3−3−2 千歳市泉郷地区(嶮淵川沿い)

泉郷地区のトレンチ掘削位置を図3−3−5に示す。本トレンチにおける写真撮影、観察およびスケッチはトレレンチ内の東面,西面,南面,北面の全法面について実施した。各トレンチ法面の写真(展開図)、スケッチ・解釈図を図3−3−7図3−3−8図3−3−9に示す。

 

a.地層区分

トレンチ調査に先だって実施したボーリング調査によると、本調査箇所には、断層上盤側に新第三紀中新世の地層の追分層が、下盤側に第四紀中期更新世の可能性が高い地層が分布し、それらの地層を覆って第四紀更新世後期〜完新世の地層が分布している。

トレンチ内に分布する地層は、大きくT〜W層の4層に区分され、V層はさらにVa〜Vdの4層に、W層はWa〜Wgの7層に細分できる。それぞれの地層は、上位よりT層の軽石層(Ta−a)および黒ボク土・泥炭、U層の軽石層(En−a)、Va層の軽石混じり火山灰質粘土〜細粒砂(Spflの二次堆積物)、Vb層の腐植混じり中粒砂・腐植質シルト、Vc層の腐植質シルト(礫・砂混じり)、Vd層の腐植混じり中粒砂(礫混じり)、Wa層の腐植質シルト〜細粒砂、Wb層の黄褐色粘土、Wc層の細粒砂、Wd層の礫層、We層の腐植質シルト、Wf層の砂質シルト、Wg層の礫層からなる。

T層:軽石層(Ta−a)及び黒ボク土・泥炭

本層はトレンチ北東側の沖積低地側に分布する。層厚は最大1m程度である。層相は下位より泥炭または黒ボク土、軽石層(Ta−a)、泥炭のセットからなる。下部の泥炭は黒褐色を呈する強腐植質粘土からなる。泥炭層中には層厚10cm程度の淘汰の良い極細粒砂を挟む。この極細粒砂層は不明瞭であるが、葉理がみられることから水成堆積物と推定される。この砂層中からは、暗褐色の土器片(後縄文)が出土した。下部の泥炭層は南西側のやや高い位置まで分布するが、そこでは黒ボク土に漸移する。また、砂層および砂層の上位の泥炭または黒ボク土中には径0.3〜0.5mm程度の軽石がまばらに混入する。軽石層(Ta−a)は、下部が径2〜3mm、中部が1mm以下、上部が2〜5mmの発泡の悪い軽石からなる。上部の泥炭は低地側のみに分布し、草根を多く含む。

U層:軽石層(En−a)

本層は、主としてトレンチ北東側の沖積低地側に厚く分布し、南西側では地表付近の高い位置に局所的に分布する。径0.5〜2cmの黄橙色の軽石からなり、基質は下部が砂質で、上部が腐植質となる。とくに低地側ではこの軽石層中に木片や腐植を多く含む。軽石は亜角が多く有色鉱物を多く含む。下底面は1m程度の比較的大きな凹凸と、細かい凹凸とがみられる。また、細かい凹凸は本軽石層上面のT層/U層境界面にも認められる。この成因としては、インボリューションや地震動等による擾乱が考えられる。

Va層:軽石混じり火山灰質粘土〜細粒砂(Spflの二次堆積物)

トレンチの全域にわたり層厚0.5〜2m程度で分布する。主として淡緑灰色を呈する軽石混じりの火山灰質粘土〜シルト〜細粒砂からなる。まれに火山岩片を含む中粒砂をともなう。軽石は径0.5〜1cmの繊維状に良く発泡したSpfl起源とみられる軽石を多く含む。構造は不明瞭であるが、トレンチ南西側ではVa層の下部に灰白色火山灰、軽石層、細粒砂が細互層する葉理がみられる。シルトおよび砂質部が不規則な礫状またはレンズ状に分布することから、インボリューションを強く受けていることが推定される。また、トレンチ北東側では下位層との地層境界の一部がすべり面となっており、Va層中にそのすべりにともなって生じた地層の回転や引張性の小断層が認められる。

Vb層:腐植混じり中粒砂・腐植質シルト

本層は、南東法面ではWa層およびVc層を薄く覆い、南西法面および北西法面ではWd層およびVc層を覆って薄く分布する。南東法面ではブロック状の腐植を含む腐植混じりの灰色中粒砂からなる。砂粒は珪長質鉱物を主体とし、その他に火山岩片、有色鉱物からなる。南西法面から北西法面にかけては主としてブロック状に分離した腐植質シルトからなる。

Vc層:腐植質シルト(礫・砂混じり)

明瞭な撓曲を示すWa層を覆って、トレンチ北東側にのみ分布する。暗灰色の礫混じり腐植・砂質シルトからなる。長さ2〜5cmの生木状の木片、径0.5〜1cmのチャート、暗緑色礫、径1〜4cmの繊維状に良く発泡した白色軽石を含み、基質は中粒〜粗粒砂を多く含む腐植質シルトからなり、非常に淘汰が悪い。断層活動による変位・変形の直後に生じたイベント堆積物である可能性が高い。

Vd層:腐植混じり中粒砂(礫混じり)

トレンチ南東法面において撓曲したWa層とVc層との間にほぼ直立して分布する。径0.1〜0.3cmの灰白色軽石を含む灰色の中粒〜粗粒砂からなる。腐植質シルトの薄層を挟む。層相はVb層に類似しており、Wa層の撓曲に伴ってVb層がブロック状に再堆積した可能性が高い。

Wa層:腐植質シルト〜細粒砂

本層はトレンチ南東法面おいて厚く分布するが(層厚1.5m程度)、南西法面〜北西法面ではVb層の堆積前に削剥されているため分布していない。上部は径0.5cm程度の灰白色軽石、木片が混じる腐植質・シルト質細粒砂からなり、塊状で淘汰が悪い。下部は、暗褐色腐植層、緑灰色細粒砂、腐植質シルトの細互層からなり、葉理が明瞭である。一部に灰白色軽石が混じる。本層には,トレンチ南東法面のS8〜S10付近で垂直に直立する明瞭な撓曲が認められる。

Wb層:黄褐色粘土

本層もWa層と同様にトレンチ南西法面〜北西法面では、Vb層の堆積前に削剥されているため、トレンチ南東法面のS10付近より南西側に分布している。塊状の非常に細かい黄褐色粘土からなる。下部は腐植質である。指でこねると火山灰起源の粘土のような滑りがあるが、顕微鏡観察によると非火山性の堆積物で、珪藻遺骸が多く含まれていた。層厚は50cm程度で、上面はWa層に漸移。

Wc層:細粒砂

本層は、Wb層と同様にトレンチ南東法面のS10付近より南西側で、Wb層の下位に薄く(層厚10cm程度)分布する。非常に淘汰の良い灰色細粒砂からなり、不明瞭な葉理が認められる。

Wd層:礫層

トレンチ南東法面ではS10付近より南西側に厚さ50cm程度で分布し、南西法面で厚さを増し、北西法面のN8付近より南西側に厚さ2.5m以上で分布。径1〜5cm(最大10cm)のチャート、緑色岩、砂岩、頁岩の亜角〜亜円の礫を含む。また、径1〜2cmの白色の繊維状に良く発泡した軽石(Spfl)が少量混じる。このことから、本層はSPfl以降の堆積物と推定される。上部は軽石を層状に比較的多く含む。礫率が高く、基質は粗粒砂混じりのシルトからなる。全体に淘汰が悪い。本礫層の下部には、基質中に中粒〜粗粒砂サイズの自形有色鉱物が薄層状に濃集する箇所が認められる。

We層:腐植質シルト

北西法面のN8付近より南西側に厚さ2.5m以上で分布。塊状の腐植質シルトからなり、上部は泥炭質で、下部は細粒砂を多く含む。全体に木片を多く含む。トレンチ南東法面のS17付近より南西側〜南西法面の南東側に、層厚60cm程度で分布し、南西法面の北西側ではWd層に削剥されている。

Wf層:砂質シルト

We層と同様に、南東法面の南西端および南西法面の南東側に分布する。層厚30cm程度の砂質シルトからなる。木片を含む腐植質シルトをレンズ状に挟み、下部では腐植質シルトと細粒砂が細互層している。

Wg層:礫層

 南西法面の中央部下端にのみ分布する。礫層と中粒〜粗粒砂との互層からなる。礫層には径1〜2cmのチャート、緑色岩、頁岩の亜円〜亜角礫を含む。本トレンチで認められる最も下位の地層。

b.地層の年代

[火山灰同定]

試料(Iz−Tr−T1):珪藻などの植物遺骸を主体とし、火山ガラスをほとんど含まない非火山性の堆積物である。火山ガラスの含有量は0.01%以下である(50gの湿潤重量を有する試料をすべて前処理し、残存したガラス片は0.005g以下であり、風化によって粘土化したガラス片も確認できなかった)。ちなみに、極少量含まれる火山ガラスは、形態がバブルウォール〜パミスタイプで、屈折率は14979−1.5024(モード:1.501−1.503)である。Spfl(支笏軽石流堆積物)ないしはSpfa−1に類似する。

14C年代測定]

泉郷地区(嶮淵川沿い)トレンチのIz−Tr−C3(1,000±60yBP)およびIz−Tr−C4(3,820±70yBP)は、テフラの年代と比較して妥当である。Iz−Tr−C5(6,000±70yBP)は、En−aの下位に位置していることから、明らかに新しすぎる。Iz−Tr−C6(21,650±140yBP)は、テフラの年代と比較して妥当であるが、測定した試料が、Va層中の腐植ブロックであることから、Va層の堆積年代よりもやや古い可能性が考えられる。Iz−Tr−C7(22,470±220yBP)は、テフラの年代と比較して妥当である。

c.イベント層準及び地層の変位量

@イベント層準

トレンチ内ではT層下部、Va層中、Wa層堆積直後の3層準にイベントが確認された。確認されたイベント層準を図3−3−11に示す。

T層下部のイベントは、軽石層(En−a)とT層下面の擾乱およびT層中の軽石層(Ta−a)の下位の泥炭層中に挟在する砂層薄層によって確認される。この時期については、En−a(15〜17BP)の降下後〜Ta−a(1739AD)降下前の時期に推定されるが、さらに詳細な時期については、Iz−Tr−C4の[14C年代(3,820±70)〜Iz−Tr−C3の[14C年代(1,000±60)の間に推定される。ただし、軽石層(En−a)の擾乱を伴う本イベントについては、インボリューションの可能性も考えられることから、本イベントの確実度は低い。

Va層中のイベントは、下位の腐植質シルト〜細粒砂からなるWa層の撓曲に伴ってWa層中に開口割れ目が生じ、上位のVb層及びVa層の下部層が割れ目に沿って流入していることから推定される。また、トレンチ北東側にみられるVa層中のすべりは、この撓曲に伴って生じたことも考えられる。このイベントの時期については、下位のWd層に含まれるSpfl(31〜34kyBP)の堆積後〜U層のEn−a軽石(15〜17kyBP)の降下前の間に推定されるが、さらに詳細な時期については、Iz−Tr−C6の14C年代(21,650±140yBP)以降に推定される。ただし、この[14C年代値は,Va層中に礫状に含まれる腐植質シルトから得られた年代であるため、Va層の堆積年代よりもやや古い可能性もある。なお、本イベントは、上記のT層下部のイベントと同時に生じたことも考えられるため、イベントの確実度は低い。

Wa層堆積直後のイベントは、Wa層の撓曲と撓曲部東側でのVd層のブロック状の堆積とVc層のプリズム状の堆積によって確認され、確実度が高い。Wa層は、この時期の断層活動と前述のT層下部またはVa層堆積期の断層活動の複数回の撓曲を受けたものと推定される。本イベントを生じた断層活動では、Wa層の変形は、トレンチ南西側のWa層上面と北東側のVc層の上面がほぼ同じレベル程度までであったと推定される。また、このイベントの時期については、下位のWd層に含まれるSpfl(31〜34kyBP)の堆積後〜上位のU層のEn−a軽石(15〜17kyBP)の降下前の間に推定されるが、さらに詳細な時期については、z−Tr−C7の[14C年代(22,470±220yBP)〜Iz−Tr−C5の[14C年代(6,000±70yBP)の間に推定されるが、Iz−Tr−C5試料を採取した層準はU層(En−a)の下位に位置することから、得られた[14C年代(6,000±70yBP)は明らかに新しすぎる。Iz−Tr−C5試料は腐植質シルトで,常に低地側の地下水位下にあったことが推定されることから,地下水の流動によって二次的、新しいフミン酸が加わった可能性が考えられる。したがって、このイベントの時期については、Iz−Tr−C7の14C年代(22,470±220yBP)〜Va層から得られたIz−Tr−C6の14C年代(21,650±140yBP)の間に推定される。

A地層の変位量

泉郷地区(嶮淵川沿い)のトレンチに分布する地層の変位量を図3−3−11に合わせて示す。

図3−3−5 千歳市泉郷地区トレンチ調査箇所(嶮淵川沿い)の位置図と測量図

図3−3−6 嶮淵川沿いトレンチの作業状況写真集

図3−3−7 嶮淵川沿いトレンチの法面写真その1(北面・南面)

図3−3−8 嶮淵川沿いトレンチの方面写真その2(西面・北面)

図3−3−9 嶮淵川沿いトレンチのスケッチ・解釈図(展開図)

図3−3−10 嶮淵川沿いトレンチ試料採取位置図

図3−3−11 嶮淵川沿いトレンチの断層活動のまとめ