(2)途別川断層

途別川断層では,平成13年度調査において,Spfa 1を乗せる面であるMa−t8面上に,北北東−南南西に細長く,しかし断続的に連なる比高約2mの高まりが確認されている.これらについて,現地においてさらに詳細な地形・地質調査を行い,1/5,000精査図(付図4)を作成した.

精査範囲は幕別町依田の南方から帯広市愛国,幕別町途別にかけての地域である.この地域は,札内川と途別川の流域に沿って広がる沖積低地と,二つの河川に夾まれて北北東−南南西方向に延びる低い台地状の低位段丘面から構成される.途別川断層に関係する可能性のあるリニアメントは,この低位段丘面(Ma−t8面)上,段丘面の東縁にそって断続的に分布する.リニアメントはMa−t8面上で東側が比高2m程度高い極めて緩やかな微高地を成す(図3−1−4−3).本年度調査により,Ma−t8面は,a)東縁に分布する上述の微高地,b)札内川側の段丘縁辺に沿い比高2m程度で分布する狭小な微高地,c)それらの間に広がる,起伏に乏しい平坦面,が存在することが確認された.b)の微高地は北北東−南南西方向に細長く延びる断続的な高まりを形成し,その比高や形態は段丘東縁のそれによく似ている.a)〜c)を横断する地形測量を行った結果を,図3−1−4−4(愛国測線)に示す.断面線の両端を成すa)とc)の比高にはほとんど差が無く,あったとしても1m以下であることが明らかとなった.なお,精査範囲の北方,途別川断層リニアメント延長部に位置する幕別町依田において行った同様の地形測量の結果も併せて示す(図3−1−4−4:幕別依田測線).こちらの測線では,測線の両端にMa−t8面が,間の低地にMa−t9ないし10面が分布する.測線両端のMa−t8面の比高差には,有意な差は認められない.測線における段丘礫層の上面高度もまた有意な差を持たない.

Ma−t8面上の微高地および低地を構成する堆積物について,地質踏査を行った.途別川断層付近の露頭柱状図を図3−1−4−5に示す.踏査範囲の大部分を構成するMa−t8面では,段丘礫層の上位にローム層および薄い土壌が累重する.段丘礫層の層厚は20m以上に達し(図3−1−4−6),礫径数cm〜最大30cmに達する淘汰の良い円礫〜亜円礫より成る.礫には花崗岩〜トーナライトが特徴的に含まれ,これらの深部地質が露出する日高山脈中部から流下する札内川に由来する段丘礫層と考えられる.ローム層はSpfa 1(支笏第一テフラ),Kt−1(クッタラ第一テフラ),En−a(恵庭−aテフラ)の二次堆積物を夾在することのある層理に乏しい塊状の産状(やや円摩された火山ガラスが散在する)を呈する.Ma−t8面より新期の段丘面群は,途別川西岸に狭小に分布する(図3−1−4−7).Ma−t9(En−aを乗せる),t10,t11面(Ta−dまたはKo−gを乗せる)に相当し,比高2〜4m程度の低段丘崖で境される.これらの面には,活断層による変位地形の可能性があるリニアメントは認められない.途別川,札内川沿いには沖積低地が分布する.これらについては地質露頭は得られなかったが,耕作土の観察より,礫層およびその上位の黒色土から構成さると判断される.

Ma−t8面を成す地形単元のうち,aとbを成す微高地の地質断面は,愛国神社および帯広市愛国の基線付近で観察できる(図3−1−4−8).aおよびbでは段丘礫層の上位に軽石層およびローム層が発達する.ローム層は赤色〜赤褐色で円摩された火山ガラス片を含むややシルト質ロームから構成される.軽石層は,著しく斜交葉理が発達した極めて淘汰の良い粗粒砂〜中粒砂サイズの軽石片(やや円摩され角が落ちている)から構成される.軽石片のほとんどは繊維状の発泡形態が顕著な黄白色軽石で,本地域に発達するSpfa 1軽石だが,基底部にKt−1(クッタラ第一テフラ)由来の軽石が認められることもある.斜交葉理は重鉱物の濃集した黒色部と,軽鉱物・火山ガラスの濃集した白色〜黄白色部からなり,それらがリズミカルな互層を成しているが,特に軽鉱物・火山ガラス部が卓越する傾向がある.異質岩片の混入は非常に少ない.葉理面はそれぞれが東〜北東に最大35度傾斜する平滑な平板状を成す.これらの特徴から,この堆積物はSpfa 1堆積後にそれらが二次移動した砂丘堆積物であり,十勝団体研究会(1978)などにより報告された帯広古砂丘の一部であると考えられる.こうした堆積物は地形的に比高の高い場所では厚く発達する傾向が強く,その最大層厚は2mを越えることがある.図3−1−4−10に,十勝平野および精査範囲における古砂丘の分布(十勝団体研究会,1978)を示す.これらは,その分布の他,北北東−南南西方向に長軸を持つものが多いこと,一つ一つの高まりは小規模なものが多くその連続性は極めて悪いことなど,付図4に示される微高地と共通点が多い.堆積物や形態,分布から判断して,精査範囲に分布する微高地は十勝平野団体研究会(1978)による古砂丘地形と見なすべきと考える.

一方,Ma−t8面構成単元のうちcの低地は,現地では起伏の乏しい平滑な地形面形状を成す.この低地の地質断面を図3−1−4−9に示す.前述の微高地と異なり,段丘礫層の上位には層として認識可能な火山灰層は降灰層準・二次堆積物のいずれとしても確認できず,塊状のシルト質赤褐色〜黄褐色ロームが載る.ロームはやや粘質であり,層厚40〜60cm程度である.まれに細礫が含まれることがある.このロームは,En−aの上位に発達するやや軟質なものとは異なり,微高地を構成する地質のうち,Spfa 1二次堆積火山灰の上下に発達するものと類似している.表土の発達は極めて悪い.この低地は,Ma−t8面形成後において,微高地を成すヶ所にくらべわずかに離水が遅れ砂丘形成時も流水の影響を受けていた,ないしはなんらかの影響(風?)で火山灰が失われたことにより形成されたのであろう.

途別川断層の精査範囲に分布するリニアメント付近では,段丘礫層より下位の地質を直接観察できなかったが,リニアメントの北方延長では中部中新統渋山層の凝灰質シルト・亜炭層に西落ち8度程度の傾動が認められた(図3−1−4−11).一方,Ma−t8面に関しては,単一の離水履歴を持つ面ではなく,離水タイミングのわずかな違い,砂丘形成などによる複雑な形成履歴を持っていることが本調査により示された.単純に地形面高度を元に活断層による垂直変位を検討することは危険なことはいうまでもないが,測量結果からは札内川−途別川間のMa−t8面における断層変位を示す積極的な証拠は見いだせない.この地域に関して断層変位の有無を検討するためには,ボーリング調査・ピット調査にりさらに詳細に地下浅部構造に関するデータを取得する必要がある.