4−1−4 養老牛地区

表4−1−4に養老牛地区の総合層序・解釈表を,図4−1−4に養老牛地区の地質断面解釈図を示す.

[地層の堆積時期など]

Ik−Ms〜Pm層(幾品層)は諸情報から鮮新世前〜中期に形成されたと考えられる.調査結果から,撓曲状構造をなすと推定でき,調査地域は幾品層が急傾斜から緩傾斜に移り変わる撓みの前面部分にあたると考えられる.

OVc層は全体に有機質で山側へ層厚が増すような分布を示すことから,比較的小規模な沢の湿地状部に堆積した可能性が推測できる.OVs層は層相と分布状況およびKpfl−W層(115〜120ka)におおわれることから,風成層の可能性が推測される.なお、OVs層堆積以前に地形面に比高が生じていた可能性が推測できる.

TG5層はKpfl−W層を削剥し,くさり礫を含む.地表踏査時の露頭状況から,本層の局所的な分布は下位層(幾品層)の岩質に規制された蛇行河川の側方浸食の状態を示していると考えられる.TG5層は規模や礫径などを考慮すると,古標津川が調査地付近を流下していた証拠と思われる.

LVLvc層は円礫を含む葉理の発達したシルト〜砂質シルトであり,その層相はTG5層から漸移的に変化する.

LVLc層以上の地層はほぼ地形なりに堆積しており,ピット調査で確認された小規模なガリーの浸食を除き,調査地周辺で大きく地形を改変するような堆積・浸食作用は働かなかったものと思われる.

[地形・地質発達および断層活動]

新第三紀鮮新世前〜中期に幾品層が堆積した.幾品層は鮮新世更新世中期初頭までに知床半島基部山地の隆起を反映して,平野側へ(南東へ)撓んだ,やや急傾斜な撓曲状構造を成したが,見方を変えると,これが地質断層としての荒川−パウシベツ川間断層の活動とみることができる.山地側上昇の運動(荒川−パウシベツ川間断層の活動)は,ボーリング柱状対比断面(図4−1−4)で明らかように,OVs層・Kpfl−W層についてTG5層で切られ欠如した部分を挟み,10m程度の高度差があることから,少なくともKpfl−W層堆積前後(115〜120ka:町田・新井 編,2002)まで継続していた可能性が考えられる.

一方,更新世後期に標津川沿いに堆積したTG5層およびLVLvc層の分布状況と周辺の地形面分布やその傾動状況から,標津川の河道の変遷などに関して,以下のような推定ができる.

@ Kpfl−Wの分布と地形面の関係から中位面1・2の形成には,この火砕流の堆積面が強く関与している.

A 火砕流(Kpfl−W層)流出の直後には,標津川はKpfl−W層を激しく下刻したが(TG5層の基底面形状に現れている),やがて侵食谷は埋積され,広い谷底平野において自然堤防堆積物(LVLvc層)を堆積させながら蛇行していた.

B 最終氷期以後,摩周火山などの周辺火山の活動に伴う降灰があり,小規模なガリー侵食を受けながら,LVLlc層,Ma−l層,Ma−g〜j層,Km−1f層が堆積し,地形の平滑化が進んだ.

[浅層反射法地震探査結果との比較]

養老牛地区では平成15年調査において図4−1−4に示す測線で浅層反射法地震探査を実施しており,今回の調査断面との直接の対比が可能性である.ここでは、深部地質構造と今回の調査によって得られた浅層の地質構造との関連性について考察を加える.

今回の調査位置は反射断面上では,次のような特徴を持つ位置にある(図4−1−4).

@ ほぼ水平な堆積構造を持つ中位段丘堆積物の基底付近に分布するKpfl−W層の連続性が途切れる位置に相当しており,これは地質断面図(図4−1−4)ともほぼ一致している.

A 深部から浅部に向かって緩傾斜となる逆断層の上盤に位置し、第四系(段丘堆積物)の基盤である幾品層が断層変位に伴う地層短縮によって撓曲状の構造を示すようになる位置に相当しており,地質断面図においても同様の地層の変形が確認できる.

B これより山側(北西側)では,第四系が急激に薄化し,幾品層の傾斜が大きくなる(急立する)位置に相当しており,標津川沿いの露頭において同様の現象が確認できる.

以上の様に反射断面と実際に観察される地質現象(地質断面図)は、良く一致している.逆断層は浅部では衝上性の形態を持っているが,おそらく幾品層の分布範囲ではあるデタッチメント層準を用いて活動し,上盤側の幾品層がランプを形成するデタッチメント褶曲様の構造を形成しているものと推定できる.このような構造の原因となった逆断層の活動の時期は幾品層堆積時の後半(鮮新世中頃)から鮮新世の後半において顕著で,その後は緩慢になったが,Kpfl−W層堆積時(115〜120ka:町田・新井 編,2002)までは続いた可能性がある.