(1)試料分析結果

14年代測定は,地球科学研究所に委託した.C14年代測定の結果を表3−1−3−1に示す.テフラの同定(ガラス・鉱物屈折率測定)は,京都フィッショントラックに委託した.屈折率測定結果は表3−1−3−2−1表3−1−3−2−2に示す.なお,この他の試料については,必要に応じて当所において火山ガラスの形態・鉱物組み合わせの観察を行った.花粉分析は,株式会社アースサイエンスに委託した.結果は表3−1−3−3−1表3−1−3−3−2表3−1−3−3−3表3−1−3−3−4表3−1−3−3−5表3−1−3−3−6に示す.

図3−1−3−1図3−1−3−2に,調査地域内に分布する第四紀後期以降のテフラについて,南東セグメント,南西セグメントにわけて模式層序を示した.この地域には支笏カルデラ,クッタラカルデラ,洞爺カルデラおよび他の火山に由来する多数のテフラが分布する(図3−1−3−3)が,露頭条件の悪化に伴い,その全てが観察できたわけではない.以下にその概要を示す.

・古舞:

本調査により初めて確認されたテフラである.帯広市古舞付近の地点12,地点8で,段丘礫層を覆う白粘土中に認められる.斜長石結晶に富み,有色鉱物として斜方輝石,単斜輝石を含む結晶質テフラであり,スポンジ型の火山ガラスを多量に含むこと,黄褐色のスコリアガラスを含む特徴がある.火山ガラスの屈折率は1.505〜1.509(最頻値:1.508),斜方輝石の屈折率は1.702−1.705,1.716−1.720,1.725−1.729であり,フェロハイパーシンを特徴的に含む.屈折率は洞爺カルデラ付近に分布する長流川テフラに似るが,長流川テフラはこれまで洞爺カルデラ周辺以外で報告されたことはない.古舞テフラの起源については,今後より広域的な調査を要する.

・洞爺(Toya):

西南北海道,洞爺カルデラから噴出し,北海道全域〜東北日本北部にわたり分布する広域テフラである.地点7,地点29,地点37などで確認され,調査地域全域に分布する.最大層厚は10cm前後である.極めて透明度の高い無色のブロック状,スポンジ状,バブルウォール状火山ガラスに富み有色鉱物に乏しいこと,ユーライト質の斜方輝石(エンスタタイト成分:En=30〜12)および緑褐色の角閃石を斑晶として含むことが挙げられる.火山ガラスの屈折率は1.494〜1.498,斜方輝石の屈折率は1.757−1.761であるが,1.711−1.728前後の値を示すものもわずかに含まれる.角閃石の屈折率は1.674−1.684である(町田・新井,1992).洞爺火山灰の噴出年代として,0.103〜0.134 Ma (TL年代:高島ほか, 1992),0.13±0.03 Ma (FT年代:奥村・寒川, 1984)の年代値が得られている.

・阿蘇4(Aso−4):

中部九州の阿蘇カルデラから噴出し,日本全域〜北太平洋を著しく広域的に覆った広域テフラである.地点29で認められる.ローム層中で黄褐色〜明るいオレンジ色を呈する細粒ガラス質テフラである.極めて火山ガラスに富み,有色鉱物はほとんど含まれない.火山ガラスの屈折率は1.508−1.509に集中し,無色透明で,薄手,電球破片状のbwからなる.有色鉱物として斜方輝石・単斜輝石,不透明鉱物,緑色角閃石を含み,斜方輝石の屈折率は1.697−1.700,角閃石の屈折率は1.687−1.690である.噴出年代は,TL法(長友,1990),K−Ar法(松本ほか,1991,宇都ほか,1994)からは70−90 kaと推定される.また,大場(1991)はAso 4が酸素同位体サブステージ5b(約88 ka)に位置するとしている.

・クッタラ6(Kt 6):

西南北海道北部,クッタラ火山群を給源とし,石狩低地南部〜日高〜十勝平野にかけて分布する.繊維状によく発泡した黄白色〜淡桃色の軽石からなる降下軽石層である.調査地域内では,地点13,地点29など,主に幕別台地以南に広く認められる.軽石の粒径は最大1.5 cm,平均0.5 cm前後である.単斜輝石・斜方輝石を含み,火山ガラスの屈折率は1.507−1.509前後,斜方輝石の屈折率は1.723−1.729である(町田・新井,1992).噴出年代は,C14法の測定限界付近の年代の可能性があり,これまでに信頼できる年代値は得られていない.

・支笏降下スコリア(Ssfa):

支笏カルデラから噴出し,石狩低地南部〜日高〜十勝平野にかけて分布するテフラである.地点29,地点31などで,おもに二次堆積物として認められた.Ssfaは,黒色で発泡の悪いスコリア(平均粒径は数mm)から成り,単斜輝石・斜方輝石を斑晶に持ち,火山ガラスの屈折率は1.713−1.718である(町田・新井, 1992).

 噴出年代は,AMSによる49,800 ± 3,100 y. B.P.(加藤ほか, 1995)などが報告されている(表3−1−3−3−1表3−1−3−3−6).しかし,これらの年代にはより若い14Cの影響による年代値の若返りの可能性が否定できず,Aso−4,Toyaなどの他テフラとの関係から,60ka前後と見るべきと思われる.

・クッタラ1(Kt 1):

西南北海道北部,クッタラ火山群を給源とし,石狩低地南部〜日高〜十勝平野にかけて分布する.繊維状によく発泡した黄白色〜淡桃色の軽石からなる降下軽石層である.調査地域内では,地点27,地点6など,主に帯広〜忠類にかけて広く認められる.軽石の粒径は最大1 cm,平均0.5 cm前後である.単斜輝石・斜方輝石を含み,火山ガラスの屈折率は1.509−1.513前後である(山縣, 1994).噴出年代として,35,750 ± 1,350 y. B.P.の14C年代(十勝団研, 1972 b)が得られているが,Kt−3の上位にあるSpfa 1およびKt−1が39〜42 ka前後のテフラと考えられることから,Kt−3の時代論も今後より詳細な検討を要する.

・支笏第一(Spfa 1):

西南北海道,支笏カルデラから噴出し,石狩低地南部から北海道北部・東部までのほぼ全域を覆う大規模な降下軽石層である.本調査地域においても全域に分布し,地点8,地点29をはじめとして地域全域で認められる.平均0.5〜1 cm前後の粒径の著しく発泡し絹糸状の光沢を持つ白色〜桃色の軽石と,石英・角閃石の結晶片を伴う軽石質な基質からなる降下軽石堆積物である.斑晶鉱物として斜方輝石・角閃石を伴い,軽石タイプ(一部バブルウォールタイプ)の火山ガラスが多い.火山ガラスの屈折率は1.500〜1.505前後である.

Spfa 1については,AMSを用いた年代測定により,42,000 ± 1,800 y. B.P.(柳田, 1994)が報告された(表3−1−3−3−1表3−1−3−3−6).Spfa 1の直下に厚さ数cmをはさんで存在するKt−1からも40 ka前後の年代値が報告されていることから,Spfa 1の年代は41ka前後と考えられる.

・恵庭a(En−a):

支笏カルデラの北西,恵庭火山を給源とする降下軽石堆積物である.Spfa 1の上位に,厚い褐色火山灰土(平均層厚30〜40cm,最大85cm)をはさんで堆積する.本調査地域においては,地点6など主に帯広〜帯広空港付近で多く見られる.黄色〜黄白色で,輝石斑晶に富む発泡の悪い軽石からなる.丘陵地〜斜面上では土砂移動のためにEn−a起源の軽石を交えた褐色火山灰土としてみとめられる.単斜輝石・斜方輝石斑晶に富み,火山ガラスの屈折率は1.503−1.510前後を示す.噴出年代は,13〜19 ka前後の14C年代が報告され(表3−1−3−3−1表3−1−3−3−6),最終氷期後期に噴出したと考えられる.

・樽前d(Ta−d):

支笏カルデラの南東,樽前火山を給源とし,石狩低地南部〜日高〜十勝平野に分布する降下スコリア層である.本調査地域においては,帯広周辺の地点6および今回ボーリング調査を行った十勝川温泉地区で認められる.En−aの上位に,En−a混じりのローム,薄いクロボク土をはさんで累重する.赤燈色〜オレンジ色でよく発泡し下部に比べやや細粒の風化スコリアから構成される.斜方輝石・単斜輝石・まれにかんらん石斑晶を持ち,火山ガラスの屈折率は1.533−1.537と非常に高い.噴出年代は,14C年代から8〜9 kaとされる.

・樽前c(Ta−c):

支笏カルデラの南東,樽前火山を給源とし,石狩低地南部〜日高〜十勝平野〜斜里・根釧原野まで広域的に分布する降下火山灰・スコリア層である.淡黄色軽石からなり,地点4,地点1など帯広〜帯広空港にかけて広く認められる.有色鉱物として単斜輝石・斜方輝石を含む.噴出年代は,14C年代から2.5〜3kaとされる(表3−1−3−3−1表3−1−3−3−6).

・樽前b(Ta−b):

樽前火山を給源とし,石狩低地南部〜日高〜十勝平野にかけて広く分布する降下軽石層である.地点31など,大樹〜広尾にかけて広く分布する.白色〜淡灰色,平均粒径1cm前後の輝石斑晶に富む発泡の良い軽石からなり,斑晶鉱物は単斜輝石・斜方輝石である.噴出年代は1667年である(表3−1−3−3−1表3−1−3−3−6).