断層活動に伴う変位地形は明瞭であり,随所で左横ずれ変位を示す谷筋や尾根筋の屈曲が認められる(表5−5)。なお,安富町安志以東は,断層線の直上に中国自動車道が建設されたため,現在は断層変位地形(屈曲部)の大部分は観察できない。断層に沿って,大規模な破砕帯(超丹波帯の頁岩・砂岩中)が数カ所で確認できる。
安富断層では,トレンチ調査が2箇所で実施されている。その結果,安富断層の最新活動がどちらのトレンチ調査においても1000年前の前後数百年の間に生じていることが判明し,西暦868年播磨地震の起震断層として安富断層が活動した可能性がある。活動間隔については,岡田ほか(1987)のトレンチ調査では,1回前の活動が不明確なため 1000年〜数千年程度と推定している。
一方,兵庫県(1996)のトレンチ調査では,壁面から直接読み取った最新活動時期と1回前の活動により生じたとみられる断層の活動間隔(1400年〜1700年程度)の信頼度がやや低いことから※1,地層の上下変位成分の累積性に比例関係が成り立つと仮定した場合の活動間隔(1630年〜2540年)をも参考にし,千数百年〜二千数百年と推定している(表5−5, 図5−9、図5−10)。
表5−5 安富断層の諸元
※1地層の年代情報が少なく,信頼度に問題があると考えられる.
図5−9 安富断層《安富町安志》トレンチの壁面模式図(引用:岡田ほか(1987))
最新活動に対応する断層の活動時期は,トレンチCで最も精度良く求められた。断層は,1170年前の地層を切り750年前の地層により覆われていることから, 最新活動時期は, 750年〜1170年前の間と推定している。
一方, トレンチAでは, 最新活動時期はトレンチCの結果より幅はあるものの,480年〜1710年前の間に特定され, トレンチCと整合する結果が得られた。また,5560年前の地層が,最新活動のみによる変位を受けた1800年前の地層に比べ,より大きな変形を受けていることから,その間に最低1回は活動していると推定している。さらに,Aトレンチを切り広げたところ,2540年前の地層を切り,1910年前の地層に覆われた断層(F‐3)が見つかったため,これが最新活動の1回前の活動によって生じた可能性を指摘している。
最新活動時期については,750年前〜1170年前の間に絞り込まれることから, この活動が西暦868年播磨地震の起震断層に相当する可能性が高い。一方,活動間隔については, 1910年〜2540年前,あるいは1800年〜5560年前の間にも不明確ながら断層変位あるいはそれに伴う地層の引きずりは認められるものの,1回前の活動時期が明確にはわからないため,1000年〜数千年程度と評価された。
図5−10 安富断層《安富町安志》トレンチ(兵庫県(1996)を一部修正)
最も上位まで延びる断層(F‐1)は,B層(14C年代値1600年〜2290年前)を切り,A層(14C年代値710年前以降)により覆われていることから,最新活動時期は,710年前以前,1600年前以降の可能性が高い。
D 層を切りB層あるいはC層(14C年代値2510年前)には延びていないようにように見えるF‐2断層は,最新活動に先立つ活動により形成された可能性がある。この断層が,D層(14C年代値2840年〜2930年前)堆積後, C層堆積前に形成されたとすると,2510年〜2840年前の間に活動したことになる。ただし, D層は礫がちの地層であり, 年代値は透水性の高い砂礫層中に含まれる材片であること※1,年代情報が少ないことなどから,年代特定の精度はやや低い。
また,D層とE層(14C年代値7520年〜8880年前)の間には顕著な不整合があり,その間に1回以上の活動があった可能性が高い。さらに下位の地層中にも多くの断層が認められ,特にI層を切りH層に覆われる断層(F‐4,F‐5),J層を切りI層に覆われる断層(F‐6)は,それぞれ活動時期の異なるイベントを記録したものと見られ,トレンチ壁面に現れた最も古いJ層中に挟まれるAT火山灰層(約24000年前)の堆積以降,安富断層が何度も繰り返し活動していることが判明した。
活動間隔は,最新活動時期を西暦868年播磨地震と仮定した場合,1回前の活動との年代差から1400年〜1700年程度と求められるが,年代情報が少ないことなどから信頼度がやや低いと見られる。各年代の地層の上下変位成分の累積性に比例関係が成り立つと仮定した場合※2 の間隔(1630年 〜2540年)も参考にすると,活動間隔は,千数百年〜二千数百年と推定される。
※1 透水性の高い地層を流動するモダンカーボンを含んだ浅い地下水が,材に浸透することにより,実際の年代より新しい年代のものとして計測される場合がある。
※2 断層を挟んだ地層の上下変位量は,以下の通り。
B層(1600年前〜2290年前の地層)基底面:0.2m
D層(2840年前〜2930年前の地層)上面 :0.4m
G層(12360年前〜12880年前≒12500年前の地層)の上面:1.5m
AT火山灰層(24000年前)の上面:2.1m
1回の上下変位量を0.2mとすると,単純に変位の累積が正比例すると仮定した場合, 計算上,@ G層(12500年前)堆積以降7〜8回,A AT火山灰層(24000年前)堆積 以降10〜11回の活動履歴があったことになる。
これから活動間隔を求めると,@ の場合(最新活動を西暦868年播磨地震と仮定した場合)1900年〜1630年, A の場合(最新活動の仮定は同上)2540年〜2290年となり,活動間隔は千数百年〜二千数百年程度と算定される。