1−6 調査結果の概要

第2年次の調査として,文献調査,空中写真判読,地表踏査(概査・精査),ピット調査,浅層反射法地震探査,重力探査,ボーリング調査およびトレンチ調査を実施した.

十勝平野断層帯は,十勝平野の東縁を南北に縦断する,総延長120kmにおよぶ断層帯である.主要なリニアメントの不連続性から,「新編日本の活断層」により16の断層帯に分けられていた.その後の研究により,さらに2つの断層が存在する可能性が指摘されている.本年度は,文献調査,空中写真判読,地表踏査(概査)の対象として,断層帯北半部の押帯断層,東居辺断層,士幌川断層,稲穂断層,音更川−札内川断層を,浅層反射法地震探査,重力探査の対象として,音更川−札内川断層,士幌川断層,稲穂断層を,地表踏査(精査)の対象として旭断層,途別川断層を,ピット調査,ボーリング調査の対象として旭断層,途別川断層,光地園断層を選定した.それらの結果を総合的に判断し,トレンチ調査を旭断層,光地園断層で実施した.北半部の断層群(押帯断層,東居辺断層,士幌川断層)については,根拠ある時間軸の設定が可能な変位基準は芽登凝灰岩(50万年〜100万年前)のみであった.芽登凝灰岩およびその上位の渋山層,下位の池田層に傾動が認められることにより,これらの傾動運動が前期更新世末期〜中期更新世以降も継続していることは確実である.しかし,それ以後の活動度については,リニアメントそのものが地形面の境界を成すこと,地形面が古く地形面堆積物が削剥されていることのため,リニアメント付近の地形面が本当に同一なものかどうかについて科学的根拠が示せない,少なくとも4万年前以降に形成された新しい地形面がほとんど存在しないことから,最近期の活動に関しての評価は困難であった.稲穂断層に関しては,地形面堆積物より稲穂断層による撓曲地形とされた”上盤側の高まり”を構成するのは,”下盤側”を構成する地形面に比べ明らかに古い.このため,妥当な変位基準が存在せず地形変位に基づいて断層変位有無の評価はできない.同一地形面上のリニアメントについては,現地測量の結果有意の比高差は見いだせなかった.また,浅層反射法地震探査によっても,地下構造に撓曲,傾動,断層等の変位は見いだせない.音更川−札内川断層に関しては,リニアメント上盤側が明らかに古い地形面であり,変位基準として適当でないこと,浅層反射法地震探査により地下に撓曲・傾動,断層等の変位が見いだせない.これらより,稲穂断層,音更川−札内川断層に関しては,現時点ではこれらが活断層であるという積極的な科学的証拠は存在しない.

旭断層では,音更町東旭および同町栄において,1万〜1万3千年前の最新期活動の有無を検討するため,地表踏査(精査),ピット調査,ボーリング調査,トレンチ調査を実施した.調査の結果,東旭地区において撓曲地形と従来考えられていた東上がりの高まりは,段丘面離水タイミングのわずかな違いによる異なる地形面であること,より早く離水した面において泥炭マウンドが発達したことにより形成されたものであり,活断層とは直接関係ないものであることが判明した.栄地区の群列ボーリング結果もまた,撓曲崖とされてきた地形が必ずしも断層変位によるものではないことを示した.旭断層の最新活動期は少なくとも過去1万2〜4千年前以前にさかのぼれることとなるが,既存の活断層調査の手法では,最新活動期・活動間隔のこれ以上の絞り込みは困難である.

途別川断層では,地表踏査(精査),ボーリング調査,ピット調査を実施した.踏査の結果,帯広市愛国〜幕別町途別にかけて途別川に沿って細く延びる東上がりの高まりは,低位段丘上に形成されたSpfa 1古砂丘に対応することが明らかとなった.すなわち,国土地理院(2002)等で途別川断層の最新変位地形とされたリニアメントそのものは断層そのものの活動によって形成された可能性は低い.

光地園断層では,若干の補足地表踏査の後,ピット・ボーリング・トレンチ調査を実施した.ボーリング調査の結果,光地園断層リニアメントの地下中深部に平成13年度調査により見いだされた新第三系上面の段差の範囲はさらに絞り込まれ,比高約6mの埋没崖である可能性が極めて高くなった.続くピット・トレンチ調査により,この段差の上方に東上がり変位の逆断層が見いだされた.それらは少なくともローム層上部(C層)までは変位を与えている.変位はB層・A層に及んでいる可能性もあるが,現時点ではそれに結論を与える確実な根拠は存在しない.観察された断層の産状,新第三系上面高度の差(6m),Spfl(41ka)由来の可能性がある火山ガラスを含む段丘礫層(E層)上面高度の差(2.8m)より,確実な断層イベントとしてE層堆積後〜B層堆積以前,イベントの可能性が高いがやや確度の落ちるものとしてE層堆積中が上げられる.礫混じりローム質シルト(再堆積)層(C層)上面の変位(1.6m)および下盤側のみに堆積するA4層の存在から,D層堆積後〜A4(5)層堆積以前にもイベントが存在した可能性が残るが,現時点までのデータではこのイベントの有無を判定するための科学的根拠に乏しいため,先にあげたイベントに対し,このイベントの確度は低い.今後,1万年前以降程度の新期堆積物が発達する地点での調査を要する.少なくとも過去4万年前以降に複数回活動している可能性が指摘できる.年代指標となる堆積物が極めて乏しいため,現時点でのデータでは,最新活動期,活動間隔に関する詳細な検討は困難であり,今後の調査でより低位の地形面において最新活動期を絞り込む調査が必要である.