(1)ピットA調査結果

本地点の四線川左岸に分布する扇状地性の河成段丘面上にはほぼN−S方向の逆向きの低崖が認められる.この崖は北部で比高約2.5mと明瞭であり,同地点でピットAを掘削した(図3−3−1).

ピットAの各法面のスケッチと写真を14C年代測定結果と併せて図3−3−2−1図3−3−2−2図3−3−2−3、及び図3−3−3−1図3−3−3−2図3−3−3−3に,また,テフラの分析結果を図3−3−4に示す.

本ピット内に現れた堆積物を,層相,構造,色調などから,上位よりT層,U層,V層,W層に区分した.

T層は,逆向き低崖の地形に沿って分布する.地表面直下の黒色土壌及びその下位の腐植質礫層〜礫質砂層からなり,礫は大〜巨礫が多く,基質支持である.黒色土壌中に淡黄色を呈する細粒の軽石がパッチ状に分布する.この軽石層は,産状及び分析結果から,樽前aテフラ(Ta−a:AD1739年;新編火山灰アトラス,2003)に対比される(図3−3−4).また,腐植質礫層〜礫質砂層から採取した試料の14C年代は,約1600y.B.P〜約600y.B.Pの値を示す.T層は,その層相より,斜面堆積物と考えられる.下位のU層以下の地層とは傾斜不整合で接している.

U層は,低崖基部付近に小規模に分布する.礫混じり腐植層からなり,礫は大〜巨礫が卓越する.礫間を腐食層が充填する産状を示すことから,斜面堆積物と考えられる.礫の構造に礫支持の部分と基質支持の部分が混在することから,崩壊堆積物の可能性がある.本層の14C年代は約2400y.B.P〜約1800y.B.Pの値を示す.下位のV層とは,基質の違いから識別した.整合か不整合か見分けがつかないが,V層よりも局所的な分布をしていることから,不整合である可能性が高い.

V層は,低崖斜面の途中から基部付近にかけて分布する.ローム質砂層〜ローム質細礫層からなる.本層の下部には,砂層が挟まれており,層状の構造を示す.ただし,層理の発達は弱く,強い流水の影響を受けたのではなく,表流水などの弱い流水の影響を受けたためと解釈される.上部は,礫間をローム質堆積物が充填する基質支持構造を示すことから,斜面堆積物と考えられる.北側法面では,低崖直下のV層は,断層下盤側のV層よりも厚く発達することから,断層運動に関連して厚層化した可能性がある.本層中からは年代試料を得ることができなかった.

W層は,ピット中に低崖をまたいで全般に分布している.青灰色シルト質砂層ないし砂質シルト層・礫層の互層からなり,礫層は中礫を主とする.層理〜葉理が良く発達していることから,河川性堆積物と考えられる.本層中のシルト層ないし砂層中には炭化物の微片が含まれており,その14C年代は約13500y.B.P〜約9500y.B.Pの値を示す.

南北両法面において,W層は,逆向きの低崖と調和的に,東上がりの撓曲変形をしていることが確認された.W層は,撓曲部では直立ないし逆転して,Z字状の構造を示しており,ヒンジでは東上がりの低角逆断層がみられる.いずれの断層も,小規模で,連続性は良くない.V層及びU層にも,W層の撓曲変形と調和的な変形が認められるが,最上位のT層は,変形したU層以下の各層を明瞭な不整合で覆っており,変形が認められない.このことから,本地点おける御料断層の最新活動時期は,U層堆積以降,T層堆積前であることが確実であり,その年代は14C年代値から約1800年前以降,約1600年前以前となる.

一方,本ピットの南側法面中央部において,V層基底を変位基準とすれば鉛直変位量は約65cm,同範囲でW層内シルト質砂層を基準とすると鉛直変位量は約1.1mとなり,V層とW層とで変位量に有意な差が認められる.また,V層及びU層はいずれも低崖斜面から基部付近にかけてのみ分布し,その層相から,低断層崖を埋めて堆積したプリズム堆積物の可能性がある.