広尾町上野塚地区におけるボーリング調査結果に平成13年度実施のボーリング調査結果を加え、地質断面図として図3−4−4−4に示した。この地区のボーリング調査で明らかになった地層を、上位からA層、B層、C層、D層、E層、F層およびG層に区分した。
A層は表土、盛土、表層腐植土で、自然状態が保たれている地点では黒色の腐植土もしくは弱腐植質ローム層からなりTa−b火山灰層を挟んでいる。B層は細礫が点在する褐色ローム層であり、層厚2m前後で、地域を横断して層厚の変化が少ない。
C層は細礫・砂混じりのローム質シルトからなる。B−4−7孔より西側に分布が確認されるが、東側では対応する地層が確認されない。D層は火山灰質ローム層もしくは軽石混じりシルト・砂層であり、地域を横断して連続すると考えられる。ローム層中には火山灰も富む部分が層状に認められるが、これらはは二次堆積物の可能性が高い。
E層はマトリックスがシルト優勢な砂礫層で地域全体に連続するが層厚は1.5〜2.5mの幅で変化する。F層も地域全体に連続する砂礫層であるが、層厚は1.0〜3.0mと変化が大きく、B−4−7孔より西側で厚く、東側ではやや薄くなる傾向を示す。
G層は軽石混じり礫岩、砂質泥岩、泥岩などによって構成される。固結状態はよく、50°〜60°に傾斜する層理面が観察されている。
以上の堆積物の中で、堆積時においてほぼ水平で連続した地形面を形成したと確実に判断される地層はE層である。この地層の堆積面の上面は、B−4−6孔とB−4−7孔間で2.8m程度の高度差が確認された。この高度差は堆積時のものとは考えにくいことから、断層活動によってもたらされたと判断される。
この砂礫層の上位を覆うD層は地域を横断して連続するものの、層厚に変化がみられ、C層はB−4−7孔より西側のみで確認されている。このことから、砂礫層の堆積頂面を変位させた断層活動はこれらの地層の堆積や分布にも影響を与えている可能性が高い。
F層の層厚は想定される断層下盤側で厚く、F層堆積中に断層活動がおこったことも予想されるが、F層基底面は不整合面であり、断層付近が河川の浸食によってより大きく下刻されたことによって層厚を増した可能性も考えられるため、ボーリング調査のみからは断層活動による影響と判断することはできない。
B−4−6孔のF層最下部には礫混じり凝灰岩と礫層の繰り返しが観察され、ずれ量の小さい派生断層が存在する可能性も考えられるが、コア状態が極めて悪いため確実とは言いがたい。
<断層および構造記載>
トレンチでは北側法面に2条、南側法面に3条の断層面が確認された。これらの断層について、南側法面の断層面を東からfa断層、fb断層、fc断層とし、北側法面の断層面をfa断層、fb断層とした。北側法面のfa断層は南側法面のfa断層 に対応し、南側法面のfb断層 ・fc断層はE1層中で収斂し、北側法面のfb断層 に対応すると考えられる。
南側法面のfa断層はN38°W,38°E、fb断層はN40°W,30°E、fc断層はN30°W,36°Eの走向・傾斜を示し、fb断層fc断層が収斂する上方末端部ではやや低角化しN25°w,23°Eの走向・傾斜を示す。
北側法面のfa断層はN30°W,34°E、 fb断層はN30°W,25°Eの走向・傾斜を示し、fa断層の上方末端部では、N25°W,23°Eの走向・傾斜を示している。
断層面は、E1〜E3層(砂礫層)では礫の配列や砂層のせん断によって明瞭に認識できる。C層中では砂層の食い違いやシルト層の変形により断層面が認識される。これに対し、D2〜D4層中では地層の変形が認識できるが、断層面は南側法面におけるfb・ fc断層が収斂した上方延長部で確認されるのみである。
各断層面沿いおよび近接する部分では、トレンチ内で観察される地層に大きな引きずり変形や撓みが観察される。このうちもっとも大きな変形が見られる部分は南北法面のfa断層沿いのE1〜3層である。この砂礫層中(E2層)にはやや連続のよい砂層が見られるが、これが断層面付近で大きく変形し一部は逆転をおこしている。ここでの変形量は高度差約1.2mである。断層面沿いのずれ量は10〜60cmでありE1〜3層でほぼ共通している。
fa断層の上方延長部では、D2〜4層およびC層に変形が見られるが、断層面が確認できるのは北側法面のC層中だけである。この部分の断層面はC層中の砂や細礫のずれとして認識され、面沿いのずれ量は10〜30cm程度である。C層中で確認できる変形量は断層近傍で50cm以内である。
南側法面のfb断層 ・fc断層と北側法面のfb断層沿いにもE1〜E3層中に引きずりによる変形やせん断が観察される。ここでの変形はfa断層に比べると小さいが、南側法面ではfb断層 とfc断層を合わせると60〜70cmの高度差が確認され、北側法面では約40cmでやや小さい。断層面沿いのずれ量は南側法面では20〜30cmで、北側法面では10〜40cmで幅がある。
fb断層・ fc断層の上方延長部においてもD2〜4層およびC層に断層面沿いのずれや変形が観察される。南側法面では断層面近傍の変位量は30cm以内で、ずれ量は20cm以内であり、C層の上部では変形は観察されるが、断層面およびずれはほとんど認識できなくなっている。北側法面でも断層近傍の変位量は20cm程度、ずれ量は数cm以下でC層上部では断層面・変位がほとんど認識されない。
<考察>
トレンチで確認された断層をはさむ範囲で、調査地点付近の地層の断層変位を以下に検討する。トレンチ内で確実に認められる断層は、トレンチで確認される最下位のE1層を変位させ、D〜C層をせん断してB層の下部を変形させている。トレ最下位のE1層は、ピット1の状況と合わせると、堆積時にほとんど水平であったと判断される。E1層の堆積面の上面には、上盤側と下盤側で2.8mの高度差が確認される。E1層の上位のD層には層厚の変化がほとんどなく、D2〜D4層の組み合わせが保存されている。またD層の上面はC層に侵食されていないと判断される。変位はD層の堆積中には起きていないと判断される。これに対して、C層の上限高度には約1.6mの高度差しかない。しかし、C層は上盤側において上部が削剥されており、これは正しい変位量をあらわしていない。C層の差別的な削剥は、B層堆積以前に上盤側が上昇した可能性を示唆し、B層を切る活動以前の断層変位の可能性も否定しきれないが、確実な証拠は無い。
C層を覆うB1〜3層にもC層と同様の高度差が確認される。B層はローム層であるが、水成堆積物であることを確実に示す証拠はなく、堆積時に水平に堆積したかどうかは不明でC層上面に形成された高度差を覆うように堆積した可能性も考えられる。したがって変位基準として扱うのは妥当ではない。同様にA層もB層を覆う堆積物であるが、水成堆積物であることを確実に示す証拠はなく、堆積時に水平に堆積したかどうかは不明である。下盤側のみに堆積している地層はA4層であり、断層変位によって形成されたいわゆるプリズム層であることを疑ってもよいが、直下のB層上部が断層による変位を受けたことが確実ではないので、断層変位を原因であると断定することはできない。
調査結果をまとめると、以下のようである。トレンチ内で確実に認められる断層変位は、E層の上面に見られる2.8mである。ボーリング調査の結果からは、E層の基底をなす豊似川層の上面には、上盤側と下盤側との間に約6mの高度差がある。この中間には断層が存在することがトレンチ調査から明らかになったので、この比高は断層変位とみなすことができ、E層上面の変位量と明らかな差があるので、複数の断層変位の累積がある可能性が高いと考えられる。また、C層に見られる高度差1.6mは、E層上面の高度差に比較して小さいが、変位基準としての信頼性に乏しく、その間に断層活動を断定することはできない。さらにA4層は断層活動に伴うプリズム層である可能性は否定しきれないが、断層変位を原因と断定することはできず、E層堆積後B層堆積以前に起こったかもしれない断層活動と分離することもできない。