(1)十勝川温泉地区

―対比および考察―

十勝川温泉地区で実施したボーリング調査の結果を図3−3−1−10に示した。ここでは、出現する地層について、便宜的に上位から、表土・盛土・耕作土をA層、未分解腐植層のうち上位のものをB層、B−1−3,4,(6)孔においてA層の直下もしくはB層下位に出現するシルト質腐植層および細礫・シルト・腐植質シルト層をC層、B−1−5,2,1孔に出現する未分解腐植層をD層とした。

これらの下位に出現する、シルト質腐植層・腐植混じり細粒砂をE層とし、全孔の下部に見られる砂礫層をF層とした。各孔で確認された淘汰の良い細〜粗粒砂・泥層は周辺地域に分布が確認される池田層と判断されるが、便宜上G層とした。

各孔下部に出現する砂礫層(F層)は、基底面および堆積頂面に高度差が認められるものの、その高度差は最大で1m程度(450m間)であり、粗粒の河川性堆積物としては通常の凹凸と判断され、大局的にはほぼ水平は堆積物であると考えられる。

この砂礫層の上位には、細粒の堆積物であるE層が分布するが、この地層は下位の砂礫層の堆積頂面とほぼ平行に分布している。これは河川の流路がこの地域から離れた後も、完全に離水せずに細粒物質が堆積する環境が残された可能性が考えられものの、この堆積では砂礫層の頂面に形成された凹凸を平坦にするまでにはいたらず、D層の堆積時に差別的に軽石などを堆積させた可能性がある。

D層(未分解腐植層下部)時にはB−1−5孔とB−1−6孔の間を境界として、この地域の堆積環境に差が現れた可能性が高い。これは、この地域の東側がB−1−2孔の深度2.00m付近などに見られる砂質軽石層堆積直前には、恒常的な河川流水の影響を受けない環境となったのに対し、西側では、流水による堆積・侵食・物質移動が起こり得る環境となっていたことが考えられる。このため、西側の地域ではE層の侵食が起こり、同時に湿地の堆積物である未分解腐植層の堆積が起こり得なかったために、ここを境として地形的段差が形成された可能性が高い。

この段差の西側には段差を埋めるようにC層が堆積しているが、完全には埋積することができなかったために、高度差1〜1.5mの崖が現地形に残されたと考えられる。また、この段差が残されたために、地域のより西側では水流の影響を残し、未分解腐植層の発達を阻害した可能性が考えられる。

以上のことから、この地域で観察される連続する低崖(リニアメント)は河川の流路変更もしくは堆積環境の差によって形成されたと考えられる。これに対して、より古い地層である池田層の傾斜変化からは、第四紀の地層の変形はこの地域において差別的になっている可能性を示している。従って、北部から延長される活断層(活撓曲)の連続がこの地域まで達している可能性は高く、活動を起こすとすれば今回の調査範囲に変形が生じると判断できるため、この活断層(活撓曲)の最新活動時期は変位を受けていない最も古い地層であるF層(砂礫層)の堆積以前と限定できる。ただし,池田層の変形出現地点は、最新時期の断層変位を示唆する変位地形と考えられている撓曲崖位置とは一致しなかった。

ただし、F層上面の凸形状について説明できる積極的な資料も得られておらず、河川の流路変更もしくは堆積環境の差により形成された地形であるという直接的な証拠も得られていない。今後、地質断層の位置を明らかにするためのボーリング調査と,流路変更の痕跡が残っている地点を明らかにするための群列ボーリング及びトレンチ調査により、直接的証拠を取得していく必要がある。