当別断層は,石狩低地の伏在部も含めると長さ約55kmの断層であり,リニアメントの不連続性から4つのセグメント(a〜d)に区分した.
セグメントaは,当別川中流域の青山地域に分布する.空中写真判読より,地形面は上位から4つ(To−t1〜To−t4)に区分した.このうち,To−t2から広域テフラSpfl(約41ka)をTo−t4からC14年代値(約9.8ka)を得た.また,To−t1面は,当別川下流域の小松原・安斎(1998)の中位1面に対比される.小松原・安斎(1998)は,中位1面堆積物よりToyaテフラを報告している.リニアメントは,To−t2,t3,t4を通過し,西側隆起の逆向き低断層崖をなす.また,低断層崖の位置は,望来層と当別層の地質断層に一致する.各地形面毎の変位量は,To−t2で12m,To−t3で2.8m,To−t4で1.2mである.したがって,平均変位速度は,To−t2で0.24m/kyr.,To−t4で0.12m/kyrとなりB級となる.断層露頭は,一番川の両岸2ヶ所で確認した.いずれもTo−t2面堆積物である段丘礫層に望来層が東へスラストアップする逆断層が認められた.断層露頭から活動期に関する資料(試料)を得ることはできなかった.To−t4面の撓曲部(比高1.2m)でピット(手掘り)を掘削し,撓曲構造とそれを埋積する細粒堆積物を確認した.撓曲した粘土層から前述のC14年代値が得られたことより,約1万年前以降に活動期が存在することが明かになった.撓曲した堆積物より上位は,ほぼ水平な堆積物に覆われることから,To−t4面に最新活動期および一回の変位量が保存されている可能性は高い.
セグメントbは,当別町中小屋周辺に分布する.地形面は上位より5つ(Tn−t0,Tn−t0’,Tn−t1,Tn−t2,Tn−t3)と崩壊堆積物(Tn−ta)に区分した.このうち,Tn−t3から広域テフラAso−4(約88ka)が得られた.リニアメントはTn−t2を通過し主に三角末端崖をなす.また,三角末端崖の崖下の崩壊堆積物にも低断層崖が確認される(中小屋スキー場).中小屋スキー場の低断層崖において,断層露頭が確認された.リニアメントの位置は,新第三系須部都層中のシルト岩と硬質頁岩の岩相境界に一致する.この関係は,地質分布と断層崖の位置関係からも認められ,セグメントbにおける断層境界全体が須部都層中にあり,セグメントaにおける関係とは異なることが明かになった.地形面の比高差は,Tn−t2で約9m,中小屋スキー場の断層露頭で4m以上である.Tn−t2の年代が88ka(Aso−4)より古くなることは確実なことから,セグメントbの平均変位速度はセグメントaのそれの半分以下となることが予想される.中小屋スキー場の断層露頭で,上盤の硬質頁岩層が,第四紀後期の角礫層を切断する逆断層を確認したことから,本セグメントは確実度Tの活断層となる.
セグメントbの東側前縁にも,ほぼ並列する走向の撓曲が認められる.これを新たにセグメントb2と呼ぶ.リニアメントは,Tn−t2およびTn−t3を通過する.本中小屋では,Tn−t3が撓曲しているが,その他のTn−t3は撓曲変形を受けてはいない.今のところ,地形面の形成年代が微妙に異なると解釈しているが,詳細は不明である.また,比高差についても計測を実施しておらず今後の課題である.なお,空中写真を判読した限りでは累積性が確認できる.本セグメントは,累積性があることから活断層の可能性が高い.しかし,Tn−t3の撓曲崖の大部分は侵食を受けており,地形の形状が不明瞭である部分が多いことや,比高差の詳細・断層露頭の未確認を考慮すると確実度Uの断層として今回新たに記載し,今後検討することとする.なお,セグメントb2の北方延長となる,赤間の沢および篠津川上流にも直線的なリニアメントが存在する.しかし,リニアメントの前後に,変位基準面が全くないことから確実度Vとして扱う.
セグメントbの南方延長は低地下に伏在する.この伏在断層を対象として,新篠津地域の低地において,重力探査・浅層反射法地震探査・ボーリング調査を実施した.重力探査では,北4号線および南4号線沿いで,金沢背斜に対応する背斜状のブーゲ異常が認められた.しかし,変化の幅は1mGal程度と明瞭ではない.しかし,新篠津村側の東側の部分は,ブーゲ異常値がほぼ一定の値を示す,水平構造であることを示しており,測線上において地質構造が異なる様子を示すことができた.また,広域でのブーゲ異常の測定から,伏在するセグメントbのおおよその位置を知ることができた.反射法地震探査の結果,ブーゲ異常に対応する傾斜した地層とそれを覆う沖積層が確認された.また,測線の西側の道々36線付近に「反射の乱れ」が存在することから,活断層の可能性が指摘された.反射断面の層序を確認するため,ボーリング調査を実施し,火山灰分析・C14年代測定を実施した.その結果,深度50mまで沖積層であることが確認された.
セグメントcは,北広島市のJR線沿いをほぼ走向とする撓曲地形をさす.地形面は,上位よりNp−t1,Np−t2,Np−t3,Np−t4,Np−t5に区分した.このうち,Np−t1堆積物は竹山礫層,Np−t2堆積物は音江別川層(早来層相当層)に対比される.Np−t3堆積物からはToyaテフラが確認された.Np−t4は,段丘礫層の上位にSpflが覆う関係から,少なくとも4万年前より古い地形,おそらく5万年前と考えられる.Np−t5の堆積物については不明だが,Np−t4よりは新しいことから,広島砂礫層(20〜30ka頃)に対比される.リニアメントは,Np−t2を通過し,撓曲とその反対側に逆向き低崖を伴う.しかし,逆向き低崖の連続性は非常にわるい.変位量は,南の里で15mであることより,平均変位速度は,約0.08m/kyr.となる.同様にNp−t4も比高3mが確認され,同様の変位速度が得られた.南の里地域で,浅層反射法地震探査を実施した.その結果,新第三系は東に傾斜しており,斜交不整合関係で第四系に覆われていることが明かになった.また,第四系も緩く東に傾斜していることから,傾動運動を受けていることは明かである.しかし,同地区で撓曲と判読された範囲およびその近傍では,地層のずれや褶曲など断層運動による変形構造は全く認められなかった.
セグメントcの北方延長では撓曲と判読される地形はさらに不明瞭になり地形面の傾動のみが認識される.西野幌・トマン別付近の露頭および既存ボーリングコア試料の再検討でNp−t3面堆積物からToyaテフラを確認した.その結果,Toyaテフラの層準は東へ緩く傾動していることが明かになった.Np−t3面の堆積物は,元野幌付近では海成の「もみじ台層」であるが,トマン別付近では堆積相が異なり,海成である明かな証拠は得られていない.したがって,Toyaテフラ層準が,同一の離水時期を示すとは限らないことから,得られる速度は上限値を示すと判断される.以上を考慮した,傾動速度は<0.2m/kyr.と概算される.
セグメントdは,江別市の元野幌から大麻にかけて分布する.地形面は,セグメントcと同じで,さらに扇状地面のNp−t6が加わる.リニアメントは,Np−t3,Np−t6を通過するが,Np−t6に明瞭な撓曲地形は認められない.Np−t3面堆積物は,海成のもみじ台層に相当し,今回Toyaテフラに覆われる関係も確認した.ピット(手掘り)調査から,Np−t6面堆積物の表層部分は,クロボク層とその下位に細粒砂層からなる.クロボク層の基底から,3.7kaが得られた.したがって,3.7ka以降,この扇状地形が安定したと考えられる.Np−t3面の変位量は,18m−26mである.これにより,平均変位速度は0.14−0.21m/kyr.となりB級の下位となる.もみじ台層は,西野幌では5°W,江別西ICでは10°Wと傾いている.なお,断層露頭は確認していない.ブーゲ異常は,直線的に西方に小さくなっており,新第三系の構造が急傾斜している為と予想される.極浅層反射法地震探査の結果,反射面は西に同傾斜するが,上部層ほど傾斜が緩くなる傾向がみられる.また,反射面は撓曲付近で,折れ曲がる形態を示す.ボーリング調査の結果,撓曲下側では,深度14mまでが沖積層,それ以深より深度50mまでは,38.4〜46.8kaの年代が得られた.PS検層から合成反射記録を作成し反射断面と対比した.その結果,いくつかの合成反射面が得られ,地震探査の反射イベントのそれぞれに対比された.特に,約40kaの粘土層は反射イベントとして良好に追跡され,撓曲付近で,チャネル状反射イベントに切られる関係が認められた.チャネル状反射面は,ボーリングによる沖積層基底の反射イベントに追跡されることより,撓曲崖直下付近では,沖積層が厚く堆積していると予想された.