標準的なデータ処理のフローを図3−3−1に示す.また,八線及び東鳥沼の両測線におけるデータ処理の諸元をそれぞれ,表3−3−1及び表3−3−2に示す.
今回実施したデータ処理および解析について,以下に示す.
(1) トレース編集,解析測線の決定,ジオメトリの設定およびCMPソート
まず,ノイズが卓越する波形データ(以下「トレース」という)等の不良トレースの除去,同一の発震点受震点の組で重複して収録したトレースの整理等の編集を行った.
続いて,発震点と受震点の収録組み合わせおよびそれらの測量データから,発震点と受震点の平面的な中間点を算出すると共に,それらの分布から,「解析測線」を決定した.各測線の解析測線位置は,図3−1−2及び図3−1−3に示したとおりである.
解析測線の具体的な決定方法を以下に記す.発震点と受震点を配置する際の基準となる「調査測線」が直線でない場合,発震点と受震点の中間点は調査測線からずれ,調査測線の周囲に分散する.これら分散した中間点を適宜区間分けし,区間内の中間点について最小自乗法的に線分を定め,これらを連結することにより解析測線を求めた.
また,分散する中間点を上で算出した解析測線上に投影し,解析測線上において測点間隔の半分(本調査の場合2.5m)を単位とした区間分けを行い,中間点が同じ区間に属するトレースを集め,CMP(Common Midpoint,共通中間点)アンサンブルを作成する.すべての収録トレースをCMPアンサンブル毎に並べ替え(CMPソート)すると共に,トレースとCMP番号,発震点番号,受震点番号,およびそれらの座標等を対応づけるテーブルを作成した(ジオメトリの設定).
(2) プレフィルタ,位相補償および振幅回復
ウェーブレット(ひとつの反射面を示すと考えられる波形)の時間的な圧縮および短い周期の多重反射波の除去を目的としたデコンボリューションを次のステップで適用するため,前処理として,プレフィルタ(バンドパスフィルタ),位相補償,振幅回復を行った.
まず,広帯域のバンドパスフィルタのプレフィルタを適用し,信号帯域外のノイズを低減した.
次に,探鉱機や受震器の周波数特性等に起因する位相ズレを補償し,次ステップにて適用するデコンボリューション処理のため,ウェーブレットを最小位相に変換するフィルタを設計し,適用した.
さらに,震源から地震波が伝播し,波面が広がるに伴い波形の振幅が減衰する幾何減衰等を補償するため,振幅回復を行う.振幅回復は,オフセット距離(発震点と受震点との間の距離)と振幅の時間変化を変数とする減衰カーブを統計的に算出し,減衰カーブの逆数を入力トレースに乗ずることにより行った.また,各トレース別に,ゲート幅100msecで平均振幅の時間変化を求め,振幅補償を行った.
(3) デコンボリューション
時間分解能向上のためのウェーブレット圧縮,ノイズとなる多重反射波(地表と反射面までの間を複数回往復する反射波,図3−3−2参照)等を除去するため,デコンボリューション処理を行った.
(4) 静補正
静補正は,標高差や速度的および空間的に変化の大きい表層の影響を取り除く処理で,地表の発震点や受震点を,風化層等の低速度部が偏在しない基準面(一般的には平面)に見かけ上並べる,タイムシフトや標高シフトの処理である.これにより,共通発震点ギャザー(発震点を共通とするトレースの集まり,現場での収録データ)やCMPアンサンブル内での反射波の連続性を向上させ,以下に示す波形処理の効果を向上させることが可能となる.静補正として,表層付近に偏在する風化層の層厚や速度の変化の影響を補正する表層静補正,発震点や受震点の標高が異なる影響を補正する標高静補正を行った.静補正の概念を図3−3−3に示す.
表層静補正は,一般的には地下の構造を速度層に区分し,表層から1層毎にはぎ取る「萩原の方法」等が多用されるが,特にミラージ的な速度分布を示す地下構造(深度方向にステップ状に速度が増すのではなく,深度と共に漸次的に速度が増す地下構造)では,必ずしも精度の高い静補正量が得られるとは限らない.そこで,「屈折波を用いたトモグラフィー」により表層の速度分布を求め,これにより静補正量を算出し,表層に起因する乱れを補正した.
屈折波を用いたトモグラフィーの解析手順を以下に示すと共に,解析フローを図3−3−4に,また,表層速度解析結果を図3−3−5及び図3−3−6示す.
@ 観測波形よりP波初動走時を読み取る.
A 初期速度モデルを作成する.
B 速度モデルと差分法(Vidale法)を用いて初動走時を計算する.
C 計算初動走時を観測初動走時,あるいは前回の計算初動走時と比較し,収束判定を行う.収束と判定した場合には現在の速度モデルを最終解析結果とし,解析を終える.
D 計算初動走時を基に初動の波線(発震点と受震点を結ぶ波動の伝播経路のうち,初動を示すもの)を求める.
E 計算初動走時と観測初動走時の差,および波線を基に速度モデルの修正を行う.速度モデルの修正は計算初動走時と観測初動走時の比により波線近傍の速度を修正する方法を用いる.
F ステップBへ戻る.
(5) ノイズの除去(速度フィルター)
油圧インパクターのエンジンや周辺住居の冷暖房施設等により発生し,地表面を伝播する表面波等のノイズを除去するため,見掛け伝播速度と伝播速度の発震点位置(オフセットがゼロ)での切片時間を軸とする2次元領域でフィルタリングを行う速度フィルタ(時間によりフィルタリングパラメータが異なるタイムバリアントτ−Pフィルタ)を適用した.この処理によりSN比を向上させ,後続する速度解析を精度の高いものとした.
(6) 速度解析,NMO補正およびCMP重合
反射法の解析においてS/N比向上の手法として多用されるCMP(共通中間点)重合を行うため,速度解析およびNMO補正を行った.
水平多層構造の場合,CMPアンサンブル(同じCMP[共通中間点]を有するトレース群)内のトレースの反射波走時は近似的に双曲線をなす.2層構造の場合の例は図3−3−7に示すように,左上図中の破線が反射波走時を示す.なお,双曲線の形状は反射点より上位に位置する層の速度に依存する.水平2層構造の場合,1層下面からの反射波走時は以下の式で表される.
‥‥‥‥‥‥‥‥‥(1)
ここで,t(x)はオフセットxでの反射波走時,t(0)はゼロオフセットでの反射波走時,xはオフセット,vは1層目の速度である.多層構造の場合も,オフセットxに比べ反射面の深度が十分に大きければn層下面からの反射波走時は同様に以下の式で表される.
‥‥‥‥‥‥(2)
ここで,vRMSはRMS速度と呼ばれるもので,第i層の速度をvi,鉛直走時をΔtiとすると以下の式で定義される.
‥‥‥‥‥‥‥‥(3)
NMO補正は図−3−2−11の上中央図に示すように,オフセット(発震点と受震点間の距離)が,ある大きさの発震点と受震点の組で収録したトレースを,ゼロオフセットでの収録となるように走時の補正を行うもので,補正量はオフセットが大きいほど大きくなる.水平2層構造の場合,NMO補正量ΔtNMOは,上記(1)式より以下となる.
次に,SN比を向上させるため,CMPアンサンブル内のNMO補正後のトレースを重合し,反射波を強調させた(図3−3−7の右上図).
上記したNMO補正およびCMP重合を行うため,CMPアンサンブル内の反射波走時より速度を求めた.この処理を速度解析と呼び,求めた速度を重合速度と呼ぶ.なお,水平成層構造の場合,重合速度は近似的にRMS速度に等しいと見なされている.
具体的な速度解析は,重合速度の範囲の設定,その中を等分することにより120種類の重合速度を算出,それぞれの重合速度でNMO補正,その後,@CMP重合し,重合後トレースの振幅やパワーの大きさで重合速度を評価する定速度スタック法と,ANMO補正後のCMPアンサブル内のトレースに対し,狭い時間ゲート内でのトレースの相関をセンブランスにより評価する速度スペクトル法を併用した.巻末に速度解析結果を示す.巻末資料の速度解析結果において,図中の×は@,○はAで求めた結果であり,印の大きさはパワーあるいはセンブランスの大きさを示している.
(7) 残留静補正
NMO補正後,CMP重合によるSN比向上の効果を高めるため,残留静補正を行った.残留静補正は,先の「(4)静補正」で示した補正の補完的な位置づけで,短波長の標高差,表層の層厚及び表層の速度の変化等に起因する影響を取り除く処理である.
(8) マイグレーション
CMP重合で得られる重合時間断面は,1震源と1受震器を組にして,地表沿いに等間隔でデータを収録するシングルチャンネル記録と近似的に同等であり,図3−3−8及び図3−3−9に示すように,反射波がCMPの鉛直下方から伝播してきたものと仮定した断面である.マイグレーションは,反射面を地下の正しい位置に戻すと共に,断層面等から発生する回折波を回折波発生源に集中させる処理である.
マイグレーションとして,FKマイグレーション法(速度場一定の座標系への変換およびその逆変換により水平方向の速度変化に対処した波動場補外法[Gazdag phase shift法])を用いた.なお,速度解析の結果であるRMS重合速度をスムージングした速度モデルを作成し,マイグレーション処理に用いた.
(9) 深度変換
マイグレーション処理後の時間断面を,マイグレーションに用いたRMS速度より求めた区間速度により深度断面に変換した.