トレンチTR3−1から採取された2試料からは、いずれも多量の角閃石を含む火山灰が得られた。火山ガラスは水和の完了していないものを含み、その屈折率は1.499〜1.503前後に集中する。この値は、火山灰アトラスの濁川テフラのデータ(1.503−1.508)に近く、京都フィッショントラックにより報告されている同テフラのデータ(1.499−1.502)と完全に一致する。一方、北海道の後期更新世テフラで多量の角閃石を含むテフラとしては、銭亀−女名沢テフラがある。広尾〜大樹町にかけて、このテフラは忠類面相当の段丘面を覆う降下火山灰として普遍的に見いだされる。ガラスの屈折率は1.505−1.513(火山灰アトラス)および1.499−1.503(京都フィッショントラックのデータ)であり、TR3−1とオーバーラップする。すなわち火山ガラスのデータのみではこの2つのテフラが双方とも候補となる。
一方、斜方輝石の屈折率は、TR3−1のデータは1.707−1.712であり、濁川は1.706−1.713(新編火山灰アトラス)、銭亀−女名沢は1.712−1.725(新編火山灰アトラス)となり、濁川テフラとよく一致する。また角閃石ではTR3−1は1.670−1.680、濁川は1.670−1.675(新編火山灰アトラス)、銭亀−女名沢は1.662−1.665、1.670−1.675(新編火山灰アトラス)となる。これらから、TR3−1で認められたテフラは、濁川テフラと判断される。なお、濁川テフラの年代は12ka(火山灰アトラス)であり、トレンチにおける層位(ローム層最上部)と矛盾しない。