(1)旭断層

旭断層については,Ma−t11面に変位が生じている可能性のある,音更町東旭地区(図3−1−4−1)について精査を行った.この地区について,トレンチ調査適地選定のため,詳細空中写真判読と踏査を行った.結果を1/5,000精査図(付図3)に示す.

調査地周辺を構成する地形単元は,ゆるやかな丘陵〜台地状を成す北半部と,起伏に乏しく平坦な低位段丘面から成る低地を成す南半部から構成される.北半部の丘陵〜台地は平坦ないしは北西〜西へわずかに傾斜する段丘面(Ma−t2〜t5面:幕別面〜上更別V面相当)とその縁辺の斜面化した段丘崖で構成される.露頭に乏しいこと,露頭があっても段丘礫層より上位のローム層厚が1m程度と極めて薄く,面の堆積物が明らかに削剥されていることのため,地形面堆積物の詳細は明らかではない.このため,地形面の対比は,堆積物によらず,地形面の開析度,周辺地域における地形面との高度・連続性対比に寄っている.

南半部の低位段丘面は,Ma−t11面が広く分布し,十勝川北岸に沿った狭小な範囲に,局所的にMa−t12面が分布する(北海道,2002).Ma−t11面はTa−d,Ta−d(図3−1−4−2)を乗せる地形面であること,北海道(2002)により11,100〜10,510yBPの14C年代が得られていることより,離水年代11〜10ka前後の河岸段丘面と考えられる.Ma−t11面上,旭地区の北1線付近には,越後(2001),北海道(2002)により指摘された比高2mの地形的膨らみが認められる.これは越後(2001)により旭断層南方延長部のMa−t11面上に形成された東上がり撓曲崖と見なされた.しかし北海道(2002)により,この地形の地下においては段丘礫層上面および池田層上面に比高1m前後の起伏が認められるものの,”撓曲崖”を夾んでそれらの上面について系統的な比高変化がないことが指摘された.

本年度調査において,この”撓曲崖状地形”について,詳細調査を行った.その結果,この地形は,南北方向(旭断層リニアメントの走向)に延びる直線的な崖というよりは,北に開いた半ドーム状の地形を成していることが明らかと成った(付図3).この半ドーム地形はMa−t11面には認められるものの,Ma−t12面には及んでいない.また,Ma−t11面上においても,北1線付近から南側ではその比高が急速に低下し,道道帯広浦幌線付近では完全に消滅している.

北海道(2002)によれば,この半ドーム地形の地下では,B1−2,1−5において未分解腐植層が厚さ2mにわたり発達する.この腐植層はTa−dテフラより上位で発達し,それより下位の地層群ではこうしたドーム状の構造は顕著ではない.一方,ドーム地形の外縁を成す斜面に掘削されたB1−6では腐植層の厚さは1m程度となり,外側に位置するB1−3,1−4ではほとんど認められない.

以上の結果は,以下に示すように解釈することが可能である.

1) この半ドーム状地形は旭断層の活動により東側(上盤側)がテクトニックに隆起した.断層はドーム地下浅部で未分解腐植層を切る低角衝上断層として存在し,腐植層をテクトニックに厚化させている.段丘礫層・池田層に地形変位に対応する系統的な変位が見えないのは,断層がこれらの地層よりも上位の地層内を低角に通過しているためである.

2) 半ドーム構造は,断層変位ではなく,極めて年代が近接しているがわずかに離水年代の異なる地形面の違い,ないしは段丘離水後の地形面上の環境変遷の違いを反映している.

これらの可能性を検討するため,後述するピット・ボーリング・トレンチ調査を行った.

なお,トレンチ調査の結果,半ドーム地形の西側を構成するMa−t11面は,離水時期はTa−d堆積直前だが,ごくわずかながら離水時期が異なる可能性がある(この違いは,分布からみて断層活動による可能性は低い).ドーム西側の面について,Ma−t11'面として表現しておく.