1) 試料分析
トレンチ壁面より採取した試料および別途に実施されたボーリング試料などを用いて、放射性炭素同位体分析と火山灰分析を実施した。試料採取箇所は図3−5−12に示すとおりであり、得られた分析結果を表3−5−4と表3−5−5にまとめて示す。
表3−5−4 炭素同位体分析結果一覧表
表3−5−5 火山灰分析結果一覧表
2) 地質解釈
壁面観察および分析結果を踏まえて地質解釈を行った結果が図3−5−14である。
図に示したように、トレンチ壁面の地層は表土部を除いて第T層〜第X層までの5層が識別される。各層の特性をまとめると以下のとおりである。
第T層:北面全面と東西面の北端部に見られる砂礫層である。断層の上盤側に表土層直下より分布しており、低位段丘相当層の伊丹礫層に対応する砂礫層であると考えられる。礫径は径5〜10cmが平均的であり、亜円〜亜角礫を主体とする。基質は花崗岩質の粗粒砂で充填されている。礫種は有馬層群に属する流紋岩質岩石が多いが、併せて六甲花崗岩に属すると思われる花崗岩礫や、丹波層群に由来するチャート礫などが多く含まれている。また、含有礫は北面において、右上〜左下にかけて覆瓦構造様に配列する傾向が認められる。
第U層:断層下盤側の最下部を構成する砂礫層である。礫は円〜亜角礫が主体的であり、φ2〜4cm程度の礫径が平均的であるが、トレンチ底の砂礫層最下部で礫径が大きくなる傾向がある。基質はシルト質中粒〜極粗粒砂で充填されている。礫種はほとんどが有馬層群に属する流紋岩質凝灰岩であり、第T層に見られた花崗岩礫やチャート礫はむしろ少い。第T層と同じ伊丹礫層に属する砂礫層と考えられるが、含有礫種の構成や基質が異なることより、第T層とは異なる地質層準である可能性が大きいといえる。
第V層:砂〜細礫を混入する不均質なシルト層である。所々にφ5cm程度の礫を混入するが、最下部の10cm厚にはφ5〜10cm大の礫が多く含まれる。下位の第U層とは整合的であるが、堆積年代は不明である。本層は東面において明らかなように、壁面の北部において尖滅するが、撓曲構造に起因した形態であると考えられる。これは西面においては明らかでなく、第V層は壁面北部において断層で断ち切られたように急激に消滅する。しかし、東面に連続しないことや、下位の第U層に断層面が確認されないことなどより、断層に直接的に起因した構造ではないと考えられる。むしろ、第V層と第W層との間の地層削剥時における局部的な浸食作用の影響による構造であると思われる。また、本層は年代決定に有用な腐植物の混入がきわめて乏しく、形成年代の決定が困難であった。微量の腐植物片を用いてAMS法で分析した結果によると、20〜130YBPというきわめて新しい測定値が得られたが、地層の観察結果より妥当性を欠くデータであり、地層形成後における上部から侵入、たとえば木根等の測定結果であると判断される。なお、本層における堆積年代の推定に際しては、火山灰分析結果が参考となる。すなわち、第V層上部付近においては、AT火山灰起源と思われる火山ガラスが検出されており、その堆積年代としては24,000YBP前後である可能性が指摘される。したがって、本層は低位段丘相当層である伊丹礫層の一部に相当する可能性があろう。
第W層:細礫を混入するシルト質砂層である。砂は中粒〜極粗粒砂で構成されている。第U・V層を不整合に覆って分布する。第V層に見られる撓曲構造の影響は受けてなく、ほぼ水平な堆積構造を示す。トレンチ北端に確認された断層付近においては、扁平な礫がいくぶん傾斜して配列する傾向がわずかに見られることより、断層運動の影響によって引きずられた可能性があると思われる。しかし、断層崖形成時において、崖上部より崩壊した崩積土が混入している可能性も大きいであろう。炭質物をほとんど含まず、年代決定が明確にされなかった地層である。しかし、第V層と同様にAT火山灰起源と思われる火山ガラスが検出されており、その堆積年代としては24,000YBP前後である可能性が大きい。
第X層:細礫を混入するシルト質砂層である。砂は細粒であるが、堆積構造はほとんど見られない。第W層とは整合的であり、礫の含有量や基質が異なることより、区別はできるが、その境界は不明瞭である。また、トレンチ南部では盛土によってその連続性が確認されていないが、断層崖付近においてのみ分布するため、崖錐性の堆積物である可能性もあり、断層運動と地層形成との関係が不明確である。
図示しているように、地形に表れていた断層崖の直下付近に断層構造が確認される。この断層は、直立礫の明瞭な配列と、上述した第U〜W層および第X層(?)との不連続によって特徴づけられる。また、直立傾向にある礫は20〜40cm幅を有しており、破砕帯を形成していることがわかる。その活動イベントは、断層面が単一ではなく、破砕帯を形成していることより、複数回におよぶものであると考えられるが、その詳細な活動年代に関しては特定できるだけの情報は得られていない。しかし断層の上位で、表土層の下部あるいはその直下で採取した試料の年代測定結果は<230YBPが得られており、断層崖として地形に保存されていることなどより判断すると、その最終活動期はかなり新しい時代であったと推定される。
一方、第V層の撓曲構造によって推定される断層運動は、上述した断層形成よりも古く、異なる時代における活動であり、第W層堆積前のイベントである。その年代は火山灰分析結果より判断してAT火山灰の降灰以前であると推定され、少なくとも24,000YBP以前となる。
以上より、トレンチ壁面より読み取られる断層活動は複数回であり、少なくとも2回以上の活動イベントがあると判断され、第四紀後期において継続的な活動を続けているものと考えられる。また、断層変動量に関しては、断層の上盤側と下盤側で明らかに対比できる地層が存在していないため、不明である。