十勝熔結凝灰岩の上面は,ピンク色の波線で,同基底面は実線で示した.断層は赤色実線で示した.断層の傾斜の情報は,東大演習林樹木園の調査による50°東傾斜のみであり,その他については推定である.
麓郷断層の北端,上富良野町東中でみられた変動地形は,麓郷面(十勝熔結凝灰岩上面)の直線的な撓曲崖の走向の延長よりも東にふれている.断層崖の位置が上盤側の方にシフトする現象は,低角逆断層となっている可能性が考えられるが,本地点が北端に位置することから,Transfer fault とかTear faultとか呼ばれる,いわゆるスラストの末端に生じる(トランスプレショナルな)横ずれ断層の可能性が高い.実際,Line1測線は,断層による上盤変形がほとんど認められない.これは,最終氷期の地形面を横断しているために形成年代が若いためである.しかし,これより南にも,ほぼ同時代の地形面が麓郷ランプ構造にコントロールされていることを考慮すると,断層末端であるために,断層による変形をほとんど受けることがなかったと解釈する方が妥当である.
麓郷断層の北部では,Line2に代表されるように,麓郷面に波状の褶曲が見られ,東側に傾斜した部分が,麓郷ランプとした構造である.また,麓郷断層を横断する部分では,明瞭な断層面は捉えられず,波長の長い撓曲変形が確認されるのみである.形態は,fault−bend foldに類似する.しかし,麓郷断層南部で,高角の逆断層が,この地点で急に低角になるのは整合性がとれない.そこで,高角逆断層が,十勝熔結凝灰岩を断層が通過する際に,剪断力が分散し,そのために断層面が低角化したと解釈した.
麓郷断層は,中央部の布部付近より南では,先第三系が露出し,その西側では十勝熔結凝灰岩が西に傾斜しているのが確認される.また,布部川沿いには先第三系の分布より東には再び十勝熔結凝灰岩が分布する(line.3).火砕流堆積物であるため,地形なりに張り付いた可能性もあるが,ここでは西傾斜の露頭の存在を重視する.形態は,fault−propagation foldに類似する(line3).
麓郷断層の南部,山部付近においては,断層は基盤岩類と沖積面との分布境界付近だが,空知川の浸食によって断層崖は失われ,浸食崖が東に向かって後退している.Line3と同様な構造が期待される.
図3−1−1 麓郷断層周辺の地形
図3−1−2 麓郷断層の地質構造