4−3 麓郷断層の変位量および平均変位速度

麓郷断層の変位量は,十勝熔結凝灰岩の上面(地表では麓郷面)を基準にすると,0.4m/1000年になる.一方,東鳥沼地点で確認されたSpfa−1を基準とすると0.2m/1000年と半分ほどにしかならない.どちらが正しいのであろうか?それとも速度は落ちているのであろうか?

東鳥沼地点についてこの点を検討してみる.群列ボーリングの調査範囲が,変形帯の幅を十分に越えた範囲で行っているかどうかが問題となろう.これは,ボーリング調査,P波およびS波の反射法地震探査の結果を見る限り,少なくともSpfa−1降灰層準以浅では,道道からベベルイ川間に撓曲が存在し,それより上盤側(すなわち東側)では,反射面も平坦となり,撓曲変形は見られない.従って,東鳥沼地点で得た平均変位速度に大きな問題はないと考える.

一方,麓郷面(橋本,1936;1953)は,火砕流の堆積面と考えられている(柳田ほか,1985).給源は,現在の十勝岳の周辺と考えられていることから,富良野盆地周辺で言えば火砕流の厚さは,一般に東側が厚くて西側に薄くなることが予想される.事実,富良野市の八線川の大露頭においては,ベースサージを伴う十勝熔結凝灰岩とそれを覆う河川性の礫質堆積物が観察される(柳田ほか,1985)が,せいぜい100m程度の厚さしかない.一方,麓郷側では,少なくとも150m以上は確実にあり,もっと厚いと思われる.このように富良野盆地を境に急速に層厚が変化している.したがって,十勝熔結凝灰岩を基準とした変位量は,真の変位量よりも過大に見積もっている可能性が高い.

以上より,現時点では,東鳥沼地点で得られた平均変位速度を採用するのが最も良いと判断される.