら緑褐色の普通角閃石を含む。この角閃石のみの屈折率は,1.685−1.691を示す。

この屈折率は,町田・新井(2003)による阿蘇4テフラ(Aso−4)の角閃石の値(1.685−1.691)と一致する。また,この層準付近は,上下と比べて多くの高温型石英を含む。高温型石英は,Aso−4直下の約95,000年前に降灰した鬼界(きかいと)葛原(づらはら)テフラ(K−Tz)に目立って含まれることが知られている。

これらより,この層準付近には,約90,000年前に降灰したAso−4が混在していると考えられる。

試料番号24付近:SI

本層準は,下位の層準には全く見られない自形で色調のそろった緑色普通角閃石を含む。また,パミスタイプの火山ガラスも微量ながら含む。火山ガラスも角閃石と同様に,下位の層準からは検出されない。

屈折率は,火山ガラスで1.498−1.501,緑色普通角閃石で1.669−1.677程度である。なお,本層準は微量のカミングトン閃石も含み,屈折率は1.659−1.664を示す。

近畿地方に降灰が知られ,上記の記載と一致するものとしては三瓶(さんべい)火山起源の三瓶池田テフラ(SI)があげられるが,町田・新井(2003)によるSIの火山ガラスの屈折率は1.502−1.505,角閃石の屈折率は1.670−1.676であり,本層準の火山ガラスの屈折率はそれより低い値を示す。しかし,三瓶山の東に位置する島根県吉田町に分布するSIは,火山ガラスの屈折率に垂直変化が見られる(古澤,私信)。SIの下部では町田・新井(2003)の値を示すが,上部では1.498−1.501程度となり,この値は本層準の値と一致する。

したがって,本層準は約40,000年前(Machida,1999)に降灰したSI降灰層準に対比できると推定される。

試料番号13付近:AT

試料番号13を基底に,これより上位には火山ガラスが多産する。火山ガラスはバブルウォールタイプを主体とし,屈折率は1.497−1.500を示す。また,微量ながら斜方輝石も含み,その屈折率は1.730付近と非常に高いものも見られる。

これらは,町田・新井(2003)の姶良Tnテフラ(AT:約26,000〜29,000年前に降灰)の特徴と類似する。本試料の火山ガラスの屈折率は,町田・新井(2003)の値(1.498−1.5001)より若干低いが,風化により屈折率が低下することが明らかになっている(喜夛ほか,1999)。

したがって,試料番号13より上位には,ATが混在していると考えられる。

試料番号8付近:阪手

本層準付近は,緑色普通角閃石を多く含み,カミングトン閃石も目立って検出される。また,本層準には上下の層準には見られない,パミス〜低発泡タイプの火山ガラスも含まれる。

屈折率は,低発泡火山ガラスで1.499−1.504程度,緑色普通角閃石で1.669−1.675程度にまとまり,カミングトン閃石は1.661−1.665である。

これは,近畿地方でATを覆う阪手あるいは三瓶浮布テフラ(Suk)の特徴と類似する。火山ガラスの屈折率は,町田・新井(2003)のSukの値,1.505−1.507とは異なるが,加藤ほか(1996)では1.499−1.507の値が報告されている。阪手火山灰は1.498−1.503程度である(吉川ほか;1986,1991)。

したがって,本層準付近には約15,000〜16,000年前の阪手火山灰が降灰したと考えられる。

試料番号4:K−Ah

前述のとおり,試料番号13を基底にこれより上位にはバブルウォールタイプの火山ガラスが多産する。これらの屈折率を見ると,試料番号4を境に値に大きな変化がある。

火山ガラスは,本層準より下位では屈折率が1.498−1.501で水和不良の目立たないものを主体とし,上位では屈折率が1.509−1.514で水和不良の目立つものを主体とする。

前者はATであることをすでに述べたが,後者は町田・新井(2003)の約7,300年前に降灰した鬼界アカホヤテフラ(K−Ah)の特徴(火山ガラスの屈折率:1.508−1.516)と一致する。

したがって,本層準付近には,K−Ahが降灰したと考えられる。

A OGTE−2

試料番号36−40付近:Aso−4混在

本層準は,微量ながら緑褐色の普通角閃石を含み,その屈折率は1.685−1.690を示す。また,本層準付近は,上下と比べてやや多くの高温型石英が検出される。

これらより,OGTE−1の試料番号40付近と同様に、本層準付近にはAso−4が混在していると考えられる。

試料番号13付近:SI

本層準は,下位の層準には全く見られない自形で色調のそろった緑色普通角閃石を含む。また,パミスタイプの火山ガラスも微量ながら含み,火山ガラスも角閃石と同様に,下位の層準からは検出されない。

屈折率は,火山ガラスで1.497−1.500程度,緑色普通角閃石で1.670−1.677程度にまとまる。なお,本層準は微量のカミングトン閃石も含み,屈折率は1.660−1.666を示す。

これらより,前述のOGTE−1の試料番号24付近と同様に,本層準はSI降灰層準に対比できると考えられる。

試料番号6付近:AT

試料番号6を基底に,これより上位には火山ガラスが多産する。火山ガラスはバブルウォールタイプを主体とし,屈折率は1.497−1.500を示す。本層準には,微量ながら斜方輝石も見られ,屈折率は1.730−1.735付近と非常に高いものも含む。

これらより,OGTE−1と同様に,試料番号6より上位にはATが混在していると考えられる。

試料番号4付近:阪手

本層準は,緑色普通角閃石を多く含み,カミングトン閃石も目立って検出される。また,本層準は,上下の層準には見られないパミス〜低発泡タイプの火山ガラスも含む。

屈折率は,低発泡火山ガラスで1.499−1.504程度,緑色普通角閃石で1.670−1.676程度にまとまり,カミングトン閃石は1.660−1.665である。

これらより,本層準付近は,OGTE−1の試料番号8付近と同様に,阪手火山灰が降灰したと考えられる。

B OGTW−1

試料番号36付近:SI

本層準は,下位の層準には全く見られない自形で色調のそろった緑色普通角閃石を含む。また,パミスタイプの火山ガラスも微量ながら含み,角閃石と同様に下位の層準には見られない。

屈折率は,火山ガラスで1.495−1.500程度,緑色普通角閃石で1.670−1.675程度にまとまる。なお,本層準には微量のカミングトン閃石も含まれ,屈折率は1.660−1.666である。

これらより,本層準も町田・新井(2003)より火山ガラスの値が若干低いが,OGTE−1の試料番号24付近などと同様に,SI降灰層準に対比できると考えられる。

試料番号23付近:AT

試料番号23を基底に,これより上位には火山ガラスが多産する。火山ガラスはバブルウォールタイプを主体とし,屈折率は1.496−1.501である。本層準付近に微量ながら含まれる斜方輝石には,屈折率が1.730−1.734と非常に高いものも含まれる。

これらより,OGTE−1などと同様に,試料番号23より上位には,ATが混在していると考えられる。

試料番号15付近:阪手

本層準は,緑色普通角閃石を多く含み,カミングトン閃石も目立って検出される。また,本層準は,上下の層準には見られないパミス〜低発泡タイプの火山ガラスも含む。

屈折率は,低発泡火山ガラスで1.498−1.502程度,緑色普通角閃石で1.670−1.675程度にまとまり,カミングトン閃石は1.659−1.665を示す。

これらより,OGTE−1の試料番号8付近などと同様に,本層準には阪手火山灰が降灰したと考えられる.

試料番号6:K−Ah

試料番号23を基底に,これより上位にはバブルウォールタイプの火山ガラスが多産するが,これらの屈折率は,試料番号6付近を境にして大きな変化が認められる。

火山ガラスは,試料番号6付近より下位では屈折率が1.497−1.501で水和不良の目立たないものを主体とし,上位では屈折率が1.509−1.513で水和不良の目立つものを主体とする。

これらの特徴より,OGTE−1の試料番号4付近と同様に,前者はATであり,後者はK−Ahであると推定される。

したがって,本層準付近に,K−Ahが降灰したと考えられる。

C OGTW−2

本地点では試料番号3〜13付近に,微量ながら緑褐色の普通角閃石を含み,Aso−4に特徴的な緑褐色普通角閃石と色調が類似する。また,この層準には,全体に高温型石英が微量ながら含まれる。

これらより,OGTE−1の試料番号40付近などと同様に,試料番号3〜13付近の礫層形成期は,Aso−4降灰期に近接している可能性が指摘できる。

D OGTW−3

試料番号32−48付近:Aso−4混在

本層準は,微量ながら緑褐色普通角閃石を含み,その屈折率は1.685−1.691を示す。また,この層準付近は,上下と比べてやや多くの高温型石英を含む。

これらより,OGTE−1の試料番号40付近などと同様に,本層準付近にはAso−4が混在していると考えられる。

試料番号15付近:SI

本層準付近は,下位の層準には全く見られない自形で色調のそろった緑色普通角閃石を含む。また,本層準はパミスタイプの火山ガラスも微量ながら含み,角閃石と同様に下位の層準には見られない。

屈折率は,火山ガラスで1.497−1.500程度,緑色普通角閃石で1.670−1.677程度にまとまる。なお,本層準は微量のカミングトン閃石も含み,屈折率は1.660−1.665を示す。

これらより,本層準も町田・新井(2003)より火山ガラスの値が若干低いが,OGTE−1の試料番号24付近などと同様に,SI降灰層準に対比できると考えられる。

試料番号8付近:AT

試料番号8を基底にこれより上位には,バブルウォールタイプのガラスを主体とする火山ガラスが多産し,その屈折率は1.496−1.501を示す。本層準に微量ながら含まれる斜方輝石には,屈折率が1.730−1.738付近と非常に高いものも含まれる。

これらより,OGTE−1などと同様に,試料番号8より上位には,ATが混在していると考えられる。

E OG1T

試料番号27付近:SI

本層準は,下位の層準には全く見られない自形で色調のそろった緑色普通角閃石を含む。また,パミスタイプの火山ガラスも微量ながら含み,角閃石と同様に下位の層準には見られない。

屈折率は,火山ガラスで1.497−1.501程度を示し,緑色普通角閃石は1.668−1.679で,1.671−1.678程度にまとまる。

これらより,本層準もOGTE−1の試料番号24付近などと同様に,SI降灰層準に対比できると考えられる。

試料番号13−14付近:AT

試料番号14を基底にこれより上位には,バブルウォールタイプを主体とする火山ガラスが多産し,含有率は最大92%程度となる。その屈折率は,1.496−1.501で1.498−1.5005にモードが見られる。本層準に微量ながら含まれる斜方輝石には,屈折率が1.730付近と非常に高いものも含まれる。

これらは,OGTE−1の試料番号13付近などと同様にATの特徴と類似し,試料番号13,14のガラス質テフラは,ATである。

試料番号7付近:阪手

試料番号7付近は,緑色普通角閃石を多く含み,カミングトン閃石も目立って含まれる。また,本層準は,上下の層準には見られないパミス〜低発泡タイプの火山ガラスも検出される。

屈折率は,低発泡火山ガラスで1.499−1.503程度,緑色普通角閃石で1.669−1.677程度にまとまり,カミングトン閃石は1.660−1.664に値がややまとまる。

これらより,本層準付近にはOGTE−1の試料番号8付近などと同様に,阪手火山灰が降灰したと考えられる。

K−Ah

試料番号1〜4には,それらより下位には含まれない,屈折率1.510−1.514でバブルウォールタイプの火山ガラスが含まれる。この火山ガラスは,ATと同定した層準に含まれる火山ガラスに微量に混入する状態で産出し,水和の不良が目立つ。

これらの特徴および層序から,試料番号1〜4には,K−Ah起源の火山ガラスが混入していると考えられる。