リニアメントの東側にはNa−t3面,Na−t4面(Spfa 1を乗せる:図3−1−3−17),西側にNa−a1〜a2面が分布し,リニアメントは面の境界を成す西落ちの崖となっている.Na−t3面は,他の地区と同様,面の堆積物の喪失が顕著だが,段丘礫層上には白色粘土,ローム層(厚さ1〜2m),クロボク土・森林土が累重する.Na−a1,a2面分布域は宅地開発が顕著で露頭は確認できなかった.しかし,工事残土から推定すると礫層の上位にクロボク土,砂層が薄く累重すると推定される.なお,指標テフラが削剥ないし再移動している可能性があるローム層については,山中式土壌硬度計および帯磁率測定器の使用により,火山ガラス濃集層の判別が有効に行えた.図3−1−3−18に,帯磁率・山中式土壌硬度計測定結果のうち代表的なものを示す.その他のヶ所については,各断層の地質柱状図にデータを示した.
(2)地質と断層露頭
断層付近には,芽登凝灰岩,渋山層(図3−1−3−17)が分布する.音更町下士幌南方の十勝川北岸では芽登凝灰岩がよく露出する.一方,その西方の音更町南宝来〜木野では,沖積段丘下に芽登凝灰岩層準が分布する.岡(1999〜2001)による坑井資料も合わせて判断すると芽登凝灰岩の下面高度には40m程度の差がある可能性は指摘できる.しかし,下士幌付近のNa−t3〜t6面分布域では芽登凝灰岩は塊状ないしわずかに平行〜斜交層理の発達する軽石流堆積物であるのに対し,音更川付近の低地地下では芽登凝灰岩の層準は凝灰質砂〜シルトの様相をなしているようであり(岡,2000),同一堆積面を成していた保証がない.この程度の差は火砕流流下当時の地形的落差を埋積することでも十分説明可能であるため,この比高差は変位の積極的証拠とはならない.活断層露頭は見いだされていない.
(3)変位量と平均変位速度
図3−1−3−19に地質断面図を示す.リニアメント西方,標高10m前後に下底を持つ芽登凝灰岩の基底高度は,士幌川付近で標高50m前後となる.しかし,士幌川−音更川間の地質構造が不明であるため,これが断層変位によるものかどうかは判断できない.よって,当該リニアメントが活断層であるかどうかの評価は地表踏査結果からは判断できないと結論し,後述する物理探査結果をうけて評価することとする.