3−3−3 早来町富岡地区

a.地層区分

富岡地区のトレンチ掘削位置を図3−3−12に示す。トレンチ調査に先立って実施したボーリング調査によると、断層の上盤、下盤ともに新第三系のシルト岩および礫岩が分布し、断層下盤側には新第三系の上位に基底礫層を挟んで第四紀更新統の海成シルト層が分布する。これらの地層を覆って、断層上盤側にはSpfl起源の堆積物や完新統が分布し、断層下盤側には更新統上部の砂礫や完新統の泥炭等が分布している。また、トレンチ掘削位置から100m程度北西側には、高さ20m程度の露頭があり、その露頭では、Kt−6、Kt−1、Spfl、En−a、Ta−d、−c、−b、−a等のテフラが認められる。

トレンチでは、断層上盤側(西側)の最も下位に新第三系のシルト岩が露出し、その上位に完新統と推定される礫層、砂層、腐植質シルト等が分布し、断層下盤側(東側)には完新統の泥炭が厚く分布している。さらに、これらの地層を完新統のTa−c,b,a等の軽石層を挟む泥炭が覆っている。

トレンチ内に分布する地層は、Ta〜Te層の5層の第四系と新第三系に区分される。各層の層相は、上位よりTa層の軽石層(Ta−a、b、c)、泥炭および黒ボク土、軽石混じりシルト、Tb層の泥炭、中粒砂、Tc層の軽石混じり砂、軽石質粘土〜中粒砂、Td層の腐植質シルト、礫混じり中粒砂、軽石質粘土、礫層、Te層の腐植質シルト、礫層、Y層の第三系シルト岩からなる。

本トレンチの観察およびスケッチはトレンチ内の東面、西面、南面、北面の全法面について実施した。トレンチ法面のスケッチと合わせた解釈図を図3−3−16に示す。

以下に早来町富岡地区トレンチに分布する各地層について、上位の地層から順に記載する。

Ta層:軽石層(Ta−a、b、 c)、泥炭および黒ボク土、軽石混じり腐植質シルト

Ta層は、西に緩く傾斜(20°程度)して分布するため、人為的に地表部がカットされているトレンチ西側には分布していない。上位からTa−aおよびTa−b軽石層、泥炭、Ta−c軽石層、泥炭、軽石混じり腐植質シルトからなる。Ta−a軽石層とTa−b軽石層との間には、厚さ3cm程度の黒ボク土が挟在する。Ta−a軽石層は層厚25cm程度で、Ta−a軽石層の上部は土壌化している。Ta−b軽石層は層厚10cm程度で、径0.3〜1cmの有色鉱物を多く含む灰白色軽石からなる。Ta−c軽石層は、層厚30cm程度で中粒〜粗粒砂サイズの暗褐色軽石(スコリア)からなり、下部には径0.5cm程度の低発泡の灰色軽石(スコリア)を含む。Ta−b軽石層とTa−c軽石層の間には、層厚20cm程度の黒褐色泥炭が分布し、その泥炭中に帯黄灰白色の極細粒火山灰をレンズ状に挟在する。この火山灰は、白頭山−苫小牧テフラ(BT−m)に対比された。Ta−c軽石層の下位には層厚10〜30cm程度の黒〜黒褐色の腐植質シルト〜泥炭が分布する。本層の下面は比較的シャープで、北面では最下部に層厚20cm以下の暗灰色の軽石混じり腐植質シルトを伴う。この最下部層には径0.3〜0.8cmの亜角〜亜円の軽石および頁岩礫が含まれる。また、最下部層の軽石混じり腐植質シルト層の下面は著しく波曲して、Ta層の一部が下位のTb層中に入り込んでいる。

Tb層(断層下盤側):泥炭

トレンチ東側に厚く分布する。植物片を含む褐灰〜暗褐色の泥炭〜粘土からなり黒色部が薄層縞状に分布する。本層下部の地層の水平部では緑灰色の極細粒砂を多く含む砂質部を層状に挟む。本層の最下部には径0.5〜1cmの軽石(リワーク状のTa−d軽石)を多含する中粒砂(下部)〜腐植質粘土(上部)が、層厚10〜20cm程度で分布する。また、トレンチ中央の断層近傍では、本層の下部が50〜90°に急傾斜し、北法面の急傾斜部では黒色部が下位のTc層の境界に沿って薄く引き延ばされている。しかし、本層の上部はこの変形が及んでおらず、急傾斜する下部の地層に対してアバットするようにみえる。南法面ではほぼ90°に直立した本層をTa層が不整合に覆っており、その境界付近で本層がクリープ状に西側に倒れ込んでいる。

Tb層(断層上盤側):中粒砂

トレンチ西側の北西法面の上部に、下位のTc層およびTd層を削り込んで、南北方向に長いチャネル状に分布する。本層の上部は風化によって褐色化している。本層は主として葉理が発達する細粒砂からなり、腐植質シルトや軽石(En−a)を薄層レンズ状に挟在する。比較的淘汰は良好であるが、本層の最下部には、中粒〜粗粒砂、径1〜2cmの円磨された軽石(Spfl、En−a)、シルト岩の亜角礫を含む。層序関係から断層下盤側の泥炭層(Tb層)とほぼ同時期の地層と推定される。

Tc層(断層下盤側):軽石混じり砂

本層は断層下盤側(トレンチ東側)のTb層と断層との間に、撓曲によってほぼ直立した地層として分布する。本層は、軽石を主体とする礫層部と砂層部との細互層からなる軽石混じり砂層である。礫層部は、径0.5〜2cmの軽石(軽石の種類は多様で、Spfl,En−aを含む)の亜角〜亜円礫を主体として含み、泥岩、チャートの礫を少量含む。軽石混じり砂層の礫層部の基質は中粒〜粗粒砂からなり、草木を多含し腐植質である。砂層部は灰色の細粒〜中粒砂で、砂粒子は角張った石英、長石片を主体とし、黒色岩片濃集層による葉理がみられる。本層の下位には、断層を挟んで軽石質粘土が新第三系に沿ってクサビ状に分布する。径0.5〜1cmの灰色軽石を70%程度含む。軽石は低発泡で有色鉱物が少なく角張っており、基質は火山灰質粘土からなる。本軽石はTa−dに対比された。本軽石質粘土は、後述のようにTd層に含まれるものと考えられる。

Tc層(断層上盤側):軽石質粘土〜中粒砂

トレンチ北面および南面に厚さ1〜1.5m程度で分布する。本層は、軽石が層状に密集する軽石質粘土と中粒砂を主体とする砂質部からなる。軽石質粘土部は、径0.5〜2cmの軽石角礫(En−a、Spfl)を多く含み、基質は黄オリーブ灰色の火山灰質粘土からなる。砂質部は灰色中粒砂を主体とし、黒色の葉理が見られ、径0.5cm程度の硬質泥岩礫を僅かに含む。また、暗褐色の腐植質粘土の薄層を挟む。本層の最下部には、径0.3cm程度の角礫状の細礫を多く含む。トレンチ南面では、本層の上部に腐植質部を薄層状に挟む緑灰〜灰色の砂質シルトが部分的に分布する。この砂質シルトは大局的には軽石質粘土〜中粒砂の上位に位置しているが、下部はそれと指交状となっている。

Td層:腐植質シルト,礫混じり中粒砂,礫層

トレンチ内では断層上盤側のみに分布している。トレンチ南面の東端では下位のTe層とTd層の下部をチャネル状に削り込んでいることから、削り込みの上位をTd1層、下位をTd2層とした。北西面〜北面には、下部の礫混じり中粒砂と上部の腐植質シルトからなるTd1層が分布する。下部の礫混じり中粒砂は径1〜2cmのシルト岩の亜角〜亜円礫を多く含み、上部に軽石を多く含む。軽石は、白〜黄白色で発泡の良いSpfl起源の軽石と発泡が悪く有色鉱物を含む軽石とからなり、本層が断層部でTa−d軽石を含む軽石質粘土に漸移する。基質は中粒〜粗粒砂からなる。上部の腐植質シルトは、下部では砂質シルトと細互層して葉理が明瞭である。腐植質シルトの上部は、弱腐植質で、軽石密集部をレンズ状に挟み、最上部は褐灰色の粘土となっている。南法面〜西法面にかけてのトレンチ南西端には、本層を数10cm変位させる小規模な低角逆断層(f3断層)が認められる。f3断層は、上方のTc層中でほぼ水平となり、消滅している。トレンチ南面では、Td2層が、第三系から連続する主断層の近傍で厚く(層厚1.2m)、西側で薄く(層厚0.2m程度)分布している。本層は下部の礫層と上部の腐植質シルトからなり、礫層は、径0.5〜3cmの硬質泥岩の角〜亜角礫、木片を含み、基質は、珪長質鉱物、黒色岩片を多く含む中粒砂からなる。礫層の上部は,軽石を多く含み、断層下盤側にクサビ状に分布する軽石質粘土(Ta−d軽石を含む)に対比される可能性が高い。この礫層を覆って塊状の腐植質シルト〜粘土が薄く分布している。

Te層:腐植質シルト、礫層

断層の上盤側(東側)に厚さ1m程度で分布する。本層は、下部の礫層から上方に向かって、中粒砂・礫の細互層、腐植質細粒砂とシルトの細互層、最上部の腐植質粘土からなる。下部の礫層は、径3〜10cmの硬質泥岩の角礫を70%程度含み、径0.5〜1cmの円磨された軽石、木片を含む。基質は黒色岩片、有色鉱物を多く含む粗粒砂からなる。南面では本層最上部の腐植質粘土が断層に引きずられて変形している。北面では、本層と上位のTd層とが主断層から分岐した断層(f4断層)で境している。

Y層:新第三系シルト岩

断層上盤側(東側)のトレンチ下部に分布する。主として、灰色の塊状シルト岩からなり、断層に隣接する部分では、暗灰色の極細粒砂質シルト岩が幅40cm程度で分布している。全体に幅1〜10cm程度の岩片状に剥離し、一部に幅3〜10cm程度の断層破砕部が認められる。本層は新第三系の追分層に対比される。

b.地層の年代

[火山灰同定]

Tm−Tr−T1:

Ta−bの下位に分布する泥炭中に挟まれたオレンジ色の細粒火山灰である。層厚は1cmに満たない。鉱物組成は、火山ガラスを主体とし、アルカリ長石を含む。重鉱物はほとんど含まない。ガラスの形態は、バブルウォールを主体とし、パミスタイプも多く含む。ガラスの屈折率は、1.5092−1.5201の範囲にあり、1.509−1.512および1.514−1.520に集中し、バイモーダルを示す。長石の屈折率(n1)は1.5204−1.5256である。以上の分析・測定結果から、これは「火山灰アトラス」のB−Tm(白頭山−苫小牧火山灰)に同定できる。

Tm−Tr−T2:

トレンチの基底付近に断層に接してプリズム状に分布する軽石層から採取した黄色を帯びた淡灰色軽石である。鉱物組成は、火山ガラスを主体とし、斜長石を含む。重鉱物は、斜方輝石および単斜輝石を多く含む。ガラスの形態は、パミスタイプを主体とする。ガラスには微斑晶が多く包含されている。ガラスの屈折率は1.5343−1.5404の範囲にある。斜方輝石の屈折率は1.6989−1.7140の範囲にあり、1.699−1.706および1.712−1.714に集中し、バイモーダルを呈する。以上の分析・測定結果は輝石の屈折率を除き「火山灰アトラス」のTa−dの記載に類似する。また、トレンチの西に近接する大露頭では、肉眼的にTa−dに対比される軽石層が分布しているが、この軽石のガラスおよび斜方輝石の屈折率はTm−Tr−T2のそれと全く一致した。したがって、Tm−Tr−T2はTa−dに対比される。

14C年代測定]

富岡地区トレンチのTm−Tr−C2(3,030±60yBP)は、テフラの年代と比較して妥当である。Tm−Tr−C7(4,070±70yBP)とTm−Tr−C3(3,560±90yBP)は,層序関係と逆転している。Tm−Tr−C7には,下位層の腐植が,二次堆積として含まれていたことが考えられる。Tm−Tr−C3(3,560±90yBP),Tm−Tr−C4(4,490±70yBP),Tm−Tr−C5(4,980±70yBP),Tm−Tr−C6(5,190±80yBP),Tm−Tr−C9(5,880±50yBP),Tm−Tr−C8(6,690±50yBP)は,テフラの年代と比較して妥当である。 

c.断層活動及びイベント層準

富岡地区トレンチで確認された断層活動及びイベント層準を図3−3−18に示す。新しい順から、Ta層下部、Tb層中、Tc層堆積中、Td層/Te層境界の4層準に断層活動に関連すると考えられるイベントが確認され、Tc層およびTd層/Te層境界に撓曲を伴う断層の活動や副断層の活動が推定された。以下にそれぞれのイベントについて記載する。

Ta層下部のイベントは、Ta層の下底面が著しく波曲し、Ta層最下部層の軽石混じり腐植質シルトが下位のU層中に球状または枕状に入り込むことによって認められる。ただし、Ta層に断層による変位・変形は認められないことから、本イベントは近隣の断層活動に伴う著しい地震動によって生じた可能性が考えられる。本イベントの時期については、Ta層下部のTm−Tr−C2(3,030±60yBP)およびTm−Tr−C7(4,070±70yBP)の14C年代とTb層上部のTm−Tr−C3(3,560±90yBP)の14C年代から推定されるが、Tm−Tr−C7の14C年代は下位のTm−Tr−C3に比べ古く、Tm−Tr−C7を採取した地層が軽石混じり腐植質シルトであることから、下位層の二次堆積の腐植を含むためにTm−Tr−C7の14C年代が実際よりも古くなったことが考えられる。そのため、本イベントの時期としては、Tm−Tr−C2(3,030±60yBP)とTm−Tr−C3(3,560±90yBP)の間に推定される。

Tb層中のイベントは、トレンチ東側でTb層の泥炭層の下部が撓曲してほぼ直立し、あるいは撓曲に伴って引き延ばされて変形しているのに対して、泥炭層の上部はそれにアバットしているように見えることから推定される。地層の撓曲が明瞭であることから、本イベントはトレンチの断層活動を示している可能性が高く、確実度は高い。本イベントの時期としては、変形していないTb層上部のTm−Tr−C3(3,560±90yBP)の14C年代と変形層最上部のTm−Tr−C4(4,490±70yBP)の14C年代との間に推定される。

Tc層中のイベントは、Tc層/新第三系境界付近に見られる断層の上方延長がTc層中に連続し,Tb層中に延びていないこと、トレンチ北面のTd層中に、撓曲に伴って生じたクサビ状の割れ目が認められ、その割れ目にTc層の中粒砂が流入していること、トレンチ南面でTc層中で消滅する小規模な低角逆断層が認められること等から推定される。ただし、Tc層中に連続する断層は、前述のTb層堆積中に生じた断層活動による撓曲に伴って生じたと解釈することもできるが,その他にもTc層中の断層活動を示す証拠が多いことから、本イベントの確実度は高い。本イベントの時期としては、Tc層上部のTmTr−C9(5,880±50yBP)の14C年代とTd層のTm−Tr−C8(6,690±50yBP)の14C年代の間に推定される。

Td層/Te層境界に見られるイベントは、トレンチ南法面でTe層上部の腐植質粘土が変形しているのに対して、その直上に載るTd層にその変形が認められないこと、トレンチ北法面でTe層と上位のTd層が断層で接し、その断層がTd層中に延びないことから推定される。ただし、南法面の変形は前述のTc層中に生じたと推定される断層活動に伴って、Td層中に礫層が押し込まれることによって生じたとも解釈でき、北法面にみられるTd層/Te層を境する断層もTc層堆積中に生じた撓曲に伴って形成されたとする解釈も可能である。したがって、本イベントの確実度は低い。本イベントの時期については、ボーリングコアでTd層の上部にTa−dの軽石に類似した軽石を含み、トレンチおよびボーリングコアでTc層の最下部にTa−dの軽石を二次堆積として多く含むことから、Td層の上部がTa−dの降下層準に相当すると判断され、一方、Te層は、礫層中にEn−aの軽石に類似する軽石を含むことから、En−aの降下以降の堆積物と推定される。これらのテフラの年代から、本イベントの時期はTa−d(8〜9kyBP)とEn−a(15〜17kBP)の間に推定される。

図3−3−12 早来町富岡地区トレンチ調査箇所の位置図と測量図

図3−3−13 富岡トレンチの作業状況写真集

図3−3−14 富岡トレンチの作業状況写真集

図3−3−15 富岡トレンチの法面写真展開図

図3−3−16 富岡トレンチのスケッチ・解釈図

図3−3−17 富岡トレンチ試料採取位置図

図3−3−18 富岡トレンチの断層活動のまとめ