(2)測定方法

@測量

浅層反射法地震探査に先立ち全受振点・発震点の位置および標高を求めるためキネマティックGPS測量を実施した.各測線のXY座標および標高を測量するにあたり,以下の基準点を使用した.なお,測量成果は世界測地系(測地成果2000),座標系は13系によった.

S−1測線(西北標津地区):椴山(一級三角点)(X:−301006.868m,Y:63186.308m,標高:59.83m)

S−2測線(開陽地区):武佐台(一級三角点)(X:−42739.887m,Y:50057.966m,標高:270.02m)

S−3測線(養老牛地区):両神(四等三角点)(X:−48850.003m,Y:39843.574m,標高:174.35m)

Aテスト

テストは各測線の本測定に先立って各測線付近における地盤の周波数特性の概略を把握し,適切な発震周波数を決定するために行った.テストは以下に示す発震周波数・垂直重合数で実施した.

[S−1測線(西北標津地区)]

テストは受振点範囲が10〜1,200m区間,震源は440mの位置で実施した.

発震周波数:発震周波数帯域を10−30Hz,30−50Hz,50−80Hz,80−120Hz,120−180Hzに分けて本地区の周波数特性を検討した.この結果,本地区は80Hz以下の周波数が卓越し,特に120−180Hzでは反射波はほとんど認められなかった.次に10−120Hz,10−150Hz,20−150Hz,10−130Hzの広周波数帯域について検討した.この結果,より広帯域での記録の方が反射波とその他の波にコントラストが認められたため10−150Hzが適当と判断した.

垂直重合数:垂直重合数は2回,4回,6回,8回で比較検討を行った.この結果,4回,6回,8回では大きな差は認められず,2回ではS/N比の低下が認められた.また,受振器展開内に車両の通行がある場合はノイズの影響を受けるため,車両ノイズのない状態で4回の重合数で測定を実施することとした.

[S−2測線(開陽地区)]

テストは受振点範囲が0〜1,190m区間,震源は400mの位置で実施した.

発震周波数:発震周波数帯域を10−30Hz,30−50Hz,50−80Hz,80−120Hz,120−180Hzに分けて本地区の周波数特性を検討した.この結果,本地区は80Hz以下の周波数が卓越し,特に120−180Hzでは反射波はほとんど認められなかった.次に10−120Hz,20−150Hz,10−100Hz,20−120Hz,30−150Hzの広周波数帯域について検討し,より広帯域での記録の方が反射波とその他の波にコントラストが認められたため,10−150Hzが適当と判断した.

垂直重合数:垂直重合数は2回,4回,6回,8回で比較検討を行った.この結果,4回,6回,8回では大きな差は認められず,2回ではS/N比の低下が認められた.また,受振器展開内に車両の通行がある場合はノイズの影響を受けるため,車両ノイズのない状態で4回の重合数で測定を実施することとした.

[S−3測線(養老牛地区)]

テストは受振点範囲が0〜1,190m区間,震源は500mの位置で実施した.

発震周波数:発震周波数帯域を10−30Hz,30−50Hz,50−80Hz,80−120Hz,120−180Hzに分けて本地区の周波数特性を検討した.この結果,本地区は80Hz以下の周波数が卓越し,特に120−180Hzでは反射波はほとんど認められなかった.次に,10−120Hz,10−150Hzの広周波数帯域について検討した.この結果,150Hzまでの高周波数を含む記録の方が反射波とその他の波にコントラストが認められたため10−150Hzが適当と判断した.

垂直重合数:垂直重合数は西北標津地区と開陽地区の測定結果をふまえ,車両ノイズのない状態で4回の重合数で測定を実施することとした.

B測定

上記テストの結果に基づき,表3−3−1に示す仕様で測定を実施した.

測定作業は、以下の手順で実施した.

@)測線上の一定間隔(本探査では10m間隔)に設置した測点(受振点)に受振器(6個/点)設置し,各々をCMPケーブル(本線ケーブル)に接続する(図3−3−5図3−3−6参照).

A)測定計画として予め定めた震源および受振点の展開をロールアロングスイッチ(展開している受振器群から必要なチャンネルを選択する装置)により選択し,発震作業と観測作業を行う.測定は浅部の比較的変化のある構造調査に適したスプリッドスプレッド展開法(図3−1−4参照)を採用した.また,各測線とも,始点・終点付近での発震点・受振点の関係は震源が受振展開の中心位置に移動するまで受振展開範囲を固定して行った.

B)観測した波形記録は探鉱器のモニターでデータの品質を確認し,良好なデータが取得できていればこれを探鉱器のハードディスクに保存する.

C)当該発震点での作業終了後は,隣接する発震点へ移動し,ロールアロングスイッチで次の受振展開を選択・設定する.

D)以上のA〜Cを繰り返し,前測点にわたる記録を取得する. 

図3−3−4 浅層反射法地震探査の測定概念図

図3−3−5 弾性波の反射・屈折

図3−3−6 受振器配置図

図3−3−7 スプリッドスプレッド展開の概念図

C測定機器

P波浅層反射法地震探査に使用した測定機器は,表3−3−2に示すとおりである.

Dデータ処理

データ処理の目的は,記録された波形を処理して地下構造を表す断面を作ることである.データ処理の手順を図3−3−8に示し,以下にその概略を説明する.

なお,本調査の処理には反射法地震探査データ処理システムSPW(Seismic Processing Wrokshop)を用いた.

図3−3−8 浅層反射法地震探査データ処理の流れ

@)前処理

データ変換と編集:探鉱器に記録された測定波形データをパソコンに転送し,不要なショット記録およびトレースを取り除く.

ジオメトリー割り当て:測量によって得られた発震点・受振点の座標を各トレース記録に割り当てる.これを基にCMP(共通反射点:厳密には共通中点)の位置を計算し,ショット記録から共通反射点記録(CMPアンサンブル)に編集する.

仮想測線の設定:本調査のように,屈曲した測線においては,CMPの位置は二次元的に分布するため,分布する反射点の平均的な位置に仮想の測線(=CMP重合測線)を設定し,ばらついた反射点をあたかもその測線上で反射しているかのように集める.

A)重合前フィルター

重合前には,反射波を出来るだけ強振幅かつインパルスに近い波形(低周波から高周波を含む波形)に変換するためにバンドパスフィルターやデコンボリューションフィルターなどを適用する.

バンドパスフィルター:周波数領域で任意の信号成分のみを抽出し,波形形成する.

デコンボリューションフィルター:震源で理想的なパルス波を発震させたとしても,受振した波形は,地層の吸収効果および重複反射などの影響により,複雑かつ分解能の低いものとなっている.デコンボリューションは,この様な受振波形をパルス状の波に近づけ,分解能を高めるためのフィルターである.

F−Kフィルター:ショット記録に表面波などの顕著な線形ノイズが見られる場合によく使われる.表面波などの線形ノイズは,周波数−波数(F−K)領域で原点から見かけ速度に対応した傾きを持った直線上に分布するため,F−Kスペクトル振幅を扇形にゼロにして時間−空間領域に戻すことで線形ノイズを除去する.

B)静補正

発震点および受振点の標高差,表層付近での弾性波速度の差ならびに表層の厚さの変化による反射波のバラツキなどを補正する(図3−3−9 静補正の原理).前者を地形補正,後者を表層補正という.

地形補正:各発震点・受振点の標高の違いによる反射波の到達時間差を,ある同一の基準面で発震・受振したかのように時間を補正する.

表層補正:表層(風化部)の厚さならびに弾性波速度の差により生じた反射波の到達時間の差を,ショット記録の初動による屈折法解析に基づいて,表層の厚さに応じた時間を補正する.

図3−3−9 静補正の原理

C)速度解析

CMPアンサンブルからNMO補正およびCMP重合のための速度分布を求める.速度解析は定速度重合法により行った.

定速度重合法:様々な重合速度でNMO補正,水平重合を施し,反射波の振幅強度が最大となった時の速度を採用し,時間方向に重合速度を選んでゆく.本処理では測線全体を一定の速度で重合したものと,あるCMP間隔で重合したものとを比較しながら行った.

D)NMO補正およびCMP重合

NMO補正:CMPアンサンブルで双曲線上にならぶ反射波を,速度解析によって求めた速度により直線上に位相の揃った反射波に補正する.この時,NMO補正によってオフセット距離に応じたゆがみが波形に生じる.このゆがみの大きい波形をそのまま重合してしまうとせっかくの反射波を弱めてしまうため,ゆがみの大きい部分は重合前にミュートにより削除する.

CMP重合:NMO補正によって同一の走時に並べられたトレースを重合する.これにより反射波は強調され,ランダムのノイズは弱められる(図3−3−10 CMP重合概念図).

図3−3−10 CMP重合概念図

E)残差静補正

静補正を施した後でも,表層部の局所的な速度の変化や反射波の経路に違いなどの不規則性に起因するものは完全には補正されない.このためNMO補正後のCMPアンサンブルで,反射波は一定でないのが普通である.これを補正するために,統計的処理により各発震点・受振点における二次補正値を求める.

F)重合後フィルター

重合断面をより地下構造を反映したものとするために,バンドパスフィルターやデコンボリューションフィルターなどを適用する.

G)マイグレーション

CMP重合されたままの反射断面は傾斜した地層からの反射波が各トレースの直下に表示されるため,反射断面上の反射面の傾斜や位置は実際の地下の反射面とは異なる.この見かけの傾斜や位置を真の位置に復元することをマイグレーション処理という(図3−3−11 マイグレーション概念図).マイグレーションの方法は波動方程式マイグレーションが一般的で,差分法やF−K法などがある.本処理ではF−K法を採用した.

図3−3−11 マイグレーション概念図

H)深度変換

上記までの処理によって得られる反射断面図は縦軸を時間とするものである.地下の速度分布構造を速度解析の結果などから仮定して,縦軸を深度軸に変換する.

表3−3−3 浅層反射法地震探査データ処理仕様一覧

I)断面図作成

測線ごとに以上のデータ処理を施した反射記録断面図は,以下のように断面図として作

[S−1測線(西北標津地区)]

マイグレーション前の時間断面図(縮尺 縦10cm/s,横 1:10,000)→ 図3−3−12

マイグレーション前の深度断面図(縮尺 横 1:10,000)→図3−3−13

マイグレーション後の時間断面図(縮尺 縦10cm/s,横 1:10,000)→ 図3−3−14

マイグレーション後の深度断面図(縮尺 横 1:10,000)→ 図3−3−15

[S−2測線(開陽地区)]

マイグレーション前の時間断面図(縮尺 縦10cm/s,横 1:10,000)→ 図3−3−16

マイグレーション前の深度断面図(縮尺 横 1:10,000)→図3−3−17

マイグレーション後の時間断面図(縮尺 縦10cm/s,横 1:10,000)→ 図3−3−18

マイグレーション後の深度断面図(縮尺 横 1:10,000)→ 図3−3−19

[S−3測線(養老牛地区)]

マイグレーション前の時間断面図(縮尺 縦10cm/s,横 1:10,000)→ 図3−3−20

マイグレーション前の深度断面図(縮尺 横 1:10,000)→図3−3−21

マイグレーション後の時間断面図(縮尺 縦10cm/s,横 1:10,000)→ 図3−3−22

マイグレーション後の深度断面図(縮尺 横 1:10,000)→ 図3−3−23

成した.本データ処理に用いたパラメータは表3−3−3にまとめた.

図3−3−12 時間断面図(S−1測線:西北標津地区)(マイグレーション前)(縮尺 縦10cm/s,横 1:10,000)

図3−3−13 深度断面図(S−1測線:西北標津地区)(マイグレーション前)(縮尺 横1:10,000)

図3−3−14 時間断面図(S−1測線:西北標津地区)(マイグレーション後)(縮尺 縦10cm/s,横 1:10,000)

図3−3−15 深度断面図(S−1測線:西北標津地区)(マイグレーション後)(縮尺 横1:10,000)

図3−3−16 時間断面図(S−2測線:開陽地区)(マイグレーション前)(縮尺 縦10cm/s横 1:10,000)

図3−3−17 深度断面図(S−2測線:開陽地区)(マイグレーション前)(縮尺 横 1:10,000)

図3−3−18 時間断面図(S−2測線:開陽地区)(マイグレーション後)(縮尺 縦10cm/s,横 1:10,000)

図3−3−19 カラー表示深度断面図(S−2測線:開陽地区)(マイグレーション後)(縮尺 横 1:10,000)

図3−3−20 時間断面図(S−3測線:養老牛地区)(マイグレーション前)(縮尺 縦10cm/s,横 1:10,000)

図3−3−21 深度断面図(S−3測線:養老牛地区)(マイグレーション前)(縮尺 横1:10,000)

図3−3−22 時間断面図(S−3測線:養老牛地区)(マイグレーション後)(縮尺 縦10cm/s,横 1:10,000)

図3−3−23 カラー表示深度断面図(S−3測線:養老牛地区)(マイグレーション後)(縮尺 横 1:10,000)