【地形判読の基準】
当地域には,広大な段丘地形が発達しており,段丘面は場所により何段にも細かく分けられ,いずれも第四紀後半(更新世中期から後期)になって形成されたと考えられることから,活断層の活動状況を把握する上で重要な変位基準となる。
段丘面の区分については,当地域では古くから多くの研究者により何種類もの区分法が用いられてきた(表3−1−3)。これらに共通している点は,段丘面が大きく見て高位,中位,低位の三つのグループに分けられることであり,その他,高位段丘が大阪層群上部亜層群(明美累層)の堆積面であること,中位段丘(西八木面)が最終間氷期に形成されたことがわかっている。今回の調査では,これらの知見と空中写真判読,地表踏査などに基づいて表3−1−3の右端に示した区分を採用した。
表3−1−3 東播磨地域の段丘面対比表
活断層あるいは断層によると考えられる変位地形・リニアメントについては,以下の認定基準を設けて表現した。
・断層変位地形:明瞭な段差を持つ連続性の良い低崖。
谷・尾根筋の系統的な屈曲(屈曲部が直線状に並ぶ)。
・リニアメント:直線状の谷・鞍部が線状に追跡できるもので,上記の断層変位地形が明瞭でないもの。
【地形判読結果】
空中写真の判読結果(地形面区分,断層変位地形,リニアメントなど)については,地域ごとに分割し,縮尺1/25,000地形図に写し取った(図3−1−24,図3−1−25,図3−1−26,図3−1−27,図3−1−28,図3−1−29,図3−1−30,図3−1−31,図3−1−32,図3−1−33)。また,これらの全体図(縮尺1/100,000)を図3−1−23,図3−1−23−1に示した。
《段丘などの分布状況》
段丘地形は,市川左岸,加古川両岸部を中心に広く発達する。特に加西市から小野市域の加古川右岸部にかけての青野ヶ原台地,小野市から三木市域にかけての加古川左岸部および美嚢川〜加古川下流域の明美丘陵には広大な高位段丘が分布している。中位段丘や低位段丘は,高位段丘の周囲に囲むように分布しており,高位段丘を開析した河谷に沿って形成されたことを示す(図3−1−23,図3−1−23−1)。
高位段丘面は,加古川左岸(小野市万勝寺付近)では明瞭な段丘崖を介し3〜4段に分けることができる。勝寺付近に分布する最高位の面は,加古川右岸の青野ヶ原台地の高位段丘面に対比されるが,他の地域では,高位段丘面を細分化することは困難になる。そのため,当地形判読図では,高位段丘のうち周囲の高位段丘面より明かに高い面を高位段丘上位面,その他の高位段丘面は高位段丘下位面として区別した。
一方,調査地域南西部(市川,万願寺川,加古川に囲まれた山地)は,基盤岩の露出する山地にあたり,段丘地形はあまり発達していない。かわって,山地斜面下方に緩斜面が随所に分布するようになる。この斜面は,田中眞吾・井上茂・野村亮太郎(1982)による麓屑面と称される寒冷期(堆積層中にAT火山灰が見つかったため最終氷期最寒冷期頃と解釈されている)に形成された崖錐堆積地と考えられる。
《リニアメント・断層変位地形》
当地域には,山崎断層帯に平行する北西−南東方向のリニアメントが多く発達する。
また,これにやや斜交する西北西〜西−東南東〜東方向のリニアメント,直交する北東−南西方向のリニアメントもみられる。
特に,調査地域南西部に基盤山地中には,長短多くの鮮明なリニアメントがみられるが,リニアメントの多くが谷に沿ってはしっていること(横ずれ変位を示す谷・尾根の系統的な屈曲が表れにくい),上下方向の変位基準となる段丘面が未発達なことなどから,今回調査でも活断層と断定できるリニアメントはみつかっていない。
一方,活断層(琵琶甲断層,三木断層)が推定されている高位段丘分布地域においては,随所に変位地形の可能性が高いリニアメントが認められる。
琵琶甲断層(a)周辺:加西市横田〜琵琶甲町にかけて,高位段丘下位面上を北西−南東方向に延びる高さ5m前後の直線的な低断層崖が約3kmにわたって追跡される。さらにこの崖に沿って,高位段丘下位面を開析する谷筋の系統的な屈曲(左横ずれ屈曲量50〜150m)が認められる(図3−1−34,図3−1−35)。琵琶甲断層(a)の東方,野条から中野にかけては,面上の人工改変が進んでいるため,断層位置の確認は困難となる。しかし,当段丘面の勾配が琵琶甲断層(a)の東方延長部では,わずかながらその上下流部に比べ若干急になることが地形図から読み取れる(図3−1−35)。
琵琶甲断層(b)周辺:琵琶甲断層(a)とその南東延長部に位置する琵琶甲断層(b)との間には,万願寺川の沖積低地が発達する。この低地に分布する低位段丘には断層変位を示すような明瞭な変位地形は読み取れない。万願寺川の左岸,青野ヶ原と称される高位段丘上位面に入ると,北西−南東方向に延びる低層崖(撓曲崖)が,台地西端から東端まで2kmにわたって追跡される。崖を挟んでの面の高度差はおよそ15m程度であり,崖に沿って高位段丘上位面内の谷筋の系統的な屈曲(左横ずれ屈曲量50〜100m)も認められる。
三木断層周辺:琵琶甲断層(b)と三木断層の間は,加古川が高位段丘を大きく開析し,断層位置は不明瞭となる。ただし,加古川低地に発達する低位段丘では,小野市下大部町から田園町にかけ,北西−南東方向に延びる低崖とこの崖に沿う浅い凹地(池が点在)がみられる。さらに南東方向に位置する三木市市街地北西部の高位段丘上位面には,高度差20m程度で北西−南東方向にのびる断層崖(撓曲崖)がみられる(図3−1−36)。三木市街地が広がる美嚢川の低地帯は幅広い沖積低地となっているため,活断層による明瞭な変位地形は認められないが,さらに南東側延長部の三木市役所が位置する中位段丘面や明美丘陵の高位段丘下位面上では,断続的ながら活断層の可能性があるリニアメントが三木市志染町付近まで追跡される。
三木断層に直交方向のリニアメント:三木市別所町興治から稲美町草谷にかけ,北東−南西方向(山崎断層帯の方向にほぼ直交するかたち)に約2kmにわたって,高位段丘下位面中に断層変位地形とみられる高度差3〜5m程度(南東落ち)の低崖が発達する。さらに南西部の稲美町野寺付近では,その延長状に断層運動によるとみられる地形面の凹凸が線状に分布している。
主なリニアメントのうち注目されるのは,姫路市豊富町神谷から加古川市志方町広尾にかけて北西−南東方向に約12kmにわたって延びるもの,姫路市豊富町御蔭から加古川市志方町氷室にかけ北西−南東方向に約8kmにわたって延びるもの,姫路市飾東町志吹から加古川市志方町成井にかけ北西−南東方向に約5kmにわたって延びるものがあげられる。