なお,本測線の北東約1.8km付近では,本測線に概ね平行な測線を設定した既往調査(石油公団,1985;V−A−3測線)として大深度対象の反射法地震探査が実施されている.
@速度分布
表層および基盤の弾性波速度を把握することを目的に,波形記録から初動を読み取って屈折法による解析を行い,図3−3−31の上段に走時曲線図を,中段に解析断面図を示した.
解析の結果,2層構造と解釈でき,表層は速度が0.6km/s,層厚が測線中央部周辺で厚く,最大で35m程度と想定できた.一方,基盤は速度が1.8〜2.5km/sで,測線始点側から測線中央部で1.8〜1.9km/sとやや遅く,中央部から終点側では距離程2300m付近の2.5km/sを最大値として,2.0〜2.5km/sとやや速くなる傾向が認められた.
さらに,反射法の速度解析によるCMP重合速度パネルを図3−3−31の下段に速度コンター図として示したが,ここでの速度値はCMP重合速度であり,水平多層構造を仮定した場合はRMS速度(時間深度の平均速度)に近似的に一致する.速度解析は屈折法の解析結果を参考に実施した.
速度分布は表層部の300〜400ms付近で1000〜1500m/s(図中 赤〜黄色),1000〜1200ms付近より深部で3000m/s以上を示し,深部に向かって増加する傾向を示す.3000m/s前後の速度を示す範囲の形状に着目すると,測線中央部より始点側で凹凸が認められる.
A反射面解析
データ処理の結果から得られたカラー表示深度断面図(図3−3−23)上に認められる反射面の特徴を抽出してまとめる.図3−3−32には抽出した反射面を水色のラインとして表示し,その連続性が途切れる所や反射パターンの変化する所の境界を緑色の点線で表示した.
本測線では、CMP250付近を境に始点側で振幅が強くて連続性のある反射パターンが卓越し、逆に終点側では反射面の連続性が相対的に乏しく振幅も相対的に弱くなるパターンが一般的である.
以下に特徴的な反射面および断層状境界について列挙する.
反射面T:測線始点からCMP250の標高140m付近にかけて水平に連続する強い反射面.
反射面U:測線始点の海水準下20mからCMP210の同80m付近にかけて連続する強い反射面.
反射面V:反射面Uの下位に若干の凹凸を示して認められる連続する強い反射面.
反射面W:CMP250〜330区間の海水準下80m付近に認められる反射面.この反射面を境に上位では始点側に傾斜する反射パターン,下位では概ね水平なパターンが認められる.
反射波X:反射波Wの下位にあるやや振幅の強い連続性する反射面.全体に始点側へ緩やかに傾斜する.
反射波Y:CMP355付近から終点側の標高0m付近に認められ,連続性にはやや欠けるが,上位の比較的水平な反射パターンと下位の断続的な反射パターンとを境する境界として追跡可能な反射面である.
F1:CMP210の標高20m付近から深部方向に延長する断層状の境界.始点側から連続する反射面Uを途切れさせている.
F2:CMP250の標高80m付近から深部方向へ始点側に向かい急傾斜で延長する断層状の境界で,終点側から連続する反射面Wを途切れさせている.
F3:CMP240の標高120m付近から終点側へ緩く傾斜し,CMP340付近で急立するような断層状の境界.起点側から連続する反射面を途切れさせている.
F4:CMP355の標高180m付近から深部方向へ終点側に向かい急傾斜で延長する断層状の境界.終点方向から連続する反射面Yを途切れさせている.
B反射面の解釈
Aで述べた特徴的な反射面や境界についてその構造的特徴を述べる(図3−3−32).
反射面T:最表層部に位置することや周辺の地表地質状況,屈折法解析結果(図3−3−31)による基盤弾性波速度の傾向(1.8km/sと相対的に遅い)から考えて、中位面段丘堆積物T2dと鮮新統幾品層の境界に相当すると推測できる.
反射面U:反射パターンがほぼ水平な上位区間と,反射パターンが凹凸や傾斜をなす下位区間との境界に対応し,またCMP180〜210付近では上位の反射面がダウンラップするようなパターンを示すことからも,大きな時間間隙を伴うような不整合面に相当すると考えられる.
反射面T〜U間:水平で連続性の良い反射面がいくつも認められ,成層構造の発達した互層状の地層が主体と推測される.地表の地質状況や屈折法解析結果(図3−3−31)による基盤弾性波速度の傾向(1.9〜2.5km/sと中程度)も考慮すると,幾品層に相当すると考えられる.
反射面W:反射パターンが始点側へ緩やかに傾斜する上位区間と,反射パターンが上位に比べて水平に近い下位区間との境界に対応し,またCMP250〜280付近では上位の反射面がダウンラップするようなパターンを示すことからも,不整合面に相当すると考えられる.
反射面Y:反射面Wと同様に認定できるが,CMP380付近で上位の反射面が水平から始点側へ傾斜する様子が認められ,何らかの時間間隙を示す不整合面に相当する可能性がある.
F1〜F2間:その両側に比べて反射パターンの連続性が急に劣ること,F2の終点側で反射面の変形(始点側に垂れ下がる様に湾曲)が認められることから,断層に伴う断裂帯に相当すると考えられる.
F3〜F4間:地表浅部で全体に反射面の連続性が乏しい一方で,その直下に当たるCMP250〜340付近の深部では連続性の良い反射パターンが認められる.これと,CMP250付近の地表浅部で起点側から連続する反射面が断絶することや,地表露頭での急立構造,屈折法解析結果(図3−3−31)による基盤弾性波速度が若干遅く(終点側の2.0〜2.5km/sに対して1.9km/s)などを考慮すると、地表浅部に向かってより低角になるような断層構造の存在が推定できる.
図3−3−30 浅層反射法地震探査・解析測線図(S−3測線;養老牛地区)(縮尺 1:10,000)
図3−3−31 速度分布図(S−3測線;養老牛地区)
図3−3−32 反射面解析深度断面図(マイグレーション後)(S−3測線;養老牛地区)(縮尺 1:10,000)