デ−タ処理は、基本処理と解釈のための処理の2種類に区分される。これらの各処理の流れは図3−3−20に示すとおりであり、その概要を以下にまとめる。
◎基本処理
a.初期編集‥‥‥デ−タ整理・CMP編集
b.靜補正 ‥‥‥表層靜補正・標高補正・残留靜補正
c.波形処理‥‥‥プレフィルタ−・位相振幅補償・デコンボリュ−ション
d.速度解析‥‥‥重合のための速度を求める
e.重 合
これらは時間断面の作成を目的とする処理である。この過程では、記録の質が良好な限り、余り人為的な処理操作は含まれない。
◎解釈のための処理
a.マイグレ−ション‥‥地層の傾斜・回折による見かけの断面を補正する
b.深度変換‥‥‥‥‥‥時間断面を深度断面に変換する
これらは、時間軸上で与えられた見かけ上の記録から、真の地質構造を推定するための処理である。この処理においては、与えた速度分布により結果が大きく異なることがあり、できる限り正確な速度分布を与える必要がある。
各測線におけるデ−タ処理の手順および各種パラメ−タ−を表3−3−1、表3−3−2、表3−3−3、表3−3−4に示す。表3−3−1 デ−タ処理手順および処理諸元一覧表【夙川測線】
表3−3−2 デ−タ処理手順および処理諸元一覧表【小林測線】
表3−3−3 デ−タ処理手順および処理諸元一覧表【甲東園測線】
表3−3−4 デ−タ処理手順および処理諸元一覧表【深江測線】
2)初期編集
A.デ−タ整理・・・・ノイズ除去、不良デ−タの除去、測量デ−タ整理等を行う。
B.CMP編集・・・・測定を道路沿いおよび障害物を避けて実施したため、反射中点(CMP)は一般に平面上に分布する。重合用測線は、これらのCMPの分布を最適に通る折れ線として設定し、この測線沿いにCMP編集を行った。なお、重合測線はオフセット距離(震源−受震器間距離)が比較的短いものを考慮して決めた。
3)靜補正
静補正は、低速度の表層を第2層の速度で置き換え、震源点・受震点付近の局所的な表層の影響を取り除く処理である。この処理の目的は、
イ.表層の速度層厚は変化が激しいため、表層を通過する時間は震源・受震点により様々である。これをできるだけ一定にする。
ロ.表層と第2層との速度差は一般に大きいため、解析上仮定している直線波線から大きく外れる。これを補償する。
ハ.震源・受震点の標高差による影響を除去する。
などである。実際には次の3段階の補正を実施した。
A.表層静補正・・・・一般的には屈折法により表層をはぎ取る方法が用いられるが、特に、ミラ−ジ的な速度変化を示すような速度構造地盤では、必ずしも精度の高い補正値を得られるとは限らない。ここでは「屈折波を用いたトモグラフィ−」により静補正値を算出し、表層に起因する乱れを補正した。
この処理の手順は次のとおりである。図3−3−21、図3−3−22、図3−3−23、図3−3−24にトモグラフィー解析の結果を示す。
イ.観測波形よりP波の初動走時を読み取る。
ロ.差分格子点に適当な初期速度分布値を与える。
ハ.アイコナ−ル法によりある震源点で起震した場合の各格子点の初動走時を計算する。
ニ. 初動走時分布をもとに波線を求める。
ホ. 各波線の観測走時と計算走時の比を修正係数とし、波線周辺の格子点に記憶する。
ヘ. ハ.〜ホ.を全震源点についておこなう。
ト. 格子に配られた修正係数をもとに新たな速度分布を算出する。
チ. ハ.〜ト.を収束するまで繰り返す。
B.残留靜補正・・・・NMO補正後に、最大値を6msecに制限した自動残留靜補正解析を行った。
C.CMPアンサンブル内での標高靜補正・・・・NMO補正前に、各アンサンブルごとにその平均標高までの標高差補正を行った。なお、補正速度は1650m/secを用いた。
D.重合後標高補正・・・・マイグレ−ション、深度変換後に各CMPの平均から基準標高までの標高補正を行った。基準標高は夙川測線でTP.100m、小林・甲東園・深江測線はEL.30mとした。また、時間断面図のプロットの際も、地表平均標高(floating datum)から基準標高までを、1650m/secの速度を仮定して、標高補正を実施した。
4)波形処理
◎初期処理
波形処理のうち最も重要な処理は、パルスの短縮、短い周期の多重反射の除去、スペクトルの平滑化などを目的に実施するデコンボリュ−ションである。この処理を良好にするため、次の前処理を実施した。
・プレフィルタリング・・・・再帰型のフィルタ−を用い、位相特性は次の位相補償で併せてミニマムフェ−ズに直した。
・位相補償・・・・デコンボリュ−ションが有効に働くためには、トレ−スがミニマムフェ−ズ特性であることが条件の一つである。測定系でもっともこの条件を満たさないものは、探鉱機のフィルタ−の位相特性である。これをミニマム位相特性に戻すフィルタ−を設計し、補償を行った。
・振幅補償・・・・次の2段階に分けて実施した。
A.全トレースよりオフセット距離(震源−受震器間距離)別に振幅の時間減衰特性を統計的に求め、この特性の逆数で振幅補償を行った。
B.次に各トレース別に、所望のゲ−ト幅で平均振幅の時間変化を求め、振幅補償を行った(AAC)。
◎デコンボリュ−ション
夙川測線では自己相関演算のゲ−ト長1500msec、フィルタ−長200msec、ホワイトノイズ3%のタイム・バリアント型ホワイトニング・デコンボリュ−ションを用いた。
このデコンボリュ−ションテストを図3−3−25、図3−3−26に示す。
小林・甲東園・深江測線では、自己相関演算のゲ−ト長700msec、フィルタ−長 80msec、ホワイトノイズ3%のタイム・バリアント型ホワイトニング・デコンボリュ−ションを用いた。
このデコンボリュ−ションテストを図3−3−27、図3−3−28に示す。
5)NMO補正と速度解析
◎NMO補正
NMO補正とは、オフセットの違いによる走時のずれをゼロオフセットの記録に補正するものである。通常直線の波線を仮定した下記の方法で行う。
地下構造が水平2層でオフセットがXのとき、第1層下端から反射して受震点に到達する波の走時は、
t2=4t02+X2/V2
となる。ここで、
t0=2Z/V
V;波の伝播速度
X;震源点と受信点の距離
t0;ゼロオフセットの走時
多層構造の地層の場合も、オフセットXに比べ反射面深度が十分に大きければ、
Tn(X)2=Tn(O)2+X2/VR2
と近似できる。ここでVRはRMS速度と呼ばれるもので
VR2=Σ Vi2Δti/Tn(0)
ここで Vi ;第i層の速度
△ti;第i層の鉛直往復走時
と定義される。
◎速度解析
速度解析で得られる速度値は重合速度と呼ばれ、地層がほぼ水平の場合には近似的にRMS速度に等しいと見なされている。速度解析は次の手順で行った。
A.推定される重合速度の範囲のなかで、120種の速度を等分に仮定する。
B.各速度でNMO補正を行い、オフセットによらず反射波が同じ時刻に並ぶ速度と時間を求める。
C.図から直接速度を読み取ることもできるが、労力や精度に問題があるため、CMPアンサンブルのデ−タを定速度でNMO補正した後に、
イ. 狭い時間ゲ−ト内におけるトレ−ス間の相関(センブランス)を求める(速度スペクトル法)
ロ. すべてのトレ−スを加算して1本のトレ−スとする(CVS法、constant velocityscan)などの方法で整理する。
D.実際には全デ−タを用いた場合には、イ.,ロ.の方法でもCMPの数だけ図が得られるため、読み取りを自動的に行い、これを整理して重合速度を決定する。
図3−3−30−1〜図3−3−30−6、図3−3−31−1〜図3−3−31−6、図3−3−32−1〜図3−3−32−3、図3−3−33−1〜図3−3−33−3に、上記の方法で求めた速度解析結果の主な結果を示す。図中○印は上記のイ.で求めた結果、また×印は ロ.で求めた結果である。印の大きさはセンブランスあるいはパワ−の大きさを示している。
図3−3−30−1、図3−3−30−2、図3−3−30−3、図3−3−30−4、図3−3−30−5、図3−3−30−6
図3−3−31−1、図3−3−31−2、図3−3−31−3、図3−3−31−4、図3−3−31−5、図3−3−31−6
6)波形処理結果
以上の波形処理を行った結果の一例として夙川測線と甲東園測線について、100%断面図(1重合断面図)を以下に示す。
図3−3−34−1 観測記録の100%断面図(夙川測線)
図3−3−34−2 観測記録の100%断面図(甲東園測線)
図3−3−35−1 初期処理後の100%断面図(夙川測線)(プレ・フィルタ−,位相補償,振幅補償)
図3−3−35−2 初期処理後の100%断面図(甲東園測線)(プレ・フィルタ−,位相補償,振幅補償)
図3−3−36−1 静補正後の100%断面図(夙川測線)
図3−3−36−2 静補正後の100%断面図(甲東園測線)
図3−3−37−1 デコンボリュ−ション後の100%断面図(夙川測線)
図3−3−37−2 デコンボリュ−ション後の100%断面図(甲東園測線)
図3−3−38−1 NMO補正後の100%断面図(夙川測線)
図3−3−38−2 NMO補正後の100%断面図(夙川測線)
7)重合およびマイグレ−ション・深度変換
◎ミュ−ト・重合
速度解析で得た速度分布を用いてNMO補正し、ミュ−ト後、重合を行った。
◎タイムバリアントフィルタ−
重合後の時間断面について周波数解析(フィルタ−テスト)を行い、タイムバリアントフィルタ−を定めた。決定したフィルタ−の特性は表3−3−1、表3−3−2、表3−3−3、表3−3−4に示したとおりであり、フィルターテストの結果例を図3−3−39−1、図3−3−39−2(ローカット)と図3−3−40−1、図3−3−40−2(ハイカット)に示す。
◎マイグレ−ション
重合後の時間断面を水平方向の速度分布が均一なストレッチ断面(深度方向には速度変化を認める)に変換した後、波動場補外法(位相移動によるイメ−ジングと下方接続)によるFKマイグレ−ションを行った。
◎深度変換
マイグレ−ション後の時間断面を、マイグレ−ションに用いたRMS速度より求めた平均区間速度を用いて深度変換した。
◎零位相表示断面
位相デ−タとは、各トレ−スを複素変換したのち、振幅情報を無視し位相情報のみを取り出したものである。この位相デ−タのうち零位相に近い部分を黒線で示した。成層構造をなさない場所では、位相が乱れるため破砕部の把握に役立つものと思われる。また、振幅が相対的に小さい場所の情報も得られる。
◎相対振幅強度+零位相表示断面
相対振幅強度表示とは、深度断面の振幅をその大きさに応じた色で表示したものである。通常の表示では、大きい振幅は隣のトレ−スの上に描かれるため細部が不明瞭となるが、この表示では細部が明瞭となり、また負の振幅も情報として得られる。この断面では、上記の零位相表示と重ね合わせて図化した。