(2)上野塚地区

ボーリング調査及びピット調査の結果,この地区で確認された地層をA1層,A2層,A3層・B層,C1層,C2層,D層,E層に区分した。この内,E層は砂礫層で,段丘堆積物である。

図3−4−4−2にピット(Tp5−1〜5−2)を含む地質断面図に,14C年代を記載した総合解析図を示す。

−1地質・構造

上野塚地区では、平成14年度上野塚トレンチから、平成15年度TP5−1を通過して野塚川北岸の石坂面南端まで撓曲崖がトレースされる。崖の比高は2m前後であることが多いが、南ほど高くなり、撓曲崖南端では4〜5mに達する(平成14年度調査)。ただし、断層下盤側の石坂面は野塚川に近づくほど、上盤側に比べ高度を下げる傾向があり、時代の僅かにことなる複数の面が石坂面として一括されている可能性は否定できない。よってここでは、撓曲崖の最も平均的な比高である2m程度の数値をとって以下検討する。

ボーリングのB8−1及びB8−2では,花崗岩礫を含まないことを特徴とする淘汰の良い細礫層が存在する。この層は,ピットにおいてもTp5−1でC1層として確認している。この層は撓曲崖の下盤側にのみ現れ、上盤側には出現しない。またTP5−1ではC2層を側方侵蝕している。その一方、TP5−1の西面ではC1層は局所的であり、北側法面には全く現れない。また平成14年上野塚トレンチでもこの層に対応する堆積物は認められなかった。これらから、C1層はTP5−1付近に限定して現れる小規模な支流性堆積物であると推測される。C1層はC3層と浸食関係にあり、C3層は下位のE層と浸食関係にある。ただしB8−1およびB8−2においてE層とC3層、C3層とC1層の境界は必ずしも明瞭でないため、ピット・ボーリングからC層の垂直変位量を認定することは危険である。ただし、傾いているように見えるが必ずしもそれが明瞭ではないC1層と、礫層が回転・直立していることすらあるC3層では、その変位様式には大きな差がある。これをもってC3層はC1層よりもより多い回数の変位を受けていると見なすことも可能だが、傍証に乏しいため、ここではこれ以上議論しない。

ピットTp5−1において,特に南面のE層中にD層を切るように低角度の不連続面が確認される。屈曲するD層の形態からは、東上がりの低角衝上断層によりそれが変位したように見えるが、D層そのものの連続性が必ずしも良くないため、変位基準としてそれを扱うことについてはやはり危険を伴う。C3層とD層の変位センスはよく似ているものの、C3層とD層下位のE層の境界がやはり不明瞭なため、両者の変位履歴を詳細に検討することは難しい。

−2地質年代の検証

TP5−1およびB8−2、B8−3から採取された試料の14C年代測定結果は以下のようである。

@Tp5−1の試料から,B層(Tp5−1−5)で,5,100±40yBP。

ATp5−1の試料から,C1層(Tp5−1−1)で,2,150±40yBP。

BB8−2のC1層(1.58−1.75m)では,1,840±40yBP。

CB8−3のE層(3.65−3.75m)では,3,460±40yBP。

これらの年代値は、図3−4−4−3に現れているように、それぞれが明らかに矛盾する。これらのうち、Tp5−1−1、1.58−1.75m、3.65−3.75mはいずれも微細な腐植片である。Tp5−1−5は層を成す腐植層から採取された。平成14年度調査による試料の14C年代測定結果は、前述したようにB層のTP5−1−5と調和的である。3.65−3.75mは石坂面の段丘礫層であるE層からの試料であり上位は典型的なローム層に覆われることから少なくとも10kaより古い年代が期待されるのに対し、実際の測定結果はこれと大きく矛盾する。C1層の2試料についてはC1層の堆積年代を推定するための、14C年代以外の資料が得られていないため検証は困難である。しかし支流性堆積物中の微細な腐植片であることは、これらが支流性堆積物によりもたらされた再堆積物である可能性、ピット・ボーリング掘削時により上位からもたらされたスライム・バケットの付着物である可能性など客観的にはTP5−1−5よりも危険度が高いと判断される。ここでは、比較的信頼度の高い試料はTP5−1−5であり、その他の数値については危険であると判断せざるを得ない。

上の判断が正しいとするならば、B層の年代は5100yBPとなる。石坂面は段丘礫層の直上にTa−dを乗せる面である。TP5−1ではTa−dは確認されていないものの、従来の年代論に従えば、E層、C層およびそれらに夾まれるD層の年代は10ka前後とみなせよう。

−3 上野塚地区における光地園断層の活動性評価

上野塚地区では、平成14年度にトレンチが掘削されている。段丘礫層よりも上位の層において鍵となる層準に乏しく制約条件は少ないながら、段丘礫層の堆積以降に複数回の活動が認定される可能性を指摘できた。ここでは、平成15年度調査により得られた知見を含めて、上野塚地区における光地園断層の活動性について再度検討する。

(1)平成14年度上野塚トレンチの検討結果(概要)

トレンチにおいて,新第三系の上面高度,段丘礫層の上面,礫層上位の再堆積ローム質シルト層に変位が確認された。このうち,断層変位として確実なものは,E層(段丘礫層)上面高度の差2.8mである。E層中には,Spf1に対比されるテフラの堆積物が含まれ,ボーリング調査によりE層下部から36,150±510yBP,中部から21,850±90yBP,E層上面から,17,770±70yBPの14C年代が得られている。E層上面年代を元にすると平均変位速度は,0.16m/ka以上となり,B級下位の活動度を持つ活断層であるとされた。

(2)平成15年度調査結果を含めた再検討

上野塚トレンチのE層については、15年度調査により特に新たな知見は得られていない。E層上位のローム質砂層については、夾在される砂層の厚さを差し引くと、ローム層ないしローム成分に富むと考えられる層の厚さは1〜1.2m前後と計算される。この数値は、紋別トレンチTR3−1におけるC層の厚さにほぼ近い。段丘礫層最上位の年代が17700±70yBPであることも考慮すると、上野塚トレンチは紋別トレンチの項でそうみなしたように、紋別トレンチと同じく尾田面と判断して差し支えないだろう。

次に問題となるのは紋別トレンチのC層中のイベント(濁川テフラ以前)の有無である。これについては、D層は断層を夾んで層厚変化が無いのに対し、C層ではその上面高度の差が1.6mであり、D層およびE層上面のそれに対し有意に小さいことが平成14年度調査で指摘された。C層上面が削剥された可能性や、C層そのものが変位基準としての信頼性に乏しいことから厳密な議論は現在も困難であることに変わりないが、紋別トレンチのC層に相当する上野塚トレンチC〜B層にかけてこのような可能性が存在することは注目に値する。

上野塚トレンチA4層は、平成15年度調査において紋別地区で断層に対して同じ位置関係(下盤側にウェッジ状に分布)に出現すること、その年代が一致することをすでに指摘した。平成14年度調査ではA4層がプリズム堆積物であることを示す証拠は乏しかったが、紋別地区において同様の現象が見られたことにより、上野塚トレンチA4層がプリズムである可能性はより高まったと言える。

一方、平成15年度調査TP5−1では、鍵となる層準に乏しいことや、層の境界認定が難しいこと、年代値が矛盾することなど多くの問題があり、上野塚トレンチと単純に比較することは現時点では難しい。TP5−1では不確定要素が大きいながら、10ka程度?の層準は低角衝上断層的な水平成分に富んだ変形を受けているのに対し、それより上位の5100yBPよりやや古いと推定される地層(C1層)では変形は認定しにくく、変形しているとしてもその程度は小さい。これは、紋別および上野塚トレンチにおいてみられた関係(濁川テフラより古い層は複数回の変位を受け、それより新しい層準では少なくとも下位層に比べ変位の回数は少ない可能性がある)と概ね一致する。これは、紋別トレンチおよび上野塚トレンチにおける結果を弱いながら支持する。

(3)15年度調査結果と活動性評価

上野塚地区の平成15年度調査では、先に述べたように、変位の時期や単位変位量を具体的に求めるに足るデータは残念ながら得られなかった。よって、平成14年度のデータから大きな変更はない。

B8−3〜B8−2間でのE層の上面標高差が2.51mなので、これに平成14年度14C年代(17700yBP)を適用すれば、平均変位速度は0.14m/kaとなる。これは、上野塚トレンチにおよびボーリング調査におけるE層の変位3.3mから求めた平均変位速度0.16m/kaと大差ない。ただし、平成15年度調査では、礫質な支流性堆積物により下盤側がより浸食されている可能性もあり、この数値はあくまでも参考値である。

最新活動期・活動間隔については、紋別トレンチおよび上野塚トレンチに準ずることは推定されるが、具体的数値について独自に提案することは現時点では困難である。