1.標津断層帯全般について
@標津断層帯は太平洋プレートの斜め沈み込みにともない生じた千島弧内帯の右雁行火山隆起帯の形成に関連して形成された.すなわち,その一つである摩周−知床隆起帯は周囲の沈降堆積盆との間に断層・撓曲帯(標津断層帯)の活動をともないつつ形成された.ただし,厳密には本断層帯のうち北部の丸山西方断層・古多糠断層は摩周−知床隆起帯と知床南東沖堆積盆の境界部に形成されたものであるが,南部の開陽断層・荒川−パウシベツ川間断層は同隆起帯と根釧堆積盆(外帯内帯境界堆積盆)の境界に形成されたものである.
A本断層帯付近では後期中新世〜鮮新世前半の忠類・越川層(一部で奥蘂別集塊岩層)および幾品層が急傾斜〜逆転現象を示すこと,同中頃の幾品・陸志別層に礫質岩相の発達が認められること,浅層反射法地震探査開陽測線の結果から鮮新統の上半部に地層の収斂現象(薄化)が認められることなどから,鮮新世後半に知床半島が山地化し,同時に本断層帯の形成が急激に進んだことが明らかである.本断層帯付近での地層の分布状況は新第三系を基盤として第四系が重なるというものである.
Bこの第四系は主に高位面堆積物(ミンデル−リス間氷期?),中位面堆積物(最終間氷期〜同氷期前半),完新世の低位面1堆積物,同2堆積物,最低位面堆積物,現河川氾濫原堆積物および表層部の摩周降下火山灰・ローム・腐植層である.北川北・北武佐両地区では前期更新世火山岩類(鮮新世〜前期更新世火山岩類の一部)が分布するが,一般的には下部更新統は欠如している.そのため,本断層帯が第四紀の大半の時期(170万〜30万年前)においてどのように活動したかについて解明することは極めて困難である.北海道内の著名な活断層である函館平野西縁断層帯・石狩低地東縁断層帯・富良野断層帯においては,典型的な逆断層として断層を境にしての変位が,古い基準面(層準)ほど大きくなる,すなわち第四紀のほぼ全体を通じて累積するというのが顕著であるが,標津断層帯についてはそのような傾向は見出されない.この理由としては,第四紀において逆断層としての活動度が弱いか,横ずれ成分が卓越しているか,そのほかの事情が考えられるが,総合的に判断すると,逆断層としての活動が弱い可能性が大きい.
C標津断層帯のうち丸山西方・古多糠両断層は活動度はあまり高くないが,少なくとも30万〜5万年前頃の活動が認められるが,開陽断層(北部東側リニアメントの“撓曲帯”含む)および荒川−パウシベツ川間断層は一部で多少の可能性があるが,総体としては活断層でない可能性が高い.
D標津断層帯のうち北部の古多糠・丸山西方両断層列は,北東に延長すると,地質構造・海底地形的に羅臼海底谷と知床半島の境界ゾーンに続くが(海上保安庁水路部,1988),詳細は不明である.
2.構成セグメント毎の評価
[丸山西方断層]
本断層は標津町最北部の元崎無異川中流から羅臼町最南部春日付近にかけて,地溝状の凹地または撓みとして北東−南西〜北北東−南南西方向に続き,延長12kmである.周囲で高位・中位面1が傾動し,小丘状の盛り上がりがあることで特徴づけられる.特に丸山西方では中位面1に顕著な傾動現象が認められ,ボーリング・ピット調査の対象になりえたが,林道がなく交通困難なためそれらは不可能であった.そのため比較的多い露頭を対象に調査を進めたが,変位に直結する観察結果は得られず,地形面に傾動現象が認められるということ以上の解明はできなかった.そのため,中位面1の形成後〜現在までの間に,活動があった可能性は高い.
[古多糠断層]
古多糠断層は南部が忠類川金山橋付近から崎無異川まで北北東−南南西方向に10km続き,崎無異川から北東方向に10kmあまりの延長がある.本断層南部・北部延長部については,西古多糠・忠類川中流糸櫛別・丸山地区では高位面・同堆積物に傾動現象が認められ,最終間氷期以前の間氷期(20〜30万年前?)以降に活動があったことが分かった.西古多糠地区で地形測量の結果,中位面1に幅100mあまり,比高差4m程度(地形面勾配考慮)の撓曲認められ,5万年前頃以降に本断層の活断層としての活動が類推できるが,最新活動時期などは明確にできない.さらに,糸櫛別地区の中位面堆積物は屈斜路火砕流堆積物W(Kpfl−W)を鍵層として含み,同堆積物を追跡すると,見かけ上東南東方向に35.4/1,000の勾配が認められ,このような勾配は忠類川の河川勾配を考慮しても大きく,KPfl−W堆積(115〜120ka)後に古多糠断層の活動による変位の進行が考えられる.
[開陽断層]
少なくとも南部は地形地質調査・重力探査・浅層反射法地震探査の結果から,山地から平野へのスムーズに傾斜する反射パターン・層構造の存在から,活断層の存在は否定されるべきという結論に達した.北部については山地から台地への地形変換線であるという以上の証拠は得られておらず,活断層の可能性は低い.
[開陽断層北部東側の地形変換部“撓曲崖”]
開陽断層北部東側リニアメントに関連しては前年度調査で中位面1に撓曲状の地形変位部が連なり,一部に活断層露頭?があるとしたが,北川北・北武佐両地区ではその“地形変位部”を境として山側に高位面が区別でき,それは地形変換部(ゾーン)であること分かり,活断層露頭?(北武佐地区)は斜面堆積物(崖錐・ソリフラクション・土石流)および地すべり堆積物でノンテクトニックな傾斜層よりなることが確認できた.よって,本リニアメントが活断層である可能性はないと考える.なお,ボーリング調査でとらえられた前期更新世火山岩類の層理の傾斜は5°程度と極めて小さい.
[荒川−パウシベツ川間断層]
荒川−パウシベツ川間断層に関連して養老牛地区においては,群列ボーリング断面中で,中位面堆積物の一部であるKPfl−Wとその下位層の分布に10m程度の高度差をともなう断続があり,同断層の活動がKPfl−W堆積前後(115〜120ka)まで継続していた可能性がある.
3.今後の取り扱いについて
標津断層帯のうち,南部の2断層については,大要,地形変換線をとらえており,一部,養老牛地区で検討の余地があるものの,活断層でない可能性がほぼ結論づけられた.活動度は低いものの活断層の可能性が高い北部の古多糠断層・丸山西方断層のうち,丸山西方断層については,交通事情・明瞭な活断層露頭に遭遇しなかったことから,今後,北東海域への延長も含めて追加調査などが必要であろう.
表4−3−1 標津断層帯の活断層評価のまとめ