(1) 西古多糠地区

空中写真判読の結果,次の諸点が明らかになった.

@山地部に北東−南西方向に延びる何条かのリニアメントが分布する.

A6段の段丘面(高位面:T1,中位面1:T2−1,低位面1:T3−1,低位面1′:T3−1′,低位面2:T3−2,最低位面:T4)が分布する.

B最高位の段丘面(高位面T1)は明らかに傾動するが,それより低位の段丘面は大まかには平坦性を保っているように見える.

C崖錐や土石流堆の堆積面が分布する.

D段丘面の傾動や崩壊地形の配列から活構造が推定されるリニアメントが分布する.

空中写真判読結果を考慮に入れ,現地で地形地質精査を行った.その結果を精査図として付図2−1にまとめ,その縮図版を図3−1−1として本文中に示した.薫別川南岸沿いの露頭・ボーリング対比図・柱状図集を図3−1−2に,薫別川北岸林道・枝沢沿いの主要露頭(nk−o5,nk−17)の柱状対比図を図3−1−3に,地形状況と露頭の写真集を図3−1−4図3−1−5に,薫別川沿いの地形(段丘面)縦断面図を図3−1−4にまとめた.

調査結果の要点は以下のとおりである.

@本地区の地質(層序)は下位より,忠類層(Ch;緑色変質した火砕岩・火山性堆積岩類),越川層(Ko;凝灰質頁岩相主体),鮮新世火山岩類(Pv),幾品層+陸志別層(Ik+Ko;凝灰質砂質泥岩・砂岩・礫岩・軽石凝灰岩・火山性砂礫岩),高位面堆積物(T1d),中位面堆積物(T2d),低位面1堆積物(T3−1d),低位面2堆積物(T3−2d),最低位面堆積物(T4d),現河川氾濫原堆積物(Ad),新期の火山灰・ローム・腐植層である.

A新第三系の忠類層・越川層・鮮新世火山岩類・幾品層は北東−南西方向に延びた幅1kmあまりの直立・逆転帯(地質断層としての古多糠断層)を形成しており,それ自体は鮮新世後半を中心に進行した知床半島山地の形成(隆起)を反映している.幾品・陸志別層は薫別川沿いでは林道橋(緑橋)の下流300m間で急激に緩い傾斜構造へ移行し,一部で波状にうねりを見せている.北岸枝沢を含めて,礫質岩・火山性砂岩泥岩を主体とした緩傾斜構造の幾品・陸志別層(図3−1−4図3−1−5)については中位面堆積物を含め,古期の段丘堆積物ではないかという可能性が考えられたが,類似の岩相は急傾斜構造部にも存在することから両層と判断した.

B高位面堆積物は北岸林道沿い・北岸枝沢の露頭で観察できるが(図3−1−3),北東へ25〜30°傾く幾品・陸志別層の上位に,傾斜不整合関係で北東〜東へ10°前後で傾いており,砂礫相,火山灰質(ローム質)泥岩砂岩,火山灰,および泥炭・同質泥の不規則互層で構成され,厚さが25m前後である.

C中位面堆積物より新しい堆積物は一般に礫〜砂礫相を主体とし,新期の火山灰・ローム・腐植層の全体または一部をともなう(図3−1−2).全体としては河川・扇状地の地形的勾配以外には,特に,異常な地層の変位は認められなかった.

D地形面区分的には空中写真判読で示したように,山地際において,従来の中位面1から区別して高位面(T1;従来の高位面は最高位面T0に変更)を認めたが,同面堆積層(T1d)の傾きに見合うように,東南東方向への傾動が認められる.南岸側では林道三叉路付近で中位面に古多糠断層の活動の反映と思われる幅150m程度・4m程度の撓みを認めたが,それの確認はボーリング・ピット調査で行う.低位面1より新しい地形面には変位の証拠は認められなかった.