岩見沢市緑が丘地区のピット掘削位置を図3−1−3−1に示す。
ピット掘削地点は、丘陵との境界付近にある標高30m程度の平坦面(北海道による平成10年度石狩低地東縁断層帯に関する調査報告書による最下位段丘面)に位置している。ピット掘削地点から北方の丘陵地内においては、明瞭なリニアメントが確認されているが、掘削地点の平坦面上ではリニアメントは不明瞭となっている。本調査において掘削したピット位置は、既往調査(ボーリング調査及び浅層反射法地震探査)によって推定された新第三系中の断層および調査地北方の丘陵地に確認される明瞭なリニアメント等を考慮して検討した。検討の結果、第四系中に断層が存在するならば、既往ボーリング孔のM−2孔とM−3孔の間に存在する可能性が最も高いため、これをカバーする範囲に長さ20m×幅5m×深さ4mのピットを掘削した。ピットの位置及び形状を記入した縮尺1/200のピットとその周辺の実測平面図を図3−1−3−1の右欄に示す。
なお、ピット掘削時に地下水による湧水はほとんど認められなかった。
ピット調査に先立って平成10年度に実施されたボーリング調査によると、本調査地点には、リニアメント近傍の東側に新第三系中新統の追分層が、西側に鮮新統の清真布層(峰延層)が分布し、それらの地層を覆って更新統(段丘堆積物)が分布するとされている。なお,沖積層相当層は分布していない。新第三系の地質構造は、追分層の泥岩が50°程度で西側に、清真布層の砂岩が20°程度で傾斜する構造を示し、両者の間には西側上がりの低角逆断層が推定されている。
b.地層区分
ピット内に分布する地質は、既往ボーリング調査を参考にすると中〜上部更新統に対比され、火山灰質の粘土〜シルト、シルト、砂質シルト、泥炭層等からなる。これらの地層を層相によって、上位の地層からT〜Y層に区分した。本調査箇所では、ピット法面のスケッチを北面のみ80uについて実施した。ピット調査の作業状況を図3−1−3−2(写真)に、ピット法面のスケッチ・解釈図を図3−1−3−3に示す。
以下に岩見沢市緑が丘地区ピット内に分布する各地層の層相等について記載する。
T層:耕作土
層厚20〜40cm程度の暗褐色の腐植質シルトからなる。下部に径2〜10cmのシルト塊を含む。
U層:黄灰色〜赤褐色シルト
本層は上面からの酸化が進み、全体に黄灰色〜赤褐色を呈す。網目状の植物根跡に灰色粘土が流入している。下位層との境界は漸移的であるが、軽石含有量が異なる。インボリューションは認められない。
V層:軽石混じり砂質シルト(Spflリワーク)
本層の上部は酸化が進み、黄褐色を呈す。下部は緑灰色を呈す。径0.2〜0.3mm程度(最大1.5cm)の繊維状に良く発泡した軽石(Spfl)を10%程度含む。基質は砂を含む極細粒の火山灰質シルトである。全体に淘汰が悪い。弱腐植質層及びシルトの薄層をレンズ状に挟み、葉理がみられる。インボリューションを受け、擾乱されている。
W層:砂質シルト
上部は塊状の緑灰色の火山灰質シルトからなり、下部も同様の火山灰質シルトからなるが、淘汰が悪く中粒砂を多く含む。最下部には自形の有色鉱物を多く含む中粒〜粗粒砂が薄く分布する。また、中部には火山灰質粘土の薄層をレンズ状に挟む。インボリューションが著しい。
X層:強腐植質シルト〜泥炭
黒褐色〜灰褐色の強腐植質の泥炭〜シルトからなる。数cmから最大1mまでの木片を多く含む。下部に径1mm以下の白色軽石が層状に散在する。インボリューションが著しい。
Y層:弱腐植質粘土〜シルト
灰色〜暗灰色の塊状の粘土及びシルトからなる。径1〜2mmの軽石を少量含む中粒砂の薄層を不規則レンズ状に挟む。
c.地層の年代
[花粉分析]
岩見沢市緑が丘地区ピット壁面の10mラインから採取した次の5試料について、花粉分析を行った。Mg−pt−P−1(泥炭層上面から10cm上の有機質火山灰)、Mg−pt−P−2(泥炭層上面)、Mg−pt−P−4(泥炭層上面から20cm下)、Mg−pt−P−6(泥炭層上面から40cm下)、Mg−pt−P−10(泥炭層上面から80cm下)でP−1を除いて黒色泥炭である。
分析方法は以下のとおりである。
@試料10gに10%苛性カリ溶液を加え、80℃の湯煎中で約1時間加熱して、泥炭中のフミン酸を溶解させる。
A苛性カリ液を除去し、5回水洗いをする。
B試料に等量の酢酸を加え、10分間湯煎で加熱した後、酢酸をのぞき、無水酢酸:硫酸の9:1混合液によるアセトリシス処理を行い、試料中の有機質を除去する。水洗いを3回行う。
C試料に等量の塩化亜鉛の飽和溶液(比重2)を加え、よく撹拌した後、1時間遠心分離する。 D等量のフッ化水素を加え、よく撹拌した後、1昼夜ドラフト内に放置し、試料中の珪酸を溶かす。
E溶液の表面に浮いた花粉その他の有機物を回収し、沈殿物は捨てる。その後、水洗いを3回行う。
F試料を蒸発皿にあけ、水を加えて撹拌し、10分おいた後、上澄みを液を捨てる操作を数回繰り返す。
G試料の水分を取り除いた後、グリセリンゼリーで封入してプレパラートを1試料について5枚作成した。なお、試薬の除去や水洗いは遠心分離器(2,000回転/分)により行った。
H作成したプレパラートは、400倍の光学顕微鏡で検鏡し、木本花粉が最低200個に達するまで数え、その間に検出された草本花粉、胞子を同定した。産出率は、木本花粉の総数を基数として計算した。結果はスペシーズチャート(表3−1−3−2)と花粉・胞子組成図(図3−1−3−4)に示した。
分析結果と考察は以下のようになる。
木本花粉群の特徴により、下位から1帯と2帯の花粉帯に区分した。両帯を比較すると、1帯ではエゾマツ/アカエゾマツが60〜70%を占め、グイマツは20%以下であるのに対し、2帯ではグイマツが50%を超し最も高率となり、エゾマツ/アカエゾマツ、トドマツは減少している。ほかに1帯では、低率ながらツガ属、スギ,ニレ属、クルミ属などの冷温帯要素を伴い、トドマツも2帯よりやや多い。また、湿原要素のツツジ目、ミズゴケ属を伴う。これに対し、2帯では冷温帯要素は全く含まない。両帯ともカヤツリグサ科、ヨモギ属、キク亜科を除いて非木本類は少なく、花粉胞子全体に占める木本花粉の割合は約80%に達しており、森林が成立したことを示す。1帯期で湿原の発達も推定される。
これらの花粉群と現在のサハリンの表層花粉(五十嵐ほか,1993;五十嵐・五十嵐,1998)を比較した結果、1帯期の植生は現在のサハリン中部のエゾマツ−トドマツーグイマツ林に、2帯期の植生は北部サハリンのグイマツ−エゾマツ林に対比される。
したがって、有機質火山灰の堆積期(2帯)は泥炭層の堆積期(1帯)より気候がより寒冷・乾燥したと推定される。激しい周氷河現象(インボリューション)がV層堆積後に生じ、下位の泥炭層を巻き込んでいることは、2帯堆積期がより厳しい気候下にあったことと調和する。
北海道北東部においては、化石周氷河現象が35,000yBP〜Ta−d(8,000〜9,000yBP)まで認められており、不連続永久凍土が発達したとされている。(Nogami et al.,1980)。石狩低地帯では、インボリューションの多くがSpfa−1に生じていること、本地点の火山灰が岩相からみて、支笏火山系統のテフラの二次堆積物の可能性が高いことから、2帯堆積期は最終氷期極相期(25,000〜15,000yBP)の可能性が考えられる。なお、1帯堆積期は極相期以前の亜間氷期の可能性がある。
[14C年代測定]
ピット内の9mライン付近の泥炭中にはさまれる泥層の中の木片(試料番号Mg−Pt−C9)について14C年代測定を行った。その結果は表V1.●3−2に示すようである。49,500±1,700yBPの測定値は,花粉分析の結果とも整合し、妥当である。
以上の花粉分析結果、14C年代測定結果などから、ピット内のD〜V層の年代はほぼ最終氷期の中〜後期(6〜2万年前)とみなされる。
d.断層活動
平成10年度「石狩低地東縁断層帯に関する極浅層反射法地震探査およびボーリング調査」報告書(委託先:株式会社ダイヤコンサルタント、以下平成10年度報告書)によると、M−3孔とM−4孔の間に新第三系を切る断層が推定されている。また、この断層上方の第四系への延長については、反射法地震探査結果及びボーリング調査結果から、新第三系上限面に大きな高度差が認められないこと、ボーリング調査結果から、深度5m付近に分布する洞爺火山灰(Toya)に明瞭な高度差が認められないことから、調査地の断層は新第三系にのみ存在する可能性が高く、少なくとも洞爺火山灰降下以降に活動した可能性は低いと判断していた。
ピット内に分布するW層〜X層はインボリューションが著しく、最大80cm程度上下している。そのため断層による比高1m程度の変形は検出が困難となっている。しかし,インボリューションによって形成されたと推定される波長3m程度の上下動を除く地層の大局的な分布はほぼ水平であることから、断層による系統的な変位がこれらの地層に及んでいる可能性は低いと判断される。しかしながら、予想される変形が1m程度と僅かであるため、必ずしも断層の活動は否定できない。断層位置の特定とともに、第四系上部層の微少な変位・変形の有無を確認する必要がある場合には、既往ボーリングの間に基盤岩に達するボーリングを密に掘削する必要があると思われる。
図3−1−3−1 岩見沢地区ピット箇所(緑が丘)の位置図と測量図
図3−1−3−2 緑が丘ピット箇所の作業状況写真
図3−1−3−3 緑が丘ピット法面写真およびスケッチ・解釈図(試料の採取位置・測定結果も示す)
図3−1−3−4 緑が丘ピット花粉分析結果(花粉・胞子組成図)
表3−1−3−2 緑が丘ピット花粉分析組成表(スペーシーズチャート)