(1)当別町青山地区(セグメントa)

当別川上流域の地形面は,To−t1(Toyaに覆われる),To−t2(Spflに覆われる),To−t3,To−T4(礫層を覆うシルト=10ka),To−t5,To−t6に区分した.

To−T1面堆積物は,段丘礫層とその上位に褐色シルト層が覆う.段丘礫層の直上の白色粘土層2000,0607−3(位置は付図1を参照)を火山灰分析した結果,基本的にテフラではないもののToyaの火山ガラスを含む堆積物であることがわかった(表3−1−0−3).

To−t2面では,段丘砂礫層の上部を構成する褐色土中に挟まれていた白色火山灰質砂層2000,0712−1−1を火山灰分析した結果,基本的にテフラではないものの,Spflの可能性のある火山ガラスを含む堆積物であることがわかった(表3−1−0−3).

To−t2面(青山農場など)の低断層崖は,活断層研究会(1980,1991)において,比高差12mとされてきた.しかし,今回新たに測量した結果,約5−6mとなった(図3−1−1−1および図3−1−1−2).段丘礫層直上からSpflを見出したことより,離水時期は41ka以前と推定された(北海道,2000).したがって,40−50kaの離水年代として計算すると平均変位速度は,0.1−0.15m/k.y.rとなる.この値は,青山中央神社での平均変位速度0.1−0.12m/k.y.r(t4面約10kaで,比高差1−1.2m)(北海道,2000)と調和的である.

To−t3面の堆積物は,インボリューションがみられる.上記の平均変位速度から段丘の離水年代を比高差(2.8m)でもって逆算すると18−28kaとなる.この時期は,酸素同位体ステージ2〜3に相当する.しかし,一番川南部のTo−t3面の段丘堆積物を被覆する褐色土から3点(06060301,06060302,06060303),試料を採取し花粉分析したところ上記の推定とは異なる結論が得られた(採取地点,柱状図と採取位置については付図1を参照).

得られた花粉群は3試料とも針葉樹が極めて少なく,シナノキ属,コナラ属,ウコギ科といった冷温帯広葉樹とカバノキ属,ハンノキ属を高率に含む.非木本類は単溝型のシダ胞子(ウラボシ科,オシダ科を含む)が高率で,ほかにヨモギ属,キク亜科,セリ科,ミズゴケ属が検出されている.これらから復元される古植生は冷温帯広葉樹林である.オシダ科のヒメシダやミズゴケ属,ワレモコウ属,セリ科は湿原に生育することから周辺に湿原が存在した可能性がある.これらの特徴から,本花粉群は完新統初頭以降即ち8,000年前以降に堆積したと推定される.

この結果は,変位量から推定された堆積年代や堆積物の特徴と矛盾する.しかし,採取した堆積物は断層下盤にしか存在しないことから,断層運動の結果により生じた堆積空間に堆積した可能性がある.北海道(2000)は,本セグメントの活動時期が1万年前以降であることを指摘しているが,この堆積物の堆積開始期(約8,000年前以降)は最新活動期を限定する材料として注目される.

青山中央神社の載る面がTo−t4である.粘土層に含まれる植物片の年代測定値から,1万年前頃に離水したと地形面と考えられる(北海道,2000).To−T4を通過する活断層の比高差は1.2mである(北海道,2000).今回,ピット調査に側線で測量した結果,比高差は1.2mと0.5mが検出された.リニアメントの通過点は0.5mである.したがって,この地形面には,二回のイベント・変位量が保存されている可能性があると判断された.年代からみて,最新活動期とその一つ前の活動期であることが期待される.

To−T4面の段丘堆積物の被覆層から3点,6070203, 6070202, 6070201花粉分析を実施した(採取地点,柱状図と採取位置については付図1を参照).新第三紀中新世後期を示す絶滅種のリワークを多く含み,下位の層準ほど多い(28.2%→23.4%→4.1%)という特徴を示す.多量のリワークの原因は,採取した地層が逆級化層理をもつ洪水堆積物であるためと推定される.中新統はフィールド付近の河川に普遍的に露出しているもので,不自然ではない.これらのリワークを除くと,試料には寒冷期を示す要素はない.針葉樹が少なくシナノキ属,コナラ属,ウコギ科といった冷温帯広葉樹とカバノキ属,ハンノキ属を含む.河川の氾濫原に先駆的に繁茂するヤナギ属が上部で高率である.コガネギクなど湿原性のキク亜科と同じく湿原に生育するノリウツギを含むアジサイ属が高率である.ほかに低率だがガマ属も産出しており,周辺域に湿原が存在したと推定される.

一番川の南部には,To−t3までの地形を開析して,To−t5面,To−t6面が分布する.To−t3面まで明瞭にみえている断層リニアメントもTo−t5面でとぎれる.ピット調査前に実施した測量の結果による地形断面を示す(図3−1−1−3).To−t5面堆積物の離水年代を解明するために手掘りでピット孔を作成し,1m深の地層を観察した.礫層より上の堆積物は,シルトを主体とした,岩相変化にとぼしい地層である.洪水ローム起源と考えられ,加えて植物による擾乱が著しい.年代試料を得ることは出来なかった.この面より新しい地形面は,断層活動時期の特定には結びつかないと判断されたので,特にピット孔を作成するなどはしなかった.

以下にセグメントaの踏査結果を要約する.

@ To−t2面の比高差は5−6mであり,離水年代は4万年前よりも古い.

A To−t3面の年代は不明だが,状況から最終氷期末期〜最盛期に離水したと推定される

B To−t4面の比高差は1.2mと0.5mであり,離水年代は1万年前頃である.

C To−t5面には,変位はなく,離水年代は不明である.

補足的にセグメントbについても調査をおこなっている.撓曲変形をしていると見られるTn−t3面では,地形面堆積物の上部を構成する褐色−灰色粘土層の最上部に火山灰質砂層がみられた(図3−1−1−4).2000,0605−1を火山灰分析した結果,基本的にテフラではないものの,Ta−aの可能性のある火山ガラスを含む堆積物であることがわかった(表3−1−0−3).手掘りピットの結果は,現世植物の根が1m近く入りこみ,堆積物の層相も変化に乏しい.

断層活動を示す他の証拠もなく,ピット,トレンチ調査を実施するのは困難と判断した.