(2)分析結果

検鏡にあたっては,木本花粉を最低200個同定し,その間に視野に出現した草本花粉およびシダやコケの胞子をすべて同定した.本試料はいずれも化石を豊富に含む.化石の産出率は,木本花粉の総数を基数として算定した.分析結果は表1,2と図1,2に示した.検出された木本類は次のとおりである.なお,学名は五十嵐ほか(1993)との対比を容易にするため,和名と併記した.

針葉樹:Picea (トウヒ属:エゾマツ或いはアカエゾマツ),Abies(モミ属:トドマツ),Pinus(マツ属),Tsuga(ツガ属),Larix(カラマツ属:グイマツ)

冷温帯広葉樹:Quercus(コナラ属),Ulmus(ニレ属),Juglans(クルミ属),Tilia(シナノキ属),Acer(カエデ属),Corylus(ハシバミ属)

その他の広葉樹:Betula (カバノキ属),Alnus(ハンノキ属)

湿原性低木:Ercaceae (ツツジ科),Myrica(ヤマモモ属:ヤチヤナギ)

草本類は次のとおりである.

Carduoideae(キク亜科),Artemisia(ヨモギ属),Thalictrum(カラマツソウ属),Sanguisorba(ワレモコウ属),Persicaria(タデ属),Lysichiton(ミズバショウ),Menyanthes(ミツガシワ),Valerianaceae(オミナエシ科),バラ科(Rosaceae),

Umbelliferae(セリ科),Gramineae(イネ科),Cyperaceae(カヤツリグサ科),

シダ類とコケ類は次のとおりである.

Monolete(単溝型:ウラボシ科,オシダ科を含む),Osmundaceae(ゼンマイ科),Lycopodiaceae(ヒカゲノカズラ科),Selaginela selaginoides(コケスギラン),Sphagnum(ミズゴケ属)

木本花粉の産出をもとに下位から1,2,3の三花粉帯に区分した.各花粉帯の花粉群の特徴は次のとおりである.

花粉帯1(深度22.05mと22.8m):Piceaが70%以上と最も高率で,Abies,Larix,Pinusを伴う.冷温帯広葉樹は検出されない.草本類は低率で,シダ類はLycopodiaceaeを除いて産出しない.木本類の全体に占める割合は86.6%と98.6%と高い.

花粉帯2(深度13.0mと18.8m):1帯に比べ,Piceaが42%以下に急減し,Abiesも減少する.かわってLarixが24〜33%に増加する.下位でEricaceaeとMyricaが高率であるが,上位ではCyperaceae,Monolete,Lycopodium,Sphagnumなどの草本類,シダ,コケ類が増加する.木本類の全体に占める割合は下位で98.6%であるが上位では51.3%に低下する.

花粉帯3(深度4.0mと9.5m): 1,2帯で優勢であったLarixは検出されず,Piceaも減少する.かわって,Abiesと冷温帯広葉樹のQuercus,JuglansとAlnusが高率に産出する.草本類はそれまでに比べて種類が増え,特にLysichitonとOsmundaceaeが増加する.木本類の全体に占める割合は63%,70%と高い.