A層は,HN−2孔からHN−3孔に向かって薄くなり,HN−1孔で再び厚くなる.HN−4孔およびHN−5孔では,見られない.トレンチのA層基底の分布も調和的で,HN−3孔とHN−1孔で分布高度にギャップが見られ,その高度差は約1.5mである.Spfa−1テフラの二次堆積物を含むこと,褐色ローム質の堆積物からなること,インボリューションをうけていることから,MIS(酸素同位体ステージ)2に対比される.
B層は,Spfa−1およびその二次堆積物を含むこと,インボリューションをうけていることから,MIS3に対比される.
C層は,炭素同位体年代測定値がスケールオーバを示し,火山灰の関係から,Toyaテフラ降灰以降Spfa−1テフラ降灰以前の形成年代を示す.また,泥炭層を覆う未詳テフラの広域対比が正しければ,Aso−4テフラ降灰以降Spfa−1テフラ降灰以前となる.以上から,MIS4〜5bの間のいずれかに対比される.
HN−1孔からHN−5孔間は,C層に対比される泥炭層が分布することから,それより下位の地層を一括してD層と呼ぶことにする.Toyaテフラは,MIS5c−d境界付近に相当することから,D層は,MIS5c以前に対比される.
さて,C層の分布に注目すると, HN1孔より北西側のHN−3孔やHN−2孔では見られない.しかし,HN−1孔のD層上部に見られる葉理をもつ砂層に対比可能な地層は,HN−3孔およびHN−2孔でも見られる.したがって,HN−2孔およびHN−3孔ではC層が堆積せず,D層とB層が直接接していると考えられる.
泥炭層やシルト層,そして未詳火山灰の保存の状態から,C層は上下にあるD層やB層に比較して低エネルギーの環境で堆積したと考えられる.したがって,C層堆積時には,分布域を制約する高まりなどの構造が既に存在していた可能性がある.D層最上部の細粒堆積物が比較的連続的に分布していることから考えて,D層最上部以降(すなわちToyaテフラ降灰以降)に,前述した構造が形成されたと考えられる.この比高は傾斜を考慮すると2m以上と考えられる.
A層は,トレンチ北側法面の西端部で,アバットする関係から,同様にB層が変形している最中にA層が堆積したと考えられる.ボーリング断面においても,A層の層厚が,HN−3孔で急激に薄くなり,隆起域であったことを示唆する.B層上面は,インボリューションにより,正確に求めることはできないが,全体の傾斜を考慮すると比高は約2mである.
以上をまとめると,明瞭な断層は確認されないものの,逆向き低崖の地形に調和的な位置において,地層中にも変位が確認された.おそらく撓曲構造を形成していると推定される.変位の累積性については,確実なことは言えない.活断層の変位速度は,0.02〜0.04m/1,000年となり,C級のオーダーである.
図3−3−1 東中地区の地形と調査位置
図3−3−2−1 東中トレンチ北側法面のスケッチ
図3−3−2−2 東中トレンチ北側法面の写真
図3−3−3−1 東中トレンチ南側法面のスケッチ
図3−3−3−2 東中トレンチ南側法面の写真
図3−3−4 ボーリング柱状図(HN−1孔)
図3−3−5 ボーリング柱状図(HN−2孔)
図3−3−6 ボーリング柱状図(HN−3孔)
図3−3−7 ボーリング柱状図(HN−4孔)
図3−3−8 ボーリング柱状図(HN−5孔)
図3−3−9 火山灰分析結果(HN−2)
図3−3−10 火山灰分析結果(HN−3)
図3−3−11 火山灰分析結果(HN−4)
図3−3−12 火山灰分析結果(HN−5)
図3−3−13 東中地点の地質断面図