(2)空中写真判読

空中写真による地形面判読をおこない,断層リニアメントを確認した.地形面と断層リニアメントを活断層図(図3−1−3−4)に示す.

なお,本地域は火山灰が広範囲に厚く被覆することから,地形面から判読される旧汀線高度と堆積物が示す旧汀線高度にはかなりのズレが生じることが予想される.したがって,地形面から判読された旧汀線高度については,見かけの旧汀線高度とよび,実際の旧汀線高度とは区別することにする.高度のよみは,25,000分の1地形図に,空中写真で判読した地形面を投影した後,2,500分の1早来町都市計画平面図(等高線2m間隔)で正確な標高を読み取った.

(1)地形面区分

本地域の地形面は,分布高度から,高位より更新世のt1面,t2面,t3面,t3面t4面,の5段と扇状地形をなすf面,および完新世のa1面,a2面の2段に区分される.

t1面

標高約80m〜100m(一部120mまで)に分布するもっとも高位の面である.標高130m以上の山稜の周りを開析する.なお,開析の著しい所は,平坦面は失われ,稜線となっている.周辺をが進んでいるが平坦な地形面をなす.

地形面は,早来町コロイ山麓〜自衛隊東千歳駐屯地にかけてNNWのトレンドをなし,面の高度もほぼ一定であることから,海成面と考えられる.早来町のオークウッドゴルフ場では,山稜地形にやや回り込む分布を示し,河成面に移行している可能性がある.

コロイ山麓における見かけの旧汀線高度は,100mである.

分布高度からみて,松野・石田(1960)の第U面,藤田・石狩低地帯研究会(1967)の高位面に対比されると考えられる.

t2面

早来カントリークラブゴルフ場では,t1面にほぼ平行するNNWのトレンドを持つ.また,その北方延長のユニオンジャックゴルフ場,早来町富岡の丘陵地に同様のトレンドをもつ.この付近の分布高度は約60〜70mである.本面は,さらに早来町市街より内側,安平川およびニタッポロ川沿いの両岸にも広く分布する.分布高度は,40〜50mである.低地側の分布高度が20mほど高いのは,馬追断層などの活断層の影響があるのかもしれない.

最も広く分布する平坦な地形面であることから,海成面と考えられる.また,t1面の分布から,t2面形成時にはコロイ山より北方のNNW方向の山稜は既に存在し,安平川がバイパスになっていたと考えられる.したがって,安平川およびニタッポロ川周辺の本地形面は,内湾環境で形成された地形面と考えられ,早来町の新栄・北町・栄町付近は外洋と内湾とをつなぐインレットinletの環境であったと考えられる.コロイ山麓および陸上自衛隊早来分屯地より西側における見かけの旧汀線高度は,66mである.

松野・石田(1960)の第V面,藤田・石狩低地帯研究会(1967)のニタッポロ面に対比されると考えられる.

t3面

丘陵地の標高約20〜40m付近にT2面の前面に狭長だが平坦な地形面をなす.

安平川およびニタッポロ川付近にも小規模だが分布する.見かけの旧汀線高度は,38mである.

松野・石田(1960)の第W面,藤田・石狩低地帯研究会(1967)の美里面に対比されると考えられる.

t3面

t3面は,丘陵地斜面を沢(チャネル)地形で侵食した谷床面である.地形は,途中で失われているのがほとんどで,地形の保存状況から考えるとt4面より古い可能性があることから,t3とした.

t4面

標高20m付近の河成面である.で削りt4面に被覆する扇状地形をさす.

t4面は,鶴の湯温泉の付近では,t2およびt3面を蛇行侵食する地形面で,分布は小規模だが,同様の高度を示す分布は早来駅付近の市街地からニタッポロ川まで分布する.

藤田・石狩低地帯研究会(1967)の下安平面(15〜20m)は海成層であり,t4面と分布高度が類似するものの対比はできない.なお,松野・石田(1960)はこの面を認識していない.

f面

t2およびt3面を沢状に開析する谷床面とその下流に連続する扇状地面をさす.谷床面はt 3面よりも新しく,扇状地面はt4面を覆う事からt4面よりも新しい地形面と判断される.

a1面

フモンケ川沿いの馬追断層のリニアメント近傍にのみ分布する.a1面よりやや高い(1.5m程度?)の完新世の地形面である.活断層のリニアメントに近接していることから,活断層の撓曲運動によって,局部的に露出した地形面と考えられる.

a2面

河川沿いの谷床面から沖積低地面に連続する完新世の面である.フモンケ川沿いでは,T2面,T3面,T4面のすべてを深く開析する.

米軍の写真には,a2面上に今では旧河川跡となっている蛇行河川がみられる.

(2)地形面とリニアメント

リニアメントの位置を活断層図(図3−1−3−4)にしめす.また,活断層を横切る方向での地形断面を作成した.断面位置を図3−1−3−2に,地形断面を図3−1−3−5に示す.断面は,馬追断層のリニアメント通過地点を基準にそろえた.

馬追断層

リニアメントは,NNWの走向の逆向き低断層崖の形態をとる.北方では2列〜3列に分かれ,NSの走向に分岐する(図3−1−3−4).

リニアメントの前後では,t1面,t2面,t4面,t4面の各地形面を変位させている.フモンケ川中流の富岡地区では,完新世のa1面とa2面との境界にリニアメントが通過する(図3−1−3−4).a1面側がa2面より高いのは,その他の逆向き低断層崖の地形と調和的である.

以上の変位様式から,馬追断層は,複数の異なる地形面を系統的に変位させている活断層であり,NNW走向で西傾斜の逆断層運動によって形成されたと考えられる.

また,a1とa2面の境界にみられたリニアメントは,それよりやや南方のa2面には見られないことから,最新のイベントはa1面形成以降a2面形成前の期間に限定される.

嶮淵断層

馬追断層のような明瞭な逆向き低断層崖はみられず,逆向きの撓曲と地形面を波状褶曲させる変位地形が確認される.褶曲の波長は,200m程度であり,短波長の複褶曲の形態をとる.

背斜軸は,雁行状をなし,t2およびt3面に波状褶曲が認められるものの,t4およびt4面以降の地形面に変位は見られない.

嶮淵断層は,リニアメントが不明瞭で,明確な断層崖をもたず,t4およびt4面以降に変位がみられないことから,現在,活断層であるにしても活動度が極めて低いか,t4およびt4面形成以降には活動していない可能性が高いと考えられる.