(4)養老牛地区

[地形測量]

ボーリング本調査の実施前に,ボーリング箇所の位置・標高の確定と周囲の地形リニアメントの方向・地形面の撓みの比高・地形的特徴の解明のために地形測量を実施し,詳細地形図(縮尺1/500,等高線間隔0.25mで作成のものを1/1,000で表示)を作成した(図3−2−13に詳細地形図を養老牛地区調査位置平面図として示す).

地形測量の結果,次の諸点が明らかになった.

@ 調査地の地形は等高線が北に湾曲し,北から南へ緩く傾斜するような特徴を示す.

A 調査地全体では,想定される北東−南西方向に延びるようなリニアメントに相当する地形の撓みは認められない.

B 道路と地形断面測線付近では,幅60m程度・比高4m程度の地形の撓み?が不明瞭ながら認められる.

[ボーリング調査]

ボーリング調査は地形測量で明らかになった,部分的な地形の撓み?を考慮して,対象地形面の地質構成を明らかにすることを目的として,群列ボーリングとして図3−2−13の6箇所(孔)について実施した.表3−2−9にボーリング地点の諸元,表3−2−10に層序表,図3−2−14にボーリング調査関連写真,巻末の資料1にボーリング柱状図・コア写真,図3−2−15に地質断面図を示す.

ボーリング調査(2003年度実施のS03−3孔を含む7孔)から明らかになった層相・地層構造と挟在されるテフラから,養老牛地区の層序は大きく上部火山灰・ローム層(UVL),下部火山灰・ローム層(LVG1),段丘礫層(TG),古期火山灰層(OV)および新第三系幾品層(Ik)に5分できる.なお,本地区では西古多糠地区と同様にMa−l ・Kpfl−Wが存在する.同地区に準じて,Ma−l(≦1.1ka:北海道,2004)を上部火山灰・ローム層の基底に位置付けた.Kpfl−W(115〜120ka:町田・新井 編,2002)については,それに関連する段丘礫層の存在が認められないことから1,古期火山灰層の一部として取り扱った.

各層は次のように細分できる.

上部火山灰・ローム層:Bk層(盛土)・Ts層(表土・耕作土)・UVLvs1層(火山灰質シルト質砂)・Km−1f層(Km−1f降下軽石)・UVLvs2層(火山灰質シルト質砂)・Ma−g〜j層(Ma−g〜j降下軽石・火山灰)・UVLc層(火山灰質シルト)・Ma−l層(Ma−l降下軽石)

下部火山灰・ローム層:LVLlc層(火山灰質シルト)・LVLvc層(礫混り火山灰質シルト〜砂質シルト)

段丘礫層:TG5層(玉石混りシルト質砂礫)

古期火山灰層:Kpfl−W層(屈斜路火砕流堆積物W)・OVs層(砂)・OVc層(礫混り火山灰質シルト)

新第三系幾品層:Ik−Ms〜Pm層

地層の対比を行い地質断面図を作成した結果,次の諸点が明らかになった.

@ Km−1f,上部摩周テフラ(Ma−g〜l),Kpfl−Wなどのテフラが存在する.

A LVLlc層以上の地層はほぼ地形なりに連続的に分布する.

B TG5層がチャンネル状に下位層(古期火山灰層・幾品層)を削り込んで存在する.

C Kpfl−W層は分布が途切れるが,基底面分布高度には場所によって差が認められる.

D 幾品層の傾斜がSP100(S04−Yo−2と同6の中間)付近を境に異なる.

以下,上位から各層の概要を記す.

@)上部火山灰・ローム層(UVL)

Bk層(盛土):S04−Yo−3孔で確認でき,層厚0.7m.国有林の林道造成の目的で積み上げられた盛土.腐植質の礫混り砂質シルトからなる.

Ts層(表土・耕作土):層厚0.3〜0.4m.耕作土は耕作による攪拌を受け火山灰質シルトがブロック状に混在し,橙色の軽石が点在する.表土は腐植土からなり草根が混在する.

UVLvs1層(火山灰質シルト質砂):層厚:0.4〜0.7mで,上〜中部は火山灰質シルトおよび礫混り火山灰質砂,下部は腐植土からなる.火山灰質シルトは塊状,やや有機質で灰〜暗灰色を呈する.礫混り火山灰質シルトは塊状で,径2〜5mm程度の角礫を多く含み,草根の混在が目立つ.

Km−1f層(Km−1f降下軽石):層厚0.1〜0.4mで,橙灰〜淡黄灰色の軽石からなる.軽石は径2〜30mmの亜角〜亜円である.全体に径2〜5mm程度の灰色火山礫が散在し,逆級化構造が認められる.

UVLvs2層(火山灰質シルト質砂):層厚0.4〜0.9mで,上部は火山灰質シルト質砂,下部は腐植土からなる.火山灰質シルト質砂は褐灰色を示し,全体に葉理があり比較的淘汰が良い(再堆積性の地層と推定できる).下部は腐植土が主体で,褐灰色の火山灰質砂質シルトがはさまれる.はさまれる火山灰質砂質シルトは塊状で下位層との境界は明瞭であり,降下火山灰の可能性がある.

Ma−g〜j層(Ma−g〜j降下軽石・火山灰):層厚0.5〜1.3mで,主部は褐灰色〜淡灰色の軽石からなり,軽石の形態と火山礫の含有率からMa−g(径2〜20mmの角の軽石が主体で火山礫の含有率が少ない),Ma−h(径2〜20mmの亜角の軽石からなり火山礫を多含する)およびMa−i(大きな径が目立つ径5〜50mmの角の軽石からなり火山礫の含有率が少ない)に区分できる.最下部は灰〜青灰色の細粒ガラス質火山灰(Ma−j)で,火山礫(径2〜5mm程度)の葉理が認められる.Ma−g〜hは削剥によって欠如することがある.

UVLc層(火山灰質シルト):層厚0.3〜0.9mで,全体に腐植質である.上〜中部は火山灰質シルトが挟在する腐植土,下部はシルト質砂からなる.上〜中部にはさまれる火山灰質シルトは塊状であり,降下火山灰(Ma−k)の可能性がある.下部の火山灰質シルト質砂は塊状不淘汰で,径2〜20mm程度の凝灰岩の亜円〜亜角礫・下位層由来の橙色軽石が散在状に含まれる.亜円礫・下位層由来の軽石が含まれることから,再堆積性の地層と考えられる.

Ma−l層(Ma−l降下軽石):層厚1.1〜1.5mで,橙褐色〜黄褐灰色の軽石からなる.軽石は径5〜30mm程度の角〜亜角のものが主体で,2〜10mm程度の暗灰色火山礫が含まれる.最下部は逆級化する.基底に層厚2mm程度の灰色火山灰を伴うことがある.

A)下部火山灰・ローム層(LVL)

LVLlc層(火山灰質シルト):層厚0.1〜0.3m.ローム質で塊状〜弱く葉理が発達し,全体に草根跡が目立つ.径2〜10mm程度の暗灰色亜円〜亜角礫・軽石を多く含み,上部では炭化木片が散在する.

LVLvc層(礫混り火山灰質シルト〜砂質シルト):S04−Yo−1〜3孔・S04−Yo−5〜6孔で確認でき,層厚0.9〜1.9m.褐〜褐灰色を示す礫混りシルト〜砂質シルトが主体で,塊状不淘汰〜弱い葉理が認められる.全体的に粘性が強く,径2〜50mm程度の凝灰岩・安山岩・軽石の亜円〜円礫を含む.葉理面の傾斜は10〜15°程度を示す.葉理が発達すること,さらに円礫を含むことから再堆積性の地層とみなされる.

B)段丘礫層(TG)

TG5層(玉石混りシルト質砂礫):S04−Yo−2孔・S04−Yo−5〜6孔で確認でき,層厚2.8〜6.3m.玉石混りシルト質砂礫・玉石混り砂礫・シルト質砂礫よりなり,褐灰色を呈し,安山岩・緑色凝灰岩の亜角〜円礫が主体である.礫径は10〜70mm程度が主体で,最大で切長5〜10cm程度である.基質は火山灰質シルト質砂で,くさり礫が稀に含まれる.

C)古期火山灰層(OV)

Kpfl−W層(屈斜路火砕流堆積物W):S04−Yo−1孔・S04−Yo−4孔・S03−3孔(既往ボーリング孔)で確認でき,層厚:1.7〜7.0m.溶結凝灰岩と軽石混り火山灰よりなる.S04−Yo−1では暗灰〜暗褐灰色の強〜弱溶結凝灰岩からなる.デイサイト質で暗褐灰色の火山ガラスが主体である.軽石(径5〜20mm・最大径60mmで一部レンズ状)・灰色凝灰岩角礫が混在する.基底付近は灰色を呈し固結度が低く,火砕流基底の非溶結部とみなされる.S04−Yo−4では淡褐灰〜褐灰の軽石混り火山灰からなり,塊状不淘汰で軽石(径5〜30mm)・角礫(径2〜10mm)が散在する.含まれる軽石の火山灰分析の結果からKpfl−W(Kc−4)であることが同定できた.層相や分布状況から火砕流縁辺の非溶結部と考えられる.

OVs層(砂):S04−Yo−4孔とS03−3孔(既往ボーリング孔)で確認でき,層厚1.0〜2.5m.淡褐灰〜褐灰色示し比較的淘汰の良い石英粒主体の結晶質な中粒〜粗粒砂からなり,軽石が散在し級化構造が発達する.砂粒子の形態は角〜亜角が主体.淡灰色の火山灰〜火山灰質シルトがはさまれる.層相と分布状況から風成層(降下火砕物?)の可能性がある.

OVc層(礫混り火山灰質シルト):S04−Yo−3〜4孔で確認でき,層厚:0.6〜1.6m,礫混り火山灰質シルト・火山灰質シルトよりなる.上部は有機質で,炭質物が混在し,炭質な葉理が存在する(葉理面の傾斜は10°程度).下部は塊状で径2〜20mm程度の安山岩・凝灰岩の亜角〜亜円礫が散在し,所々,含礫率が増加しシルト質砂礫がはさまれる.

D)新第三系幾品層(Ik)

層厚65m程度以上で,構成層はそれぞれ凝灰質泥岩相・凝灰質砂相・礫岩相・火山礫凝灰岩相・軽石凝灰岩相よりなる.地層傾斜はS04−Yo−6孔付近を境に,北西域の20°〜35°から,5〜15°程度に変化する.

凝灰質泥岩相(Ik−Ms):火山灰質シルト・シルト質砂の互層と火山灰質シルトからなり,固結度が低い.弱い葉理があり,互層では級化構造がある.

凝灰質砂岩相(Ik−Ss):凝灰質砂岩・シルト岩互層,凝灰質砂岩・凝灰岩互層および凝灰質砂岩からなり,層理が明瞭である.互層は数10cm単位の繰り返しであり,粗粒砂岩からシルトへの級化構造が認められる.所々,径2〜10mmの亜角〜亜円礫が散在する.

礫岩相(Ik−cgl):シルト〜玉石混りの砂礫からなり,固結度が弱く砂礫状コアで採取できた.安山岩・凝灰岩・緑色凝灰岩の亜角〜円礫が主体で,基質は火山灰質のシルト質砂である.礫径は10〜50mmが主体で,最大で切長5〜10cm程度である.

火山礫凝灰岩相(Ik−Lt):塊状不淘汰な火山礫凝灰岩が主体で,所々凝灰質シルト岩・凝灰質砂岩がはさまれる.火山礫凝灰岩は暗灰〜褐色の風化火山礫・灰白〜淡黄灰色の軽石が混在する.

軽石凝灰岩相(Ik−Pm):淡褐灰〜黄褐灰色を示す塊状不淘汰な軽石凝灰岩が主体で,凝灰岩・凝灰質砂岩がはさまれる.一部,火山豆石を含む凝灰岩がはさまれ,ボーリング孔間の対比の鍵層になる.

[試料分析]

地層の堆積年代の推定及び対比を目的として,フィッショントラック年代測定および火山灰分析を実施した.

@)フィッショントラック年代測定

 表3−2−11にフィッショントラック年代測定結果を示す.Kpfl−W層の溶結凝灰岩である1試料(S04−Yo−1−8.40)について実施したが,前処理の結果,測定対象となるジルコン結晶が含まれていなかったため測定不能であった.

A)火山灰分析

2試料(S04−Yo−1−8.40, S04−Yo−4−4.19)について実施したが,図3−2−17に火山灰分析結果の一覧を,図3−2−16に分析試料の接写写真を示す.分析結果の詳細は巻末の資料4に掲載した..

S04−Yo−1−8.40:火山ガラス・斜方輝石の屈折率の最頻値及び他の記載岩石学的特徴を既往資料(町田・新井 編,2002)と比較検討した結果と,層相・調査地域周辺で確認されている層序などからKpfl−W(Kc−4)相当であると同定できた.

S04−Yo−4−4.19:火山ガラスの屈折率の最頻値,他の記載岩石学的特徴および既往資料(町田・新井 編,2002)と比較検討し,調査地域周辺で確認されている層序などからKpfl−W(Kc−4)相当であると同定できた.

表3−2−9 養老牛地区ボーリング地点の諸元

表3−2−10 養老牛地区層序表

図3−2−13 養老牛地区調査位置平面図(実測平面図)

図3−2−14 養老牛地区のボーリング調査関連写真

図3−2−15 養老牛地区の地質断面図(ボーリング対比図)

図3−2−16 養老牛地区ボーリング調査の接写写真(分析試料写真を含む)

図3−2−17 養老牛地区ボーリング調査関連の火山灰分析結果一覧

表3−2−11 養老牛地区ボーリング調査関連フィッショントラック年代測定結果