(4)地質解釈

図3−3−45は本調査で実施したP波反射法探査測線位置であり、本調査地域周辺でこれまでに実施されたP波探査測線位置を併せて示している。また、P波反射法探査の地質構造解釈結果を図3−3−46−1図3−3−46−2図3−3−47−1図3−3−47−2図3−3−48−1図3−3−48−2図3−3−49−1図3−3−49−2に示す。なお、各図に記入した数字は速度解析による推定P波速度(単位:m/sec)である。

以下に、各探査測線の地質解釈をまとめる。

1)夙川測線

・測線南側のCMP No.1〜400 の区間においては、基盤岩上面は見かけで約10度の緩い南傾斜を示し、測線南端で深度約1300mである。この区間の大阪層群の堆積構造も同様に南傾斜を示すが、浅くなるにつれて傾斜が小さくなる累積性が認められ、基盤岩の傾動は大阪層群堆積時代の運動であると推定される。なお、CMP No.300 付近の大阪層群に、わずかな傾斜の変曲点が認められる。これは地形判読結果で推定されている西宮撓曲の位置とほぼ一致する。この撓曲は、次に述べる北側の逆断層によるものである。

・CMP No.410〜520 の基盤岩上面には、見かけの傾斜が約25度の低角な逆断層が認められる。この断層の鉛直落差は約500mであるが、これを覆う大阪層群の変形は上記した撓曲を形成しているが、逆断層による変動量よりも少なく、大阪層群中・上部亜層群の堆積時における活動性はいくぶん低下したようである。

・大阪層群はCMP No.440 付近を境に、北側はCMP No.580 付近までほぼ水平な堆積構造となる。この変曲点である CMP No.440 は、堆積構造が比較的浅部まで破砕されている様子が認められ、新しい活動の痕跡である可能性はある。また、地形判読結果ではこの地点より北東方向に延びる北西落ちのリニアメントが認められる。深部の断層構造との関係を考えると、古い衝上断層の先端部の抜け上がりに伴う構造と推定され、西宮撓曲の形成と連動したものと考えられる。

・CMP No.580〜650は従来甲陽断層が推定されている場所の周辺であるが、この部分の基盤岩上面の確認は非常に困難であり、幅の広い破砕帯であると考えられる。この区間の大阪層群は CMP No.620を頂点に盛り上がっているように認められるが、このような構造は横ズレ成分の大きな断層で見られる場合が多く、CMP No.620付近がこの破砕区間の中でも最も新しい活動の場所である可能性がある。

2)小林測線

・測線の東半分(CMP No.1〜250)の基盤岩上面および大阪層群は東傾斜を示し、また大阪層群の傾斜は浅くなるにつれて緩くなる傾向が認められる。基盤岩上面の測線東端における深度は約550m、上面の見かけの傾斜は約30度である。

・地表の位置でCMP No.300〜320には、見かけの傾斜が約40度の逆断層が認められる。この断層は地表付近まで非常に明瞭で、基盤岩内部にも容易に追跡できる。両側の基盤岩上面の落差は20m程度と小さく、比較的新しい時代に活動を始めた断層ではないかと推定される。

・CMP No.200 から上記の断層までの区間は、基盤岩上面が急激に浅くなっている様子が認められるが、堆積層と基盤岩上面の関係はあまり明瞭には把握できない。ここでは反射の強度および速度解析によるP波速度推定値を参考に、断続的ではあるが基盤岩上面を推定した。この区間の深部では、速度解析結果でP波速度が3Km/secを超える地層が非常に厚い。大阪層群は従来の探査結果では3Km/secを超えるのは千数100m以深であり、この場所での3Km/secを超す地層は破砕あるいは風化した基盤岩と判断される。 

つぎにこの区間の大阪層群をみると、CMP No.220付近では深度200m以深の堆積層が不明瞭となるのに対して、CMP No.260 では深度100m以深の堆積層が不明瞭である。このように、上記の断層に近づくに従って浅部のより新しい地層が不明瞭になる様子が認められる。堆積層が不明瞭になる原因を断層運動によるものと考えると、古い時代には東側に位置する断層が活動的であったが、徐々に活動的な場所が上記の西側の断層の位置まで移動し、またこれらの断層によりCMP No.200〜320の区間の基盤岩の落差が形成された、と考えるとこの構造をよく説明できる。

以上はあくまで仮説であるが、前述の夙川測線でも現在活動的と思われる断層の前縁に古い断層が潜在している様子が認められた。これは従来他の断層系で認められている、新しい活動は断層の前縁に乗り移るという定説とは反する。六甲断層帯東部に特異な理由があるものと考えられるが、今後の課題である。

・なお上記CMP No.320付近の断層は、夙川測線における甲陽断層の推定位置と、平成7年度に兵庫県が実施した武庫川測線において測線北端で確認された断層位置を結んだ線上に位置する。また地形判読結果に明瞭に表れる甲陽断層もこの線上に位置し、この断層が甲陽断層であることは明らかである。

・次に西宮撓曲の位置が問題となる。夙川測線では、西宮撓曲は古い前縁断層のより前縁側にあった。同様に考えると、CMP No.200 付近より東側に西宮撓曲が位置するはずである。またCMP No.1〜200の区間では、地層の傾斜が東(前縁側)に行くに従いやや大きくなる傾向が認められる。以上より西宮撓曲の延長は測線東端、あるいは武庫川河川敷内に位置するものと推定された。しかし、隣接する武庫川測線ではこれに相当する撓みは認められず、西宮撓曲が甲陽断層と共に武庫川を越えて延長する可能性は小さい。

3)甲東園測線

・この測線では大阪層群が約1000m堆積しており、市街地のインパクタ−探査では基盤岩上面を明瞭にするのは難しい。記録の特徴および速度解析結果などより、基盤岩深度は測線東端で約1000mまた西端では約900mと推定されるが、非常に不明瞭で地質構造解釈図には記載していない。

・大阪層群は CMP No.200 付近に撓曲が認められ、またこの撓曲には累積性が認められる。この位置は地形判読における西宮撓曲の位置にほぼ一致しする。なおCMP No.330 付近を背斜軸とする微小な撓みが認められるが、これを説明する周辺の情報は特に見当たらない。

4)深江測線

・この測線は、地質調査所の実施した芦屋川沿いの測線の西側約400〜500mの位置に平行する測線である。このように、既存の測線の近傍に新たな探査測線を設定した理由は、芦屋川測線と併せることにより構造の方向が判ること、また地質調査所の記録は地下数キロの深部構造調査を目的としているため、本調査にとって最も重要な表層100mの構造はほとんど得られていないためこれを補うためである。

・本測線の大阪層群の堆積構造は北端部を除きほぼ平坦で、平均20度前後の南傾斜を持つ隣の芦屋川測線とは非常に異なるものである。特に中部亜層群以深は、むしろ緩い北傾斜を示す。

・基盤岩上面は不明瞭であるが急な南傾斜を示し、大阪層群下部亜層群はこの傾斜面にアバットしている。芦屋川測線では基盤岩の急な南傾斜を示すが、大阪層群は基盤岩の傾斜に沿って傾斜している。

・なお、測線北部には、正断層のような妙な構造がみられる。この構造はマイグレ−ションではきれいな構造には戻らず、この地点で測線方向に近接して斜交する断層構造を考えざるを得ない。この構造と上記の芦屋川測線との差異を総合すると、深江測線と芦屋川測線との間に西宮撓曲を解消する西落ちの急激な傾斜構造が想定される。

5)P波探査結果の総合検討

図3−3−45には探査位置と併せて得られた結果を総括して平面図に示したが、総合的な検討結果をまとめると以下のとおりである。

・小林測線,夙川測線および芦屋川測線のいずれにおいても、現在活動的と考えられる断層は下部亜層群堆積時あるいは直後に活動的であったと推定される逆断層の後ろ側(山側)に位置し、小林測線・夙川測線ではこれが甲陽断層である。芦屋川測線は他機関の調査で詳細な検討が出来ないため、甲陽断層との関連はまだ充分にはなされていない。しかし、後述の理由で甲陽断層が深江測線の南端より南に続く可能性は少ないものと考えられる。

・地形判読で確認されている西宮撓曲は、いずれも反射断面では上記の現在あまり活動的ではない逆断層の先端に位置し、緩やかな撓曲であることが確認された。したがって、西宮撓曲は構造的に断層活動の履歴を調査するのが難しいばかりでなく、山側に位置する現在活動的な断層の運動により2次的に動く古い逆断層の動きを表現しているものと推定される。

・深江測線における大阪層群はほぼ平坦で、隣接する芦屋川測線に見られる西宮撓曲およびその北側の大阪層群の傾斜構造は認められない。また、深江測線の北端には傾斜した堆積構造との斜交によると考えられる反射構造が認められる。これを総合すると、芦屋川測線と深江測線の間に急激に西落ちに傾斜する構造が推定される。

・この構造により西宮撓曲はここで解消し、西には連続しない。また深江測線南端付近で、両測線の基盤岩上面深度はほぼ一致する。従って、上記の様に甲陽断層の延長が深江測線の南部に延びる可能性は非常に少ないものと判断できる。