(1) データ処理の概念
反射法データの処理の基本となる共通反射点重合法は、CDPギャザーを構成する各トレースの走時をその共通反射点位置での垂直走時に変換して(NMO補正)加算することにより、調査測線に沿った断面図を作成する手法である(図3−2−1−14)。
この共通反射点重合法は、水平構造を過程しているが、傾斜構造に対しても有効な手法である。傾斜構造ではCDPギャザーを構成する各トレースの反射点位置は異なるが、オフセット距離に対する走時は水平構造の場合と同様に、双曲線に近似される。 この反射イベント(水平方向に連続した一連の反射波)にNMO補正を適用して重合を行うと、CDPから傾斜面への法線の沿った往復走時の記録が得られる。このような場合、重合断面図上での傾斜イベントは真の位置からずれているので、それを正確な位置に移動させるマイグレーション処理(図3−2−1−15)を施す。
マイグレーション後の記録に対して、速度解析から得た速度構造に基づき、時間軸を深度軸に変換し、深度断面図を作成する。
(2) 重合前処理
データ編集、振幅調整、各種フィルタ処理、表層補正及び速度解析を行う。振幅調整は、弾性波の球面発散や非弾性効果による減衰の補償を目的として実施される。各種フィルタ処理には、特定の周波数帯だけを通す帯域通過フィルタや波形変換を行うデコンボリューション処理等があり、反射波の強調、波形の整形やノイズの除去を目的として実施される。
また、陸上の反射法データ処理では、新たに重合測線を設定するのが一般的である。陸上の測線は、地形などの影響により測線の屈曲を余儀なくされ、そのために反射点が分散するので、反射点分布の密な地点を結んだ重合測線を設定し、反射点をその重合測線に投影する。
(3) 表層補正
地表付近には、弾性波速度が極端に遅い(一般に、P波速度で1000m/sec以下)表層部(風化層)が存在する。この表層部の形状の不規則性は、地下からの反射波の走時のずれとなって現れ、重合後の記録において著しい品質低下を招く。この対策として地表付近の表層を除去し、表層基底の速度層に置換する表層補正(時間補正)が行われる。表層構造は、別途、屈折波初動解析により求める。
表層補正値を求めるために、屈折初動の走時に基づいた表層構造解析を行う。屈折初動の走時は、 式5−1
(5.1)
となり、図3−2−1−16の概念図に示すような三つの項(5.1式の右辺)に分解できる。第1項と第2項は、それぞれ発振点のタイムターム、受振点のタイムタームと呼ばれる。
屈折初動の解析には一般的に、タイムターム法が用いられる。この方法は各発振点、受振点でのタイムタームとVSWをそれぞれ独立の未知数とした(5.1)式を連立方程式として解く実用的な方法である。
このようにして求めたタイムターム値、表層基底速度と短いオフセット範囲の観測走時から算出した表層速度(Vw)を用いて表層の厚さ(HS、HR)を計算することができる。一般に、表層が厚くなるとタイムターム値も大きくなる。なお、この手法は表層構造解析に限らず、一般の2層構造仮定での屈折波解析にも用いることができる。
(4) 速度解析
速度解析とは、NMO補正を行うために必要な速度情報を得るための解析である。反射イベントの走時はオフセット距離に対してと、近似的に次のような双曲線として表示され、その曲率は速度の関数となる。 式5−2
(5.2)
は、水平多層構造の場合は、地表と反射面までの地層の平均的な速度として次の式で与えられる。反射法における速度解析とは、このRMS速度を求めることに他ならない。 式5−3
(5.3)
実際の速度解析では、個々の反射イベントの曲率からRMS速度を求めるのではなく、様々な速度に対してNMO補正と重合を繰り返し、最も反射イベントが鮮明で振幅が大きくなるものを最適なRMS速度として抽出する。通常は、一定の速度でNMO補正を行って重合したパネル上で、各反射イベントに対して最適な速度を選択する定速度重合法が広く用いられている。
RMS速度が求まると、(5.3)式を変形した(5.4)式に基づき、区間速度や平均速度を求め、最終的に深度と往復走時との関係式を得ることができる。 式5−4
(5.4)
NMO補正値(−)は、速度解析から得られたを(5.2)式に代入して 式5−5
(5.5)
で与えられる。
(5) 重合後処理
基準面補正、マイグレーション処理、深度変換などを行う。基準面補正とは、重合後の記録断面図において各トレースの標高を一定に揃える操作である。マイグレーション処理後は、速度解析などで得た速度構造に基づいて往復走時を深度に変換する深度変換を行い、最終的に深度断面図を作成する。
−2 データ処理の概要
(1) 作業内容
反射法データの処理には、Super−X 反射法データ処理ソフトウェア(株式会社 地球科学総合研究所で開発・所有)を使用し、標準データ処理フロー(図3−2−1−17)に基づきデータの処理・解析を行い、以下に示す図面類を作成した。
・重合記録断面図
・マイグレーション時断面図
・深度断面図
・速度構造図
・表層構造図
(2) 基本データ処理パラメータ
・サンプルレート : 1msec
・記録長 : 3sec
・共通反射点間隔 : 2.5m
・CDP数 : 633
・重合測線長 : 1.58km
(※ 定義:重合測線長=CDP間隔×(CDP数−1))
−3 データ処理・解析の過程
@ データ編集
磁気テープに記録された測定データの編集を行い、データの品質を確認した。
A ジオメトリ作成
発振点と受振点の中点を反射点と定義し、各測線において反射点分布に基づき、重合測線を設定した(図3−2−1−18、図3−2−1−19)。共通反射点間隔は、2.5mとして、重合測線に沿って共通反射点位置(CDP位置)を設定した。
B 共通反射点編集(CDP編集)
重合測線に沿って反射点を集めて、CDPギャザーに編集した。
C 最小位相変換(Minimum Phase Conversion)
スイープ信号との相互相関処理後の震源波形は、ゼロ位相型(左右対称型)となっているので、後述するデコンボリューション処理を行うと波形の歪が起こる。これを避けるために、震源波形をゼロ位相から最小位相に変換した。
D 初動ミュート
ショット記録の初動部分のミュートを行った。
E 域通過フィルター
原記録に卓越する低周波のノイズを除去するため、20−150Hzの帯域幅をもったフィルターを適用した。
F 振幅補償(Gain Recovery)
反射波の減衰を補正するために、ゲート長 500msecの自動振幅調整(AGC)を適用した。
G デコンボリューション(Deconvolution)
発振点・受振点の特性の相違を補正し、分解能の高いデータを得るための波形変換処理(デコンボリューション)を行った。
・ゲート長 : 1000msec
・オペレータ長 : 120msec
・予測距離 : 1msec
H 表層補正(静補正)
屈折波初動解析より得られた結果を用いて表層補正値を計算し、表層補正を行った。屈折波初動解析による表層構造を図3−2−1−20に示す。
I 速度解析(Velocity Analysis)
定速度重合法(Constant Velocity Stack)により、測線に沿って125m間隔で、速度解析を実施した。速度解析例を図3−2−1−21、図3−2−1−22に、速度解析結果に基づく速度プロファイルを図3−2−1−23に示す。
J 残差静補正
各トレースの反射イベントは、表層補正とNMO補正により、理論的には同一の走時となるが、実際には、表層補正での誤差の影響などでわずかな相違が見られる。その相違を解消するための補正値をトレース間の相関から求める残差静補正を実施した。
K NMO補正(NMO Correction)
速度プロファイル(図3−2−1−23)に基づき、NMO補正を行った。
L 共通反射点重合(CDP Stack)
NMO補正のCDPギャザーを重合した。
M 帯域通過フィルター
重合記録断面図上の反射イベントを強調するために、帯域通過フィルターを適用した。浅部と深部では反射波の卓越する周波数が異なるので、往復走時に応じて、次の帯域幅のフィルターを適用し、重合記録断面図(図3−2−1−24)とした。
・0 〜 0.2 sec 35 〜 150 Hz
・0.2sec 〜 3 sec 30 〜 145 Hz
なお、断面図の表示深度区間は、対象深度並びに反射イベントの捕捉深度を考慮し、地表から1秒までとした。
N 時間マイグレーション(Time Migration)
差分法に基づいたマイグレーション処理を行い、マイグレーション時間断面図(図3−2−1−25)を作成した。
O 深度変換(Depth Conversion)
マイグレーション後の記録に対し、平滑化した速度関数を用いて、時間軸から深度軸への変換を行い、深度断面図を作成した。深度断面図を図3−2−1−26に示す。また、参考図面として重合記録断面図をそのまま深度変換した断面図を図3−2−1−27に示す。深度軸は、標高0mを基準とし、海抜−1000mまで表示した。
−4 データ処理・解析結果
(1) 反射法断面図
データ処理により得られた記録断面図の品質は非常に良好であり、時間断面図において約0.7秒(図3−2−1−24、図3−2−1−25)、深度断面図において海抜約−700m(地表からの深度約770m)までの反射イベントを捕捉することができた(図3−2−1−26)。反射イベントは全体的に連続性が良く、成層構造をなし、南東方向に緩やかに傾斜している。海抜−400m以浅に存在する反射イベントについては、測線両端での深度差は50m程度である。また、測線全体にわたり、大きな落差を伴った反射面の段差(不連続)は見られない。
受振点20〜230の区間において、深度約250m〜170mには、極めて振幅が大きな反射面が存在する。これは、周辺部と物性が大きく異なったシート状の挟み込み(例えば、溶結凝灰岩)を表していると考えられる。受振点70〜110の区間において、地表から深度約150mまで反射面の振幅が弱いゾーンとなっているが、これは小型バイブレータの使用による震源エネルギーが相対的に小さかったことに起因していると考えられる。
(2) 反射法速度解析
反射法の速度解析結果を見ると、地表から深度100mまでの浅層部の速度構造については、受振点120付近(CDP 270)を境に南東部と北西部で異なっている(図3−2−1−28)。南東部分では地表付近で約1,550m/secのP波速度を示し、深度とともに徐々に速度が速くなる。一方、北東部分では、深度約50m〜70mの範囲で約1,700m/secのP波速度をもつ層が存在し、その下部では一旦、速度が遅くなり、約1650m〜1690m/secを示す。それから深部では、徐々に速度が速くなる。深度150m以深では、南東部と北西部でほとんど速度構造に相違はなく、深度150mで約1800m/sec、深度300mで約2000m/secの速度を示す。
(3) 表層構造
測線に沿ったタイムタームは、10msec〜25msecの範囲の値を示す。受振点120〜150(約150mの区間)では、周辺部と比較してタイムターム値が小さく(10msec〜15msec)、その両端部で大きな変化が見られる。同区間は地形的にも周辺部よりも低地である。受振点70〜120の区間では、タイムターム値は大きく、18msec〜25msecの値を示す。
表層部の厚さは、5m〜10mの範囲にあり、タイムターム値とほぼ同じ傾向を示す。全体的には、南西部で表層が厚くなる傾向が見られる。