探査測線の測量結果を表3−2−2−6に,探査測線位置図を図3−2−2−8に示す.測線は,町道フモンケ線上の東側に設定した.道路は屈曲しているため,水準測量に加え,XY座標測量も実施した.測定点間隔は2mであるが,畑の出入口等のために受振器を置けない箇所や測線に対して直交方向にオフセットをつけて受振器を置いた箇所もあった.その詳細は巻末の観測野帳に記載している通りである.受振器は,全て直接地面にスパイクで固定したが,表層付近が凍結していたため,事前にタガネなどで地面に穴をあけて固定した.また,日中はゆるんだ地面に受振器を差し直す必要が生じた箇所もあった.発振は舗装道路上で行ったが,朝は舗装上に氷着していた.氷上での発振では極端に品質低下が認められたため,ガスバーナーで発振点付近を熱し,氷を溶かして発振を行った.震源プレートは泉郷地区とは異なり,舗装道路用フラットプレートを使用した.車両通行は少なく,全般的に車両ノイズは問題なかった.
なお,探査測線および探査の状況を図3−2−2−9、図3−2−2−10、図3−2−2−11に示す.
A測定仕様
本測定に先立ち,発振周波数,垂直重合数,サンプリング間隔等のパラメーターを決定するために,パラメーターテストを実施した.表3−2−2−5に採用した測定パラメータを示す.
図3−2−2−12に代表的な測定記録の例を示す.測定記録上では,それほど明瞭ではないが,反射波がいくつか識別できる.
Bデータ処理結果
データ処理で用いた各種フィルター等のパラメータを表3−2−2−7に示す.処理結果は,マイグレーション前時間断面図,マイグレーション後時間断面図,マイグレーション前深度断面図,マイグレーション後深度断面図として解析した.
測線は屈曲しているため,受振点と発振点の中点を示す共通反射点(CDP)は現地測線上からはずれるところが生じた.したがって,CDPが分布する地点に仮想ラインを定義して処理を行い,図3−2−2−13にCDPマップと仮想ラインを示す.反射断面図は,仮想ラインの直下の断面であるため,図に示された距離程は仮想ラインから最も近い現地測線距離(m)を示していることに注意する必要がある.
C反射イベントの分布状況
図3−2−2−14にマイグレーション前後の時間断面図を示す.縦軸は時間表示である.
時間100ms程度までは,ほぼフラットな反射イベントがいくつか見受けられる.測線の前半部(南西部)では,それらは断続的になっているが,測線後半部(北東部)では比較的連続している.この反射パターンの変化より,浅層部に分布する地層の性状が測線の前半部・後半部で異なる可能性があると考えられる.
時間100〜300ms付近には,強い反射イベントが認められるが,測線前半部と後半部ではその反射面の傾斜が異なっているのが分かる.測線前半部では南西下傾斜を示すが,後半部ではほぼフラットに近い.したがって,測線上250m付近に何らかの構造異常があると推察される.また,これらの反射イベントは測線の南西端および北東端で不明瞭となっている.測線南西端付近では,反射イベントが南西傾斜を呈していることから,マイグレーション処理により反射面が北東側に移動することに起因して不明瞭になっている(マイグレーション前の断面図では見かけ傾斜の反射イベントが測線始端にも分布する).一方,測線北東端付近では,反射イベントはほぼフラットであることから,上述した現象の影響はない(マイグレーション前の断面図でも不明瞭).そのため,測線北東端では,以下の3つの現象がその原因と考えられる.
@)地下に強い反射波を形成する反射境界がない.
A)地下に反射境界はあるものの,時間0〜100ms程度に明瞭な反射イベントがいくつか存在するために,測線の前半部より透過する波動エネルギーが弱くなって,結果的に反射波を抽出することができなかった.
B)測線上400m付近の時間400ms程度に北東傾斜の反射イベントが見受けられ,また,測線上440m付近の時間20〜30msに分布する反射イベントが乱れていることなどから,断層などの何らかの構造異常がある.
これら3つのうち,Bの可能性が高いと考えられるが,現段階では判断が難しい.
時間300ms以降は,明瞭に識別されるイベントは見受けられない.
D地質構造解釈
図3−2−2−15に深度断面図を示す.縦横比は1:1である.また,深度断面図に地質解釈を加えた地質構造解釈図を図3−2−2−16に示す.
標高0〜−10m付近に強い反射面が認められる.調査地からほど遠くない東側丘陵部には,新第三系の萌別層や軽舞層が分布していること,強い反射面であることなどから,この反射面は第四系と第三系の地層境界に対応するものと考えられる.
既存資料によれば,調査地区の第四系は,段丘堆積物,洪積世末および現世の噴出物と考えられる火山灰および沖積氾濫原堆積物より構成されている.
速度解析では,この強い反射面までの重合速度は300〜450m/sの速度値が得られ,測定記録の屈折解析(ほぼ直接波と見なせる第1速度層)でも同程度の速度値が求められている.したがって,標高0〜−10m付近に分布すると考えられる第四系は,比較的砂礫質な堆積物より構成されているものと考えられる.
前項の分布状況で,表層付近の反射面のパターンが測線前半部と後半部で異なっていることを示し,表層付近の地層分布に変化がある可能性を指摘した.地形地質調査のV.1.3に示す踏査結果によれば,測線上250〜400m付近の表層地質は沖積面1(a1)に,それ以外は沖積面2(a2)に区分されている.沖積面1の分布範囲は踏査結果と多少異なるが,表層付近の反射パターンの変化は,沖積面の区分を示唆している可能性が高いと判断される.また,速度解析結果では,測線前半部に比べてわずかであるが,後半部の方が速度が速くなっており,物性的にも異なる兆候が認められる.
前項で,強い反射面の傾斜の変化から,測線上250m付近の地下に構造異常の可能性を示した.踏査結果によれば,測線300〜400m付近の北側に撓曲崖が確認されており,馬追断層や嶮淵断層などが想定されている.したがって,この反射面の傾斜変化は断層活動などによる可能性が高い.また,測線325m付近の表層付近の反射面に乱れが認められる.この乱れが断層に関連するものと仮定すると,断層の活動様式は低角な逆断層と推定される(図中の赤色破線).
一方,新第三紀層の上面境界に対比される反射面は,測線北東端部で不明瞭になり,前項でその原因として@〜Bの可能性を示した.測線上440m付近の表層付近の反射面に乱れが生じていることやそれより下位の反射面が測線上360m付近で突然不明瞭になること,さらには測線350〜400m付近の標高−30m付近に北東傾斜の反射面が見受けられることなどから,測線北東端付近にも馬追断層や嶮淵断層などに関連した断層が存在する可能性がある(図中の赤色点線).ただし,反射面が明瞭でないことや測線端に当たることなどから,原理的にやや信頼性が低下していることに注意する必要がある.
標高−50m以深では,有意な反射面は見受けられない.現地測定記録では,直接波・屈折波が概ね200m程度離れた受振器まで届いていたことから,深度約100m程度までの反射データは取得可能と考えられる.したがって,標高−100m付近までは新第三紀層内に明瞭な反射境界はないのではと推察される.
ボーリング資料がないため,反射パターンや速度解析結果および地表踏査結果などを参考に地質解釈を試みた.断層の有無や様式を含めた詳しい地質構造を把握するためには,測線全般にわたる群列ボーリングを計画・実施する必要があると思われる.