文献収集は標津断層帯に直接関係するものの他に,北海道東部の地体構造に関するもの,摩周−知床隆起帯(火山隆起帯)と根釧堆積盆(根釧平野)の各種地学文献,物理探査・ボーリング資料を対象として行った.その結果,北海道東部は太平洋プレートの斜め沈み込みにより形成された帯状構造,すなわち千島海溝から島弧側へ,千島海溝島弧側斜面域−千島弧外帯(大陸斜面域・先新第三系隆起帯・外帯内帯境界堆積盆列)−千島弧内帯(右雁行火山隆起帯列・右雁行堆積盆列)の配列を有し,標津断層帯は外帯内帯境界堆積盆の一つである根釧堆積盆および内帯中の右雁行堆積盆の一つである知床南東沖堆積盆と右雁行火山隆起帯の一つである摩周−知床隆起帯の境界ゾーンに位置づけられることが明らかになった.さらに,根釧堆積盆は重力分布,地震探査断面および温泉・水井戸ボーリング記録による断面解析から沈降軸が北に片寄り,北西−南東方向の構造変換部により西・中・東部の3つの単元に分かれること,摩周−知床隆起帯は全体としてNE−SW〜NS方向の短軸・短波長の褶曲が複合した複背斜構造を成し,重力的には高密度の基盤岩が周囲に対して高まりをなすとともに,火山岩体が処々で迸入し全体として高密度化したことが分かった.さらに,1963年養老牛の地震など断層帯近傍で震源の浅い地震が発生していることが分かった.
空中写真判読は断層帯付近ではリニアメントの読み取りを主目的として行い,地形変換線・地層の走向方向の硬軟互層に由来するものなどを見いだした.さらに,平野地域については地形図上で地形面区分を行うための手段として行った.しかし,現状では地形面上での活断層によるシャープな変位は見いだすことはできない.ただし,丸山西方断層の東側リニアメントは山地・丘陵などの地形変換線ではなく,地形面上の変位にの可能性がある.しかし,標津断層帯を構成するいずれの断層についても確認は今後の現地調査によっている.
現地予察は活断層としての確実性を把握するために標津断層帯を横断する主要ルート(薫別川・忠類川・川北越え林道・俣落川・荒川・標津川)で行った.その結果,忠類川ルートおよび標津川ルートでは断層近傍で鮮新統幾品層が急傾斜または急傾斜〜逆転する様子を確認できたが,活断層の把握に最も重要な第四紀後半の地層の変位状況の確認はできていない.薫別川ルートでは段丘堆積物様の礫質岩相の10°程度の傾斜での変位が認められるが,それは鮮新世後半の陸志別層の可能性もあり,問題を残している.
以上のことから,標津断層帯は太平洋プレートの斜め沈み込みにともない形成された雁行火山隆起帯の一つである摩周−知床隆起帯と周囲の根釧堆積盆および知床南東沖堆積盆の境界ゾーンに存在しており,その形成が幾品層の示す地層変位から判断して鮮新世後半に進んだことは確実である.しかし,第四紀になりその形成がどのように進んだかということ,さらに活断層帯である可能性の解明は,本年度の調査だけでは不十分である.