(1)判読による地形面分類

平成14年度調査では上位より高位面(T1),中位面(T2),低位面(T3),最低位面(T4)および沖積面(A)の5面を区分したが,地表踏査結果を参考にして,空中写真と地形図(5万分の1・2.5万分の1)により再判読した結果,高位面(T1),中位面1(T2−1),中位面2(T2−2),低位面1(T2−1),低位面2(T2−2),最低位面(T4)および沖積面(A)の7面に区分するのが適切であると判断した.ただし,山地と平野の境界部すなわち断層帯付近では小扇状地(一部が沖積錐)や地滑り体が小台地を形作ることもあり,次の断層リニアメントの識別との際に問題となる.

[高位面(T1)]

高位面は開陽台(中標津町)を代表として,俣落岳・武佐岳の周辺および崎無異川・元崎無異川上流域(標津町北部)に250〜500m前後の標高を有して分布する.開陽台では北に向かって次第に高度を増しかつ扇状地状に狭まる分布形態を示すが,武佐岳の南東〜北東山麓と崎無異川・元崎無異川上流域ではいくつかの段差のある階段状の尾根筋として存在する.5万分の1地質図幅(松井ほか,1967;三谷ほか,1963)を参考にして判断すると,武佐岳火山噴出物または埼無異川集塊岩の溶岩など一次的堆積物の占める面であるとみなされる,それらの噴出物や岩体に関連した火山活動は鮮新世末〜中期更新世とされており(新エネルギー・産業技術総合開発機構,1997;2001),地形面の形成は古い.なお,山岸(1989)は開陽台展望台の断面露頭で上位より安山岩角礫層(厚さ4.5m),円礫層(0.8m),平行葉理砂層(3m)のほぼ水平の重なりを観察している.これは,火山噴出の一次的堆積物と別に面の表層部を構成する堆積物(扇状地成)が存在する可能性も示唆しており,検討が必要であるが,依然として問題点として残っている.

[中位面(T2−1・2)]

本面は報告地域内で山地を除いた範囲では大半を占める地形面である.根釧原野内で最も広く分布する地形面であり,その広がりと構成堆積物から最終間氷期の海進期に形成された面をベースとして屈斜路火砕流堆積物(KPfl−W)の流入堆積,その後の削剥・堆積(山地寄りの地域では扇状地が形成される)でできた地形面と考えられる.岩田(1977)は本報告地域内の本面について,南西端(標津川上流域付近)のものを虹別面,南縁部(中標津市街を中心とした標津川中流域)のものを当幌面・上春別面,山地よりの主部(断層帯付近からその南西側一帯)のものを忠類面,南東縁(標津川下流南側)のものを根釧原野面・尾岱沼面・茶志骨面と呼び区別している.これらのうち虹別面は中位面を基本として摩周カルデラ形成の際に流出した摩周軽石流が重なりできた堆積面で,完新世初頭に形成されたもので,識別が比較的容易である.しかし,虹別面以外の面を相互に識別することは,5万分の1および2.5万分の1の地形図上では,表面を広くおおう完新世の摩周火山灰層(降下火山灰)の存在のため極めて困難である.よって,本報告では虹別面のみを中位面から区分して中位面2(T2−2)とし,中位面の主体を中位面1(T2−1)として取り扱った.

全体としては,知床半島脊梁山地からの多くの扇状地が複合したものの面である.現河床からの比高は北から記述すると,次のようである.峯浜北方海岸で50m弱(海面から;図3−1−1),陸志別川下流および植別川下流で30〜70m前後(図3−1−2図3−1−3図3−1−4)であるが,上流に向かって比高が大きくなっている.勾配は40〜65/1,000と大きいが,これは扇状地としての本来のものにテクトニクス性の変位が加わっている可能性がある.崎無異川中〜下流(平野)では10m程度ときわめて小さいが,薫別川中〜下流(平野)で40m前後と大きい(勾配いずれも21/1,000).忠類川下流(平野内の海岸〜8km上流)では17mで勾配は12.5/1,000といずれも小さいが,同中流(同8km〜13km間で金山橋まで)では上流へ向かい20から50mへと増大し勾配は21/1,000である.このように扇状地の扇頂付近で比高・勾配ともに大きくなっているが,古多糠断層の影響でのテクトニクス性変位も考慮しなければならない.標津川水系では平野内では一般に20m程度であるが,山地との境界部(扇状地としての扇頂部)30m前後とやや大きくなる.

[低位面(T3−1・2)]

低位面は主に忠類川以北の根室海峡沿いの水系沿いに狭長に分布する河岸段丘の地形面である.平成14年度報告では1面として取り扱っていたが,現地調査を含めての結果では高低2面に分かれることが判明した.高位のものを低位面1(T3−1),低位のものを低位面2(T3−2)とする.形成年代は,面にともなわれる上部摩周火山灰層(火山灰・ローム・腐植層)のうちMa−l以下を欠如しており,完新世前半〜中頃とみなされる.現河川からの比高は10〜20m程度であり,低位面1と2の比高は10m程度である.

調査地域南部の標津河水系ではクテクンベツ川,武佐川,俣落川,ポン俣落川,荒川,鱒川沿いにも分布が識別できるが,これは低位面1とした.

[最低位面(T4)]

諸河川沿いに河岸段丘面として細切れに分布し,現河床からの比高は数m前後である.表層に火山灰・ローム・腐植を伴うことは一般的にないことから,数千年前以降の堆積とみなされる.

[沖積面(A)]

本面は現河川氾濫原面を含めたものであるが,諸河川沿いに狭長に分布し,全体として樹枝状の分布の形態を取っている.標津川下流域に沖積低地と呼ぶべき広い分布がある.